転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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八十一話必要な事に、惜しむ事はしない

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「さて、儀式は終わったからのぅ。これはお主に返すぞい」

お爺ちゃんは懐から取り出した金貨が十五枚入った袋をソウスケに渡した。
袋を受け取ったソウスケは金貨の枚数を確認し、一応金貨が本物かどうかを鑑定を使って確認した。

(・・・・・・まっ、そこまで疑っていた訳じゃないけどな。一応は確認しておかないと、かなり不安になるからな)

金貨が本物だった事を確認したソウスケは内心でホッと一息ついてから、金貨の入った袋をカバンの中に仕舞った。

「確かに金貨十五枚ありますね。それじゃ、失礼します」

「ああ、気を付けてあまり問題を起こさぬようにのぅ」

お爺ちゃんの言葉に、ソウスケは苦笑いしながら頷いた。

(努力はするけど、昨日それらしい事をやってしまったからな・・・・・・約束は出来ないな)

ソウスケが部屋から出て行くと、ミレアナも慌ててソウスケの後に付いて行った。
ミレアナは一旦扉の前で立ち止まり、お爺ちゃんの方へ振り返った。

「あ、あの。今までお世話になりました!!」

頭を大きく下げ、腰を曲げてミレアナはお爺ちゃんに別れの言葉を述べた。

「・・・・・・お主の主となった者は良き冒険者じゃ。何年かすればいずれ名も広く知れ渡る筈じゃ。じゃが、どこか抜けているところがある。そこをお主が補ってやるといい」

「は、はい!! 分かりました」

お爺ちゃんなりのミレアナを送り出す言葉に、本人は少し涙目になりながらも笑顔で返事をした。
そして部屋から出て行くミレアナを、お爺ちゃんは嬉しそうな顔で見ていた。

「ふっふっふ、あれほど良い笑顔でここから出て行く奴隷は初めて見たのぅ。ミレアナは本当に良い主に出会えたな。それとは別に、あの少年はどこまで高みに上るのかが気になるのぅ。本人はあまり目立つことは望んでいないようだが・・・・・・周囲がそれを許さない、ってところかのぅ」

お爺ちゃんはもう一度小さく笑い、箒を手に取り店の前の掃除へと向かった。

店の外に出てから少し歩き、ソウスケは周囲に誰もいない事を確認すると片手に火と水の魔力を、もう片方の手に風と土の魔力を集中させた。

「ミレアナ、今から俺がお前の呪いを解く」

「えっ!? ご、ご主人様がですか?」

ミレアナはソウスケがただの少年でないとは思っていたが、自分の呪いが解けるほどの力量があるとは思っていなかった。

「安心しろ。属性魔法のスキルはちゃんと四つ持っているし、魔力の量もそれなりにある。もし俺がお前の呪いを解けなかったとしても宛はある。それじゃ始めるぞ」

ミレアナは目を瞑り心臓をバクバクさせながら緊張していた。
そしてソウスケの両手から四つの魔力がミレアナに流れ込み始めた。

呪いの解呪を始めてから一分、まだミレアナの呪いは解けていなかった。

(・・・・・・結構魔力を流し込んでいるんだけどな。予想以上に厄介な呪いだな)

解呪までに必要な魔力量に内心で舌打ちをし、流し込む魔力の量を一気に上げた。
すると三十秒後、魔力を流し込んでいたソウスケは呪いを解呪した感触を感じた。

(なんていうか・・・・・・絡まっていた鎖を打ち砕いたって感覚だな)

ミレアナも自分に掛かっていた呪いが解呪された感覚があるのか、直ぐに自分のステータスを確認した。
そして確認をし終えたミレアナ目から大粒の涙が大量に流れ出した。
ソウスケはミレアナが泣き終わるまで待ち続けた。

そして泣き終わったのを確認したソウスケはミレアナに声を掛けた

「・・・・・・ミレアナ」

「は、はい。な、何でしょうかご主人様」

涙を流した影響で目元が赤くなっているミレアナにご主人様と言われたソウスケは、先程よりはまっしだが赤くなっている頬を両手で隠したくなったが、それをぐっとこらえて会話を続けた。

「そのご主人様という呼び方はやめてくれないか」

「えっと・・・・・・では何と呼んだらいいですか?」

自分が呼んで欲しい名前等考えた事が無いソウスケは、ミレアナが奴隷という立ち位置を頭に入れながら考え始めた。

(俺の呼び方か・・・・・・正直ミレアナの方が年上の筈だから、呼び捨てでもいいんだが、そうもいかないのが現状だからな。ご主人様はこう・・・・・・無性にムズムズするか却下。ソウスケ様も同様に却下だな。マスターは・・・・・・駄目だ。色々と違う気がする。なんて呼んでもらおうか・・・・・・)

考えに考えた末、ソウスケが出した答えはかなり単純だった。

「ソウスケさんって呼べばいい」

「えっと・・・・・・それで良いんですか?」

「ああ、俺は特に偉ぶりたい訳では無いからな」

ソウスケとしたは取りあえず、様呼びだけは背中がムズムズするので読めてもらいたく、他のお呼び方も何か違うと思い、さん呼びにしてもう事にした。

「分かりました、ソウスケさん」

「ああ、そうしてくれ。それでだ、とりあえずこれを着てくれ」

ソウスケはまだ表通りに出ていないため、アイテムボックスからダンジョンのボス、ワイバーンを倒した時に手に入れたマジックアイテムのローブを取り出した。

ローブを受け取ったミレアナは、直ぐにローブがただのローブでない事に気が付いた。

「これは・・・・・・マジックアイテムのローブですか?」

「そうだよ、よく分かったな。見た目はそこら辺に売っているローブと変わらないと思うんだけどな。そいつは俺がダンジョンのボスを倒した時に宝箱から出て来たローブだ」

「えっ! そ、そそそそんな良い物を私が着て良いんですか!?」

「良いも悪いも、お前はこれから冒険者の俺と一緒に行動をするんだ。モンスターは勿論、人と戦う時だってあるんだ。だから装備はしっかりとした物を使ってもらう。後、ミレアナは確か短剣を使えたよな」

ソウスケはミレアナに鑑定を使った時に、短剣術のスキルを持っているのを思い出し腰からミスリルの短剣を取り出した。

「ほら、こいつを使え。切れ味はしっかりとしているぞ」

「あ、ありがとうございま、す・・・・・・そ、ソウスケさん。こ、こここの短剣の刃に使われている鉱石はもしかして・・・・・・」

「・・・・・・ミレアナ、お前本当に凄いな。その短剣の刃はミスリルで出来ているらしいぞ」

ソウスケから答えを聞いたミレアナは予想通りだが、驚きのあまり鞘から出したミスリルの短剣を落としそうになった。

「そ、ソウスケさん。このミスリルの短剣はしっかりと毎日砥がれていますか」

「・・・・・・そう言えば基本的に刃を魔力で覆って使っていたから、そういった手入れはしていなかったな」

自身のメイン武器が蛇腹剣という、どこをどう整備すればいいか分からない装備なため、ソウスケの頭の中から得物の刃を研ぐという常識がすっぽ抜けていた。

「そ、ソウスケさん!! きょ、今日の内に武器屋に寄って砥石買いましょう!! 絶対に!!!」

「お、おう。分かったよ。今日の用事が終わったら武器屋に寄ろう」

余りにも真剣なミレアナの表情に圧され、ソウスケは少し後退りしていた。
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