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幕間 公爵家の執事の話

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「今回も断られた……」

 執務室で項垂れる主人を見て私はため息を吐いた。

「王妃様から『一切の面会を禁ず』と言われているじゃないですか。行くだけ心象が悪くなる、という物です」

「しかし、あれから時が経過をしているし軟化する物じゃないのか?」

「それを硬化させているのが旦那様でしょう」

 私の言葉に旦那様は押し黙った。

 私はティアント公爵家に仕える執事、本来は旦那様に意見を言える立場ではないが今回ばかりはお家の存続の危機に直面しているので言わせてもらっている。

 それに旦那様は自分がやらかした事を自覚しているので怒鳴るという事はしない。

「妻と娘はどうしている?」

「奥様は相変わらず寝込んでおりますしお嬢様は部屋に引き籠もっています」

「そうか……、全ては自業自得なんだな」

「そうですね、あの時リナリーお嬢様の行動を咎めるべきでした」

「もっとレスナーにも向かなければいけなかったんだな……」

「えぇ、旦那様は奥様やレスナー様やリナリー様と向かい合うべきでした」

「跡取りが出来た事で浮かれて判断を間違えてしまった……」

 そう言って暗い表情でため息を吐く旦那様。

 国王や王妃様に婚姻の証人をしてもらう為にお城に行った前後では天国と地獄の差があった。

 だが常識的に言えば上手く行く訳が無いのだ。

 なんというか、浮かれそうな状況になっても冷静にならなければならない、という良い教訓になった。

 まだ旦那様は現実と向かい合い抗っているが奥様とリナリーお嬢様はこの現実から逃げている。

 王妃様の怒りを買ったあの日から周辺から人はいなくなっている。

 毎日のようにあった茶会の誘いがパッタリと来なくなり茶会命だった奥様はショックを受け寝込むようになった。

 全ての元凶であるリナリー様も周囲の冷たい視線から耐えなれなくなり部屋に引きこもっている。

 リナリーお嬢様の部屋からは『なんで私が……』『お祝いしてくれる筈なのに……』とブツブツと言っているとメイドから報告があったが実の姉であるレスナーお嬢様の婚約者を寝盗って何を言っているのだろうか。

 どうして姉妹でこんなに差が出てしまったのか、レスナーお嬢様は厳しく育てられ貴族としての立ち位置をしっかりと理解している。

 それに対してリナリーお嬢様は甘やかされ自分が正義!だと思われている節があったがそんな価値観を王妃様に一刀両断にされ心がポッキリと折れてしまった。

 あの状況では例え子供が生まれても子育ては厳しいだろう。

 なんせ今我が家はお取り潰しも時間の問題と噂されている。

 そうなれば子育てが出来る環境ではなくなるだろうし跡継ぎなんて幻である。

 私もそろそろ再就職先か田舎でのセカンドライフを考えている。

 結局、修道女になったレスナーお嬢様は正しい道を選んだのだ。

 私はレスナーお嬢様の幸せを祈らずにはいられない。
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