22 / 95
11月23日(金)
第20話
しおりを挟む
時刻は七時を過ぎた頃だった。フロアを見渡せば、残っているのは矢口と有沢だけになっていた。そんな彼らもノートパソコンを閉じて、帰宅の準備を始めている。
「矢口さん、これから、第三グループの女の子たちと呑みに行くんですが、よければご一緒にどうですか?」
有沢が上目遣いで笑いかける。矢口が一瞬こちらに視線を寄越した。
「それって女子会だろ? 俺が行くと邪魔じゃないかな?」
「それは大丈夫です。というか、あの子たちが矢口さんのことを誘えってうるさくて。助けると思って、お願いできませんか?」
甘えた声でお願いする女の子は可愛い。第三グループには、若い女子社員が三名はいた。全員がフリーというわけではないだろうけど、そんな飲み会に誘われるなんて、羨ましい限りだ。矢口はやはり女子社員からも人気があるのだと、改めて感心する。
俺が若い二人のやり取りを眺めていたことに、有沢が気がついたようで、こちらに笑顔を向ける。
「あの、瀬川さんもご都合よろしければ、どうですか?」
「俺は先約があるから、遠慮させてもらうよ。誘ってくれてありがとう」
にこりと微笑むと、有沢は「残念です」と、わざとらしく落ち込む仕草をする。どうやら、気を使わせてしまったらしい。矢口はというと、やや迷惑そうな顔をしている。女子社員に誘われて、その顔はあんまりだろう。
「楽しそうだし、行ってきたら?」
助け船を出すと、矢口が物言いたげに、こちらに視線を寄越した。けれど、すぐに笑顔をつくりだす。
「それじゃあ、ちょっとだけ参加しようかな」
「よかったです。みんなに報告してきますね」
瞳を輝かせて、有沢が足取り軽くフロアを出ていく。矢口は溜め息を吐いて、黒いビジネスコートを羽織る。
「瀬川さん、待ってますからね」
「ああ、でも、そっちの方が遅いかもしれないな」
「終わったら連絡します」
早く行けと、ヒラヒラと手を降ると、矢口は会釈して、フロアを出て行った。
入れ替わるように、篠田マネージャーがフロアに入ってくる。
「瀬川くん、一緒に出ようか」
「ああ、はい」
フロアの最終退出の手続きを済ませて、コートを羽織る。吉田に電話すると、三十分ほど遅れるから、先に始めてほしいとのことだった。
篠田マネージャーと連れだって会社を出れば、冷たい風が頬を撫でる。
「お店の予約、お任せしてしまってすみません」
「いや、俺が行きたい店があったからな」
少し歩いてタクシーを拾う。篠田マネージャーを先に乗せて、自身も乗り込もうすると、反対側の歩道に目がいった。若い女性三人に囲まれて、笑顔で話をしているイケメン。とても楽しそうで、若々しくて、輝いて見えた。そして、それが、とても自然なことのように見えた。
「瀬川くん、どうかしたかい?」
「いえ、なんでも」
タクシーに乗り込んで、運転手に行き先を伝える。上手く笑顔がつくれずに、窓の方に顔を向ければ、街はクリスマスのイルミネーションがキラキラと楽しげに輝いている。
「やっぱり何か予定あったんじゃないのかい?」
少し不自然だったようで、篠田マネージャーから声がかかる。ふっと息を吐いて、改めて笑顔をつくって振り返る。
「いえ、大丈夫ですよ。楽しみです」
「それならいいけど」
篠田マネージャーは上機嫌だった。同じレベルに自身のテンションをあげていく。
もし、この誘いを断っていたら、今頃、矢口と夕飯を一緒に口にしていた頃だろうか。なんて、自分でダメにしておきながら、そんなことに思いを馳せてしまった。
「矢口さん、これから、第三グループの女の子たちと呑みに行くんですが、よければご一緒にどうですか?」
有沢が上目遣いで笑いかける。矢口が一瞬こちらに視線を寄越した。
「それって女子会だろ? 俺が行くと邪魔じゃないかな?」
「それは大丈夫です。というか、あの子たちが矢口さんのことを誘えってうるさくて。助けると思って、お願いできませんか?」
甘えた声でお願いする女の子は可愛い。第三グループには、若い女子社員が三名はいた。全員がフリーというわけではないだろうけど、そんな飲み会に誘われるなんて、羨ましい限りだ。矢口はやはり女子社員からも人気があるのだと、改めて感心する。
俺が若い二人のやり取りを眺めていたことに、有沢が気がついたようで、こちらに笑顔を向ける。
「あの、瀬川さんもご都合よろしければ、どうですか?」
「俺は先約があるから、遠慮させてもらうよ。誘ってくれてありがとう」
にこりと微笑むと、有沢は「残念です」と、わざとらしく落ち込む仕草をする。どうやら、気を使わせてしまったらしい。矢口はというと、やや迷惑そうな顔をしている。女子社員に誘われて、その顔はあんまりだろう。
「楽しそうだし、行ってきたら?」
助け船を出すと、矢口が物言いたげに、こちらに視線を寄越した。けれど、すぐに笑顔をつくりだす。
「それじゃあ、ちょっとだけ参加しようかな」
「よかったです。みんなに報告してきますね」
瞳を輝かせて、有沢が足取り軽くフロアを出ていく。矢口は溜め息を吐いて、黒いビジネスコートを羽織る。
「瀬川さん、待ってますからね」
「ああ、でも、そっちの方が遅いかもしれないな」
「終わったら連絡します」
早く行けと、ヒラヒラと手を降ると、矢口は会釈して、フロアを出て行った。
入れ替わるように、篠田マネージャーがフロアに入ってくる。
「瀬川くん、一緒に出ようか」
「ああ、はい」
フロアの最終退出の手続きを済ませて、コートを羽織る。吉田に電話すると、三十分ほど遅れるから、先に始めてほしいとのことだった。
篠田マネージャーと連れだって会社を出れば、冷たい風が頬を撫でる。
「お店の予約、お任せしてしまってすみません」
「いや、俺が行きたい店があったからな」
少し歩いてタクシーを拾う。篠田マネージャーを先に乗せて、自身も乗り込もうすると、反対側の歩道に目がいった。若い女性三人に囲まれて、笑顔で話をしているイケメン。とても楽しそうで、若々しくて、輝いて見えた。そして、それが、とても自然なことのように見えた。
「瀬川くん、どうかしたかい?」
「いえ、なんでも」
タクシーに乗り込んで、運転手に行き先を伝える。上手く笑顔がつくれずに、窓の方に顔を向ければ、街はクリスマスのイルミネーションがキラキラと楽しげに輝いている。
「やっぱり何か予定あったんじゃないのかい?」
少し不自然だったようで、篠田マネージャーから声がかかる。ふっと息を吐いて、改めて笑顔をつくって振り返る。
「いえ、大丈夫ですよ。楽しみです」
「それならいいけど」
篠田マネージャーは上機嫌だった。同じレベルに自身のテンションをあげていく。
もし、この誘いを断っていたら、今頃、矢口と夕飯を一緒に口にしていた頃だろうか。なんて、自分でダメにしておきながら、そんなことに思いを馳せてしまった。
5
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
優しく恋心奪われて
静羽(しずは)
BL
新人社員・湊が配属されたのは社内でも一目置かれる綾瀬のチームだった。
厳しくて近寄りがたい、、、そう思っていたはずの先輩はなぜか湊の些細な動きにだけ視線を留める。
綾瀬は自覚している。
自分が男を好きになることも、そして湊に一目で惹かれてしまったことも。
一方の湊は、まだ知らない。
自分がノーマルだと思っていたのにこの胸のざわつきは、、、。
二人の距離は、少しずつ近づいていく。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる