そのエラーはハンドリングできません

nao@そのエラー完結

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11月23日(金)

第18話

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 重要な話は喫煙所で行われるものだ。と、入社当時によく先輩たちが嘯いていたのを思い出した。ガラス張りの狭い空間で煙を吸っていれば、必然的に居合わせた人間たちでの会話を余儀なくされ、部署や世代を跨がった独自のコミュニティが生まれる、といったものだった。
 昨今では、喫煙者への世間の風当たりは冷たいもので、肩身は狭くなる一方だ。それでも「明日から禁煙する」なんて宣言しては、すぐに煙たい部屋に戻ってきてしまうニコチン中毒者に、俺なんかは安堵してしまう。

 M社への挨拶が終わって、帰社すると篠田マネージャーに煙に誘われた。一服しながら他愛のない雑談に花を咲かせていると、社用車を所定の位置へ停めてきた吉田が、頭を下げて入ってくる。

「ああ、先ほどはどうもです」

 ヘラヘラした男は、煙草を口に加えてライターを探している。仕方なく、ライターに火をつけてやると、煙草の先が寄せられた。

「吉田くん、M社への付き添いありがとう」
「とんでもないです。挨拶回りは営業部の仕事ですから。こちらこそ、篠田マネージャーに来てきただけて感謝しています。私と瀬川だと、どうにも締まりませんからね」

 ケラケラと笑う吉田に、篠田マネージャーと顔を見合わせて、小さく笑い合う。

「そういえば、瀬川、俺と呑みに行く話どうなったんだよ」
「そういえば、そんなこと言ってたな」

 すっとぼけて紫煙を吐き出すと、吉田が肩をぶつけてくるものだから、思わず吹き出してしまった。

「へー、瀬川くんと吉田くんは仲良いんだな」
「瀬川とは同期なんですよ」
「そうか。そういえば、君たちは同期だったか。楽しそうでいいな」
「篠田マネージャーも一緒にどうですか?」
「それは、もしかして財布がほしいってことかい?」
「あはは、バレましたか?」
「吉田、調子に乗りすぎだ」

 すぐに調子に乗る吉田を窘める。篠田マネージャーが面白そうに笑い出す。

「いいよ。今回は、君たちが、よくやってくれたらかね。吉田くんとも呑んでみたいと思っていたし」
「お、ノリがいいですね」
「じゃあ、今日の八時ぐらいからどうだ?」

 吉田が嬉しそうに二つ返事する。俺も釣られて返事をしそうになって、今夜の予定を思い出した。

「今夜ですか?」
「瀬川くん、何か予定でもあるのかい?」

 吉田が、まさか、断ったりしないだろう、と目で訴えてくる。

「いや、大丈夫です。ちょっとした野暮用なので調整しますよ」
「そうか、じゃあ、たまには美味いもの食わせてやるか」
「ご馳走様です」

 上機嫌の二人に話を合わせてしまった。矢口になんて言おうか。上司からの呑み誘いだ。断れないのは、会社員なら当然なんだから、わかってくれるはずだ、と考えるのは、少し浅はかだろうか。



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