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12月14日(金)
第47話
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午後からのプロジェクト会議は一時間程度で終わった。
神戸での打ち合わせ結果を報告すると、あとはメンバーの進捗状況を確認する。年明けからの体勢の説明も特に動揺もなく淡々と終わらせることができた。どうやら、俺の不在中に篠田マネージャーから離脱メンバーには個別で話があったようだ。
会議が終わると、各々ミーティングルームを後にする。会議のためにセッティングしてあったパソコンやプロジェクターの片付けをしていると、気を利かせて有沢が手伝ってくれた。
「私、瀬川さんと、もう少し一緒に仕事がしたかったです」
ケーブルをまとめながら、彼女はポツリと呟いた。可愛いことを言ってくれる後輩には、少し愛着のようなものを覚えてしまう。社交辞令が半分だろうけれど。
「あはは、ありがとう」
「私、本気なんですけど」
彼女は、恨めしそうな視線を寄越した。第一グループへの異動があまり気乗りしないのかもれない。とりあえず、フォローの言葉を探してみる。
「期待に添えなくて、ごめんな。でも、俺としては、有沢さんには、いろんなプロジェクトに関わってもらって、広い視野を持てるSEになってもらいたいんだ。ずっと、俺と同じチームだと、俺のやり方しか教えられないだろ?」
口ではそう言ったが、彼女は半年先には、俺のチームに入ってもらう可能性が高かった。篠田マネージャーから、新規プロジェクトのチーム編成に有沢の名前が挙がったのは、数週間前だ。
「まあ、また一緒のプロジェクトになることもあるだろうから、その時はよろしくな」
「ええ、そうですね」
有沢は、にこりと可愛らしい笑顔を向けてくれた。コンコンとノック音に振り返る。
「瀬川さん」
無表情の矢口が出入り口に立っている。ミーティングルームの開いた扉を軽くノックしていた。
「篠田マネージャーからお電話がありました。すぐに、かけ直して欲しいそうです」
「ああ、ありがとう」
わざわざ呼びに来てくれたのか。
「有沢さん、ここ任せていいかな?」
有沢に目を向けると、笑顔で頷く。彼女を残して、自身のノートパソコンを脇に抱えると、矢口の後ろについて出た。エレベーターに乗り込むと、迷うことなく矢口は五階のボタンを押した。
「ああいうのって、どうなんでしょうか」
「んー?」
エレベータのドアが閉まると、表情の乏しい矢口が、少し苛立ったように口を開いた。
「さっきの、俺が新人の時にも言ってましたよ」
「そうだっけ? よく覚えてるな」
覚えていますよ、と矢口は目を伏せた。後輩たちに対しては、同じように思っているから、同じような言葉が出てもおかしくはない。それが、気に入らないのだろうか。
「でも、ここだけの話、一番期待しているのは矢口くんだな」
「また、適当なこと……」
冗談目かして、本音を口にする。少し照れたような、少し不機嫌なような、矢口の肩を、まあ、まあ、と誤魔化すように叩いた。矢口の肩を叩きながら、少し心がざわついてしまう。
自分の矛盾に気づてしまった。
俺自身がプロジェクトを渡り歩くタイプのSEで、そういう働き方が気に入っているから、後輩たちにも、そういう道を進んでいってほしいと思う。いろんなプロジェクトで、いろんなメンバーと関わった方が、広い視野が持てる柔軟なSEになれるだろうから。
それなのに、矢口のことは初めから「手放したくない」なんて思っていた。Yシステムの二次開発が決まったときに、篠田マネージャーから一人だけメンバーを指名して良いと言われて、迷うことなく矢口を選んだのだ。俺が一から全部教えたいなんて、思った後輩は初めてだった。
「Yシステムのリリースが完了したら、しばらくは離れ離れになりますが、そのうち、また瀬川さんと一緒に仕事できますよね?」
未来に期待した男の顔が、覗き込んできて、ドキリとした。タイミングよく、エレベーターが開く。
「どうかな。先のことなんてわからないよ」
「瀬川さん?」
「篠田さん、急ぎなんだろ?」
無理やり微笑むと、矢口の顔を見ずに、逃げるようにエレベーターから降りてしまった。背後から声がかかったが、振り返えらずに早足で廊下を突き進んだ。
これから先、矢口と一緒に働く未来なんて、存在しないのだ。俺は、後輩としての矢口より、恋人としての暁斗を選んでしまったんだから。
神戸での打ち合わせ結果を報告すると、あとはメンバーの進捗状況を確認する。年明けからの体勢の説明も特に動揺もなく淡々と終わらせることができた。どうやら、俺の不在中に篠田マネージャーから離脱メンバーには個別で話があったようだ。
会議が終わると、各々ミーティングルームを後にする。会議のためにセッティングしてあったパソコンやプロジェクターの片付けをしていると、気を利かせて有沢が手伝ってくれた。
「私、瀬川さんと、もう少し一緒に仕事がしたかったです」
ケーブルをまとめながら、彼女はポツリと呟いた。可愛いことを言ってくれる後輩には、少し愛着のようなものを覚えてしまう。社交辞令が半分だろうけれど。
「あはは、ありがとう」
「私、本気なんですけど」
彼女は、恨めしそうな視線を寄越した。第一グループへの異動があまり気乗りしないのかもれない。とりあえず、フォローの言葉を探してみる。
「期待に添えなくて、ごめんな。でも、俺としては、有沢さんには、いろんなプロジェクトに関わってもらって、広い視野を持てるSEになってもらいたいんだ。ずっと、俺と同じチームだと、俺のやり方しか教えられないだろ?」
口ではそう言ったが、彼女は半年先には、俺のチームに入ってもらう可能性が高かった。篠田マネージャーから、新規プロジェクトのチーム編成に有沢の名前が挙がったのは、数週間前だ。
「まあ、また一緒のプロジェクトになることもあるだろうから、その時はよろしくな」
「ええ、そうですね」
有沢は、にこりと可愛らしい笑顔を向けてくれた。コンコンとノック音に振り返る。
「瀬川さん」
無表情の矢口が出入り口に立っている。ミーティングルームの開いた扉を軽くノックしていた。
「篠田マネージャーからお電話がありました。すぐに、かけ直して欲しいそうです」
「ああ、ありがとう」
わざわざ呼びに来てくれたのか。
「有沢さん、ここ任せていいかな?」
有沢に目を向けると、笑顔で頷く。彼女を残して、自身のノートパソコンを脇に抱えると、矢口の後ろについて出た。エレベーターに乗り込むと、迷うことなく矢口は五階のボタンを押した。
「ああいうのって、どうなんでしょうか」
「んー?」
エレベータのドアが閉まると、表情の乏しい矢口が、少し苛立ったように口を開いた。
「さっきの、俺が新人の時にも言ってましたよ」
「そうだっけ? よく覚えてるな」
覚えていますよ、と矢口は目を伏せた。後輩たちに対しては、同じように思っているから、同じような言葉が出てもおかしくはない。それが、気に入らないのだろうか。
「でも、ここだけの話、一番期待しているのは矢口くんだな」
「また、適当なこと……」
冗談目かして、本音を口にする。少し照れたような、少し不機嫌なような、矢口の肩を、まあ、まあ、と誤魔化すように叩いた。矢口の肩を叩きながら、少し心がざわついてしまう。
自分の矛盾に気づてしまった。
俺自身がプロジェクトを渡り歩くタイプのSEで、そういう働き方が気に入っているから、後輩たちにも、そういう道を進んでいってほしいと思う。いろんなプロジェクトで、いろんなメンバーと関わった方が、広い視野が持てる柔軟なSEになれるだろうから。
それなのに、矢口のことは初めから「手放したくない」なんて思っていた。Yシステムの二次開発が決まったときに、篠田マネージャーから一人だけメンバーを指名して良いと言われて、迷うことなく矢口を選んだのだ。俺が一から全部教えたいなんて、思った後輩は初めてだった。
「Yシステムのリリースが完了したら、しばらくは離れ離れになりますが、そのうち、また瀬川さんと一緒に仕事できますよね?」
未来に期待した男の顔が、覗き込んできて、ドキリとした。タイミングよく、エレベーターが開く。
「どうかな。先のことなんてわからないよ」
「瀬川さん?」
「篠田さん、急ぎなんだろ?」
無理やり微笑むと、矢口の顔を見ずに、逃げるようにエレベーターから降りてしまった。背後から声がかかったが、振り返えらずに早足で廊下を突き進んだ。
これから先、矢口と一緒に働く未来なんて、存在しないのだ。俺は、後輩としての矢口より、恋人としての暁斗を選んでしまったんだから。
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