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nao@そのエラー完結

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11月26日(月)

第28話

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 疲労が残ったまま、憂鬱な月曜日を迎えてしまった。始業前に、コーヒーを飲みながら、受信メールと自分のスケジュールをチェックする。年の瀬ということもあるのか、やたら飲み会のスケジュールが目立っている。

「おはようございます」
「ああ、おはよう」

 矢口は、笑顔で出社してきた。俺も普段通りに笑顔で返すことができた。会社でうまく振る舞えるか不安があったが、案外と取り繕えていることに胸を撫で下ろす。

「おはようございます」

 篠田マネージャーが颯爽と出社してきた。横目で追えば、トレンチコートをハンガーにかけて、ビジネスバッグをディスクに置いた。自席に座り、パソコンの電源を入れる。そうして、仕事に取り組む準備が整ったタイミングを見計らって、マネージャーの席へと出向いた。

「あの、金曜日はご馳走さまでした。記憶が少し怪しいのですが、ご迷惑をおかけしませんでしたか?」
「ああ、無理に呑ませて悪かったな。ほら、瀬川くん店のトイレで戻しちゃっただろ? 吉田くんが心配していたよ」
「え……かなりご迷惑かけたみたいで、すみません!」

 吉田から受信したメッセージは、帰宅できたかを確認するのような簡素なモノだった。寿司屋で酒を呑んでいて、吉田が遅れてきたところまでは覚えているが、その後の記憶がぼんやりとしている。何か可笑しなことを口走っていないか、不安に思っていたが、それどころではなさそうだ。

「まあ、これに懲りずに、また呑みに行こうな」
「ええ、でも、酒はちょっと自粛しますね」

 篠田マネージャーは、のんびりと微笑んだ。久しぶりにやってしまった粗相に打ちのめされながら、自席に戻る。

「金曜は、篠田マネージャーとご一緒だったんですね」

 有沢が興味津々といった顔で訊いてくるものだから、頭をかいた。

「ああ、寿司をご馳走になってね」
「へー、いいですね!」

 有沢と談笑していると、斜め前から声がかかる。

「瀬川さん、記憶がなくなるまで呑まれたんですか?」

 話に割って入ってきたというのに、矢口はパソコンから目を離さない。

「完全になくなってるわけじゃないけど、ちょっと怪しいかなぁ」
「大人なんですから、もう少し上手な呑み方をされたらどうです?」

 有沢と顔を見合わせる。

「なんだよ。矢口くんだって、呑み過ぎて記憶失くしたことあっただろ? どこかの優しい先輩が介抱してやったんだから」

 有沢が驚いた顔で、けれど、詳しい話を聞かせて欲しいと目を輝かせる。

「矢口さんの潰れたところなんて想像つかないですね」
「……それは、俺が新人の頃の話じゃないですか。瀬川さんはおいくつでしたっけ?」
「そうだな。気持ちは新人だから、永遠の二十二歳かなぁ?」

 矢口が頬を赤らめて拗ねたようにこちらに視線を寄越したので、思わず軽口を叩いてしまった。

「瀬川さん、さすがにそれは無理がありますよぉ」

 有沢はツッコミを入れながらも、コロコロと笑ってくれた。篠田マネージャーにも聞こえていたのか、くすりと鼻で笑われる。

「瀬川さんのことだから、金曜日は、てっきり彼女さんとデートかと思ってましたよ」
「残念。彼女なんてしばらくいないしな」

 彼氏はいるけど、なんて脳内でごちて、苦笑いしてしまう。篠田マネージャーの視線を感じて、横目で見ると、片眉を上げて、不思議そうな表情をしていた。意図がわからず、小首を傾げる。

「じゃあ、今度から遠慮なく呑みに誘いますね」
「ああ、都合つけば、いつでも」

 社交辞令でも、若い女子社員に誘われるのは悪い気がしない。もう三ヶ月もすると新人のカテゴリーから脱するとはいえ、未だフレッシュな雰囲気を纏う有沢は、大きな瞳をキラキラさせている。

「瀬川さん、お話し中のところ申し訳ありませんが、メールを送ったので確認してもらえませんか?」
「了解」

 矢口から声がかかったのを合図に、有沢が軽く会釈をして自席に戻っていく。急ぎの要件なのかと、俺もパソコンに向き直って、矢口からメールを確認した。けれど、メールの文面は、ただの業務連絡だった。

 送信元の男に視線を投げると、目が合った。矢口は、物言いたげに眉を寄せていた。



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