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五百四十話 ビシッとした服を着て

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翌日、予定通りの時間に起きたソウスケは普段着とは違い、暇なときに買ったそれなりの服を着て部屋を出た。

「……ははっ、考えることは同じだな」

「そうですね。ですが、とても似合っていますよ」

燕尾服を楽にした服装だが、モンスターの素材を糸に変えて作られた服なので、激しい戦闘に耐えられる。

「ミレアナも似合ってるよ。いつもとは違う綺麗さが溢れてる」

「ふふ、ありがとうございます」

ソウスケと似た様なタイプの服装だが、女性用にアレンジが加えられている。

二人が食堂に降りると、必然的に視線が集まってしまう。

「まっ、当然こうなるよな」

「これに関しては仕方ないでしょう」

現在泊っている宿はそれなりにランクが高い宿だが、それでも大半の客は冒険者だ。
同業者が貴族の様な服装で降りて来たら、目線が向かないわけがない。

いつものように適当にメニューを頼み、今日は特に服に汚れが付かないように気を付けて食べる。

「……ソウスケは何を教えるつもりですか」

「基本的に模擬戦の相手をしようと思ってるけど、それなりに冒険者について教えた方が良いよな……でも、基礎的な部分は先生たちに教えられてるよな」

教えられる知識がないという訳ではないが、そこまで大した知識は教えられない。

(学園には貴族の四男や三男とかがいる様だし……あの一件は伝えておいた方が良いよな)

ソウスケの経験談の中で、貴族の令息や令嬢が聞いておいて損はない話があった。

「とりあえず、いくつか体験談を話そうと思う。ミレアナはどんなことを話すつもりなんだ?」

「そうですね……基本的にはソウスケさんと一緒に行動しているので、珍しくそうでない時期に体験した話を伝えようかと思っています」

ソウスケとザハークが鍛冶に没頭している中、ミレアナは女性だけのパーティーに混ざって冒険をしていた。

そんな期間があったので、まだまだソウスケをヒモと勘違いしている同業者はそれなりに多い。

「そういえばそんな時期あったな……女性だけのパーティーと行動してたんだっけ」

「そうです。今思えば貴重な体験でした」

「なるほどな。そういうのはミレアナにしか話せないし、思いが伝わらないだろうな」

「……ザハークは何か話すのですか」

臨時教師として、一応ソウスケとミレアナだけではなく、ザハークも参加する。

「えっと……ザハークは模擬戦の相手だけで十分なんじゃないのか。あいつは基本的に他の同業者と関わる機会はないし……うん、特に授業中に話さなくても良いと思う」

「そうですよね」

朝食を食べ終えた二人はそのまま宿を出てザハークと合流し、ラドウス学園へと向かう。

「ザハーク、結構満腹そうだけどそんなに朝からガッツリ食べても大丈夫なのか?」

学園に到着して軽く挨拶を済ませたら、直ぐに生徒達と模擬戦ということもあり得る。
あまり朝から食べ過ぎていれば、戦闘中に戻してしまうかもしれない。

「大丈夫だ、安心してくれ。確かにガッツリと食べたが、所詮は学生が相手だ。最初は防御に徹して様子を見て、一分ぐらい経った後に倒せば問題無い」

多少の期待はしている。
レベルの高い教育を受けてきた学生なら、少しは楽しめるかもしれない。

だが、流石に自分がある程度本気を出せる人物はいないと断言出来る。

(仮にそんな奴がいれば、そいつは学生レベルを遥かに超えている。それはそれで楽しめるから良いが)

「……その通りですね。学生に全く攻撃させずに勝利すれば不満が溜まるかもしれません。学生の手札を全て躱し、潰したうえでの勝利がベストかと」

「二人の言う通りだ。基本的にはそのスタイルで模擬戦を行おう。まぁ、面白そうな奴がいたら各自適当に相手をしてやればいい」

自身が気に入った生徒がいれば、それなりの模擬戦を行うのも良し。
臨時教師なので、そこら辺は多少贔屓しても学園側から文句を言われることはない。

「ようやく着いたけど……この街に来てから何度も思ったけど、デカいな」

何度目だと思ってしまうが、口に出さずにはいられないほどラドウス学園は大きかった。
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