そのエラーはハンドリングできません

nao@そのエラー完結

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11月23日(金)

第20話

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 時刻は七時を過ぎた頃だった。フロアを見渡せば、残っているのは矢口と有沢だけになっていた。そんな彼らもノートパソコンを閉じて、帰宅の準備を始めている。

「矢口さん、これから、第三グループの女の子たちと呑みに行くんですが、よければご一緒にどうですか?」

 有沢が上目遣いで笑いかける。矢口が一瞬こちらに視線を寄越した。

「それって女子会だろ? 俺が行くと邪魔じゃないかな?」
「それは大丈夫です。というか、あの子たちが矢口さんのことを誘えってうるさくて。助けると思って、お願いできませんか?」

 甘えた声でお願いする女の子は可愛い。第三グループには、若い女子社員が三名はいた。全員がフリーというわけではないだろうけど、そんな飲み会に誘われるなんて、羨ましい限りだ。矢口はやはり女子社員からも人気があるのだと、改めて感心する。
 俺が若い二人のやり取りを眺めていたことに、有沢が気がついたようで、こちらに笑顔を向ける。

「あの、瀬川さんもご都合よろしければ、どうですか?」
「俺は先約があるから、遠慮させてもらうよ。誘ってくれてありがとう」

 にこりと微笑むと、有沢は「残念です」と、わざとらしく落ち込む仕草をする。どうやら、気を使わせてしまったらしい。矢口はというと、やや迷惑そうな顔をしている。女子社員に誘われて、その顔はあんまりだろう。

「楽しそうだし、行ってきたら?」

 助け船を出すと、矢口が物言いたげに、こちらに視線を寄越した。けれど、すぐに笑顔をつくりだす。

「それじゃあ、ちょっとだけ参加しようかな」
「よかったです。みんなに報告してきますね」

 瞳を輝かせて、有沢が足取り軽くフロアを出ていく。矢口は溜め息を吐いて、黒いビジネスコートを羽織る。

「瀬川さん、待ってますからね」
「ああ、でも、そっちの方が遅いかもしれないな」
「終わったら連絡します」

 早く行けと、ヒラヒラと手を降ると、矢口は会釈して、フロアを出て行った。

 入れ替わるように、篠田マネージャーがフロアに入ってくる。

「瀬川くん、一緒に出ようか」
「ああ、はい」

 フロアの最終退出の手続きを済ませて、コートを羽織る。吉田に電話すると、三十分ほど遅れるから、先に始めてほしいとのことだった。
 篠田マネージャーと連れだって会社を出れば、冷たい風が頬を撫でる。

「お店の予約、お任せしてしまってすみません」
「いや、俺が行きたい店があったからな」

 少し歩いてタクシーを拾う。篠田マネージャーを先に乗せて、自身も乗り込もうすると、反対側の歩道に目がいった。若い女性三人に囲まれて、笑顔で話をしているイケメン。とても楽しそうで、若々しくて、輝いて見えた。そして、それが、とても自然なことのように見えた。

「瀬川くん、どうかしたかい?」
「いえ、なんでも」

 タクシーに乗り込んで、運転手に行き先を伝える。上手く笑顔がつくれずに、窓の方に顔を向ければ、街はクリスマスのイルミネーションがキラキラと楽しげに輝いている。

「やっぱり何か予定あったんじゃないのかい?」

 少し不自然だったようで、篠田マネージャーから声がかかる。ふっと息を吐いて、改めて笑顔をつくって振り返る。

「いえ、大丈夫ですよ。楽しみです」
「それならいいけど」

 篠田マネージャーは上機嫌だった。同じレベルに自身のテンションをあげていく。

 もし、この誘いを断っていたら、今頃、矢口と夕飯を一緒に口にしていた頃だろうか。なんて、自分でダメにしておきながら、そんなことに思いを馳せてしまった。


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