転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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五百三十話 敵わない人と対等に戦っている

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「……まぁ、別に良いけど。直ぐに動いて大丈夫か?」

「あぁ、問題無い。少し経てばある程度は動けるしな」

なるべく食後に体を動かしたいと思っているので、ダイアスは生徒達に現実を教える意味も込めてソウスケと模擬戦がしたかった。

「そうか……よし、ならこいつを使って模擬戦をしよう」

空間収納の中からトレントの木で作った木剣を渡す。

「こいつは……もしかしてトレントの木か?」

「気付くの早いな。そうだ、ちょっと前に森がメインのダンジョンに潜ってたから、素材はそこそこあったんだ。だから模擬戦に木剣を作るのもありだと思ってな」

「か、軽く言うな~~~」

トレントはDランクに分類されるモンスター。

高い火力を持つ攻撃をぶちかまさなければ、一気に倒すことは出来ない。
体の一部を削ったとしても、直ぐに再生してしまう。

一発一発の攻撃はそこまで強くないが、手数多くて厄介な敵に変わりはない。

「それじゃ、軽く動こうか」

「んじゃ……俺からいかせてもらうぞ」

お互いに強化系のスキルは使わず、素の身体能力だけを使っての模擬戦。

「シッ!!!」

鋭い突きに対し、ソウスケは半身になって躱す。

「よっ!!」

そして逆に横腹を狙って振るうが、バックステップで見事に回避。

「おっとっと。判断が速いな」

「接近戦が一応メインだからな。判断力の速さは必須のスキルだろ」

「それは確かにそうだ。全く、本当にルーキーとは思えねぇよ」

実力だけではなく、経験から語る内容も素人のそれではない。

本当に面白い冒険者に巡り合えた。
そう思いながらも斬って躱して、突いて躱しての攻撃と回避を繰り返す。

「……なるほど、それなりに強いという訳だな」

「生徒達に技術を教える者が弱くては話しにならないでしょう。それを考えれば、あれぐらいの実力を持っているのは当然かと」

ザハークとミレアナから視ても、ダイアスの動きは悪くなかった。

だが、こうして目の前で自分たちの先生と歳が変わらない少年が平然と斬り合っているのを見て……完全に認識させられた。

目の前の少年は、特殊な武器を使っていなくとも強い。
自分たちが敵わないダイアスと平然とした表情で模擬戦を行っている。

(クソ! なんで、なんで……なんでだよ!!!!)

言葉には出さなかったが、表情には悔しさが出ていて丸見えだった。

「ソウスケ君たちは、普段はどのような日々を送っているんですか?」

「……基本的には街の外に出てモンスターを狩る。この街みたいにダンジョンがあるなら、ダンジョンに潜ってモンスターを狩ったり採集を行ったり、というのがメインですね」

「基本的に戦って戦っての毎日だ。休日は鍛冶や錬金術を行って……しっかりと休んでる日もあると思うが、毎日なにかしら動いてるな」

にわかには信じ難い話だ。

冒険者ならばモンスターと戦った翌日、もしくは依頼を終えた次の日は休息にあてる。
一日だけではなく、二日連続で休む日も珍しくない。

(無茶なスケジュールに思えるけど、その無茶が今のソウスケ君の強さをつくった……そう考えれば、なんら不思議では無いわね)

(無茶な経験を重ねれば、無茶なスケジュールを厳しいと感じなくなる、ということか……言うは易く、行うは難しといったところか)

絶対に不可能と切り捨てられる内容ではない。

だが、殆どの者がその様なハードスケジュールを送っていれば、体より精神の方が先に壊れる。

(精神だけじゃない。無茶苦茶な速度で強くなろうとすれば、それだけ冒険の最中に死ぬ可能性が高くなる)

教え子たちには絶対に真似して欲しくない方法だ。

実際のところ、ソウスケが冒険者歴に比べて異常な強さを持っているのはハードスケジュールだけではなく、他に明確な理由があった。

その理由を二人は知っているが、他人に教えることは無い。

「他人にとっては無茶なスケジュールと思われるかもしれませんが……ソウスケさんは例外中の例外です。モンスターを狩った翌日にも平気でモンスターを狩りに行きます」

「というか、ソウスケさんの場合は目標のモンスターを狩るまでの時間が速い。倒したモンスターの素材も全て持ち帰ることが出来るから、金に困ることはない……だから基本的に好きな様に生活している」

冒険者である教師、そして冒険者を目指す生徒達からしても、その能力は羨ましい限りだった。
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