転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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五百四話 器用大富豪

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「ソウスケさん、良かったら自分と一回だけ模擬戦をしてもらえないだろうか」

「まぁ……別に良いですけど、見た目で実力を判断するなって伝えたいんですか?」

「お見通しだったか。勿論本気の模擬戦はありません。しかし、ソウスケさんの様な例外も存在すると門下生たちに教えたいのです」

見た目で人を判断してはならない。
それは上を目指す者としては当然の心構え。

しかし実力はあれど、子供達は実例を見なければ中々納得はしない。

「分かりました。スキルの使用はなし、お互いに木剣……あとは体術だけの模擬戦にしましょう」

「有難うございます」

「時間は一分、それで良いですか?」

「勿論です」

二人は訓練用の木剣を持ち、訓練場の中心へと向かう。
その間にザハークは腰を上げ、門下生たちの持ちへ向かった。

「お前達、訓練が再開する前にレガースとソウスケさんが模擬戦を行う」

二人が木剣を持って中心に向かっているのでまさかと思っていた者はいたが、本当に模擬戦を行うとは思っておらず、驚く門下生が多い。

(当然の反応だな。二人の見た目だけで判断するならばレガースの圧勝だろう)

だが、見た目だけで勝負が決まる訳ではない。
それをこれからソウスケが証明する。

「その……あの人は自分で戦えるんですか?」

「どういう意味だ?」

「テイマーの冒険者は自分で戦う力がないとよく聞きます。それを補うために従魔がいるのだと」

「なるほど、そういった考えを持つのも仕方ないな……しかしお前達は一つ勘違いしている」

ザハークの言葉を聞いた門下生たちの頭の上にはてなマークが浮かぶ。
依頼はテイマーに向けられたもの。

ならば従魔の主は必然的にテイマーとなる。
そう思ってしまうのは仕方ない……仕方ないが、ザハークの主はその考えに全く当てはまらない。

「俺の主、ソウスケさんはテイマーじゃない。俺があの人に付いて行こうと思ったから俺は従魔という立場になったが、ソウスケさんは元々オールマイティーな冒険者だ。攻撃魔法も使え、接近戦も出来る……言っておくがただの器用な貧乏じゃない。寧ろ大富豪、だな」

「そ、そんなに強いん、ですか?」

「……本気の殺し合いなら俺は負けるかもしれない」

「「「「「ッ!!??」」」」」

自分たちを余裕な表情で叩きのめしたザハークの口から、本気で戦ったら勝てない。
そんな言葉が出てきたことに門下生たちは心底驚き、固まってしまう者までいた。

「じょ、冗談じゃ……な、ないんですね」

「当たり前だ。ソウスケさんが持っている武器の性能が桁外れというのもあるが、持っている戦闘技術が並じゃない。それと、接近戦でも平然と魔法を使う。魔法剣士……というよりは魔導戦士、って言葉が相応しいかもしれないな。今回の戦いでは魔法を使わないみたいだが、それでもお前らが驚く模擬戦がみられる筈だ」

門下生たちは既に十分驚いている。
ただ、二人の戦いをなるべく近くで観たいと思い、被害が及ばない程度の場所まで近寄って心臓をドキドキさせながら模擬戦の開始を待つ。

ミレアナは懐中時計で時間を計り、同時に審判を行う。

「それでは模擬戦の時間は一分間。スキルの使用はなし、お二人共よろしいでしょうか」

「あぁ、勿論だ」

「よろしく頼むよ」

構えはお互いに中段。
お互いに戦意を放っていないので異様な空間が流れる。

そして懐中時計で時間を計っていたミレアナが合図を出す。

「始め!!!!」

模擬戦開始の合図と共にソウスケは速攻で駆け出した。
本気の試合ではなく、勝たなければならない理由がある戦いではない。

だが、レガースの目的を果たす為の模擬戦。
見た目に惑わされてはいけない、中身を……実力を見極められるようになって欲しい。
その願いを汲み取り、ソウスケは出方を見ずに斬り掛かった。

身体能力は既にAランク冒険者並み。
門下生ならば反応出来ない一撃だ。

だが、レガースの身体能力もAランク冒険者に勝らずとも劣らず。
ソウスケの一撃は見事にガードされた。

「流石ですね」

「それはこっちの言葉だよ。やはり君は強者だ……ギアを上げていこう」

そこから一分間の間、二人はお互いに斬撃を放ち、それをガードか回避で対応し、時には鋭い拳や蹴りが放たれる。
そんな濃密な一分に門下生たちの視線は釘付けになっていた。
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