そのエラーはハンドリングできません

nao@そのエラー完結

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11月23日(金)

第17話

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 晩秋の朝は一層と冷え込み、ビルの合間から見える空も高かった。いつものようにフロアで一番に出社して、コーヒーを片手にメールチェックを行う。スケジュールを確認したものの、午後からM社に挨拶にうかがうぐらいの予定しか入っていなかった。

「おはようございます」

 時計をみれば、まだ始業時間の三十分前だった。いつもより早く出社した矢口に、笑顔で挨拶を返して、パソコンに向き直る。
 年明けからのチーム体制を伝えてから、矢口は以前よりも仕事に対してやる気に満ちているように見えた。プロジェクトが別々になることを伝えた手前、彼のモチベーションが下がるのではないかと懸念していたが、自意識過剰の杞憂に過ぎなかったのかもしれない。

「瀬川さん、今夜の約束は忘れていませんよね?」

 耳元で囁かれ、驚いて振り返る。至近距離で目が合えば、悪戯っぽい笑顔の男がいる。そういえば、今日は金曜日だった。週始めに休日出勤したせいか、曜日の感覚が少し鈍ってしまっていた。

「そうだったな。今夜の店は任せるよ」
「俺が何か作りましょうか?」
「料理できるのか?」
「ええ、まあ、普通にできますけど」

 普通とはなんだろうか。俺が作れる料理と言えば、チャーハンとかパスタぐらいなのだけれど。言われてみれば、先週、泊まったときも矢口が朝食を作ろうとしていたことを思い出す。

「外で食べたら楽じゃないか? 夕飯を用意するのは大変だろ?」
「そんなことありませんよ。本当のところ、俺は外食より、家めし派なんですよね。消費したい常備菜もありますし」
「なら、任せるけど」
「瀬川さん、嫌いな食べ物とかありましたっけ? 椎茸ぐらいですか?」
「よく覚えてるな」

 いつかの飲み会で、確かに椎茸が苦手だと言ったことがあったような気がする。まさか、そんな些末なことを覚えているとは思いもしなかった。
 矢口には得意気に口角を持ち上げている。

「おはようございます」

 他の社員も次々に出社してきたところで、矢口に目配せすると、小さく会釈をして、自席に戻っていった。
 
 そういえば、さっき矢口が言っていた「じょうびさい」というのは、なんだろうか。パソコンのブラウザを起動して、自動で漢字変換された「常備菜」を検索する。なんのことはない。作り置きのおかずのことらしい。とはいえ、矢口の生活力の高さに、思わず笑ってしまう。

「瀬川さん、楽しそうですね」
「……ッ……あはは、そうかな」

 有沢がニコニコしながら話しかけてきたので、慌ててブラウザを閉じて、苦笑いを浮かべてしまった。



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