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四百二十七話 ヒモじゃ無いから

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「なぁ……本当にやるのか? 無意味だぞ」

「本当にお前は人を怒らすのが上手いな」

偵察の話し合いが終わったソウスケ達は訓練場にやって来ており、ソウスケとアーガスが面と向かって立っている。
ソウスケとしてはアーガスと戦う事を了承はしたが、それでもやる必要は感じられない。

(俺が楽にレベルを上げていると考えているなら、それはそれで俺と戦うだけ無駄だと思うんだけどな)

仮にソウスケのレベルがミレアナと出会ってから上がり始めると考えても、ソウスケが今まで体験してきた戦いを考えれば余裕でベテランの域に達している事になる。

(そうだなぁ……レベルだけに関しては三十ぐらい上がってることになるのか? アーガスを鑑定した訳では無いから正確な数字は分からないけど、三十よりは絶対に低いだろ)

Eランク冒険者ならレベル十を超えていればそこそこ良い方だと言える。
基本的にレベルが十以上差がある場合は技術に大きな差が無ければ結果を覆すのは難しい。

(使う武器はオーソドックスな長剣。特別技術に優れているようなタイプには見えないし……逆に力で押せ押せのタイプに見える)

やはりこんな勝負しなくても良いのではと思ってしまうソウスケだが、偵察中に後ろから襲われるのは嫌なのでしっかり解決しておこうと決めた。

「俺が人を怒らすのが上手いとかどうでも良いじゃん。さっさと終わらせようぜ」

「あぁ……そうだな。お前の望み通りぶっ潰してやるよ」

(いやいや、別に俺そんな事全く望んで無いんだけど……まぁ、こいつの脳内で勝手にそう変換されてるんだろう)

特に開始の合図は無く、勝負の判定も無い。

そんルール無法な内容で試合は始まり、まずはアーガスから攻める。

「はぁぁぁああああああッ!!!!」

力を全力で込め、相手をぶった斬るという思いを乗せた一撃。
その一撃はゴブリンの脳天など容易に潰せる威力はある。

スピードもそこそこあるのだが、それがソウスケに当たるかは別問題であり、特に焦る表情に変わることなく躱されてしまう。

(おいおい、使ってる武器が真剣だって事を忘れてないか?)

事前にソウスケは木製の武器の方が良いんじゃないかと提案していたのだが、アーガスから怪我をするのが怖いならそうしてやっても良いぞ返され、それに対してムカッとしたソウスケは自分だけ木製の武器に変えた。

(自分は真剣で戦ったのに木製武器に負けたら一体どんな顔をするのか……それはちょっと楽しみだな)

アーガスの斬撃は一撃では終わらず、ソウスケが躱した後も何度も続く。
しかしフェイントも無く、ただただ直線的な攻撃をソウスケが読み切れない訳が無く、掠る気配も無い。

「チッ!! 避けてばかりで勝てると思うなよ!!!」

「馬鹿じゃ無いんだからそれぐらい解ってるよ。ただ……あんまりにも攻撃が遅いなぁ~~って思ってさ。もしかしてこれが限界なの? まさかそんな事無いよな。もしかして出し惜しみして勝てると思ってんの??」

冒険者になりたての頃と比べて、ソウスケもどのランクの冒険者がどの程度動けるのかが大体解ってきた。
なので、アーガスが身体強化のスキルを有していることはなんとなく察していた。

しかしアーガスは一向にそれを使う気配が無い。
身体強化がアーガスの奥の手なのか、それともまだ他の奥の手が存在するのか鑑定で確認していないソウスケには分からないが、まだ全力を出していないことは経験上解っていた。

「ッ!! ただのヒモカスじゃ無いって訳か」

「そのヒモってのは止めて欲しいんだけどな」

ヒモ、それは働く気が全くない男性にとっては望ましい職業かもしれない。
ソウスケも日本で生活していた時にたま~にだが、ヒモになりたいなと思ったことは数度ほどある。

しかし異世界にやって来たソウスケはギルドの依頼を受け、ダンジョンを探索し、カジノで儲け勝ち、盗賊団を討伐して貯め込んでいたお宝を得たりと結構真面目に働いている。

なにより冒険者という本業より稼げているエアーホッケー作りにはほぼ毎日疲れない程度にだがが着々と進めている。

(マジでかなり稼いでるのにヒモって言われるのはちょっと傷付くというか、グサッと来るというか……とりあえず止めて欲しいもんだ)

アーガスがソウスケをただのヒモでは無いと認めてから数十秒経ち、一旦大きく後ろに下がる。

「黙れ、仲間や従魔に頼ることでしか冒険者として生きられないお前はヒモで十分だ。ただ、直ぐのゴミカスに変えてやるけどな」

「はぁーーーー……これでも明日から少しの間は仲間として行動するっていうのに、物騒な本当に」

言葉だけ聞けば怯えている様に聞こえるかもしれないが、表情は全くビビッてないソウスケに対してアーガスは更に怒りを積み重ねる。
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