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伯爵家の黒歴史

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「ところで今回来られたのは……」

「実は町の外れにある修道院に配属されたのですがそこが整備されていない状態でして……、問い合わせてみたら元々はリディアール伯爵家の別宅と聞きまして」

「あの廃墟の事ですか? 彼処は確か父上の妹が療養に使っていた、と聞いた事があります」

「療養、ですか」

「えぇ、あまりいい話じゃないし僕も周囲から聞いた話ですが」

 リコット様の話はこうである。

 伯爵様の妹はとある貴族のご子息様と婚約していた。

 この妹という方はかなり性格に難アリの方で我儘放題に育ってきた、という。

 婚約も妹の一目惚れでほぼ強引に婚約までこぎ着けた。

 ところが結婚式当日に事件が起こった。

 その婚約者が駆け落ちしてしまったのだ。

 婚約者には前から好きな方がいたのだが妹との婚約が決まってしまいなくなく諦めていた。

 でもやっぱり諦められずにその好きな方に告白したらその方も前から好きだった。

 諦めかけていた恋心に火がついた彼等は止まる事を知らず駆け落ちする事になった。

 一方妹の方は結婚式当日の裏切りにマジギレ、ご両親にお願いし婚約者の行方を探させた。

 しかし、時が経っても全く行方はわからず、思い通りにならなかった事に人生初の挫折を味わい心を病んでしまった。

 ご両親は日に日に言動が可笑しくなっていく妹を療養という名の元に隔離する事を選択。

 町の外れに別宅を建てて妹を閉じ込めた。

 暫くは奇声をあげたり暴れたりしていたのだが徐々に大人しくなっていたのだが……。

「ある日突然別宅からいなくなってしまったんです」

「行方はわからないんですか?」

「もしかしたら誰かが婚約者の居場所を教えたんじゃないか、という説もあるそうですが……、正直真相は不明です」

 女の執念、恐るべし……。

 ただ、その婚約者の方は駆け落ちして正解だったかもしれない。

 一方的に求愛して結ばれたとしてもそこに愛は存在しないと思うから。

「そんな事があったので我が家ではあの屋敷は放置していたんですよ。でも数年前に教会が買い取っていただいたんです」

「そうでしたか……」

「でも、そういう状態になっていたのでしたら元々は我が家の建物ですから修復の資金を出しましょう」

「よろしいんですか? 伯爵様に許可は取らなくても」

「良いです、『お前に任せる』と言っていますから」

 ……リコット様がマトモに育って良かった、と思うのは私だけだろうか?
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