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百八十九話 まずは投擲。それが第一

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「さて、ダンジョンに入ったのだけど……正直、私が教えられることはそこまで多くない」

「えっ、そうなんですか? ミレアナさんは……その、強いですよね」

正確な強さは分からない。
でも、自分たちより遥かに強いということだけは分かる。

そんなミレアナから教えられることは多くないと言われ、三人は戸惑う。

「そうね、それなりに強いと思う。でも、強いだけでダンジョン探索に詳しい訳じゃない」

「それじゃあ……この街のダンジョンが初めてのダンジョン、なんですか?」

「いえ、一つだけ他の街のダンジョンも潜ったことがあるけど……私を含めて、ソウスケさんとザハークも凄く強いから、ものすごくゴリ押しで攻略を進めているの。今もそうね」

中級者向けダンジョンや上級者向けダンジョンをソロで潜っているが、その方法を真似出来る者は多くない。
そもそもミレアナほどマルチな力を持つ者が少ないので、真似しようがない。

「だからあまり期待はしないでね」

「「「は、はい」」」

三人は思わずハモってしまった。
だが、本当に殆ど教えられずに今回の講習は終るのか?

そんなことはないと三人は同時に思った。
目の前の凄い人は自分たちが知らないことを多く知ってる。
そう確信しているバータたちはミレアナの言葉を一字一句聞き漏らさないことを決めた。

「そうね……三人は何かを投げるのは得意?」

「俺はそれなりに」

「あんまりやったことがないので、得意かどうかは分からないです」

「わ、私もフィーネと同じです」

ミレアナの問いに三人は正直に答える」

「そう。それならフィーネやクレアラもそれなりに何かを投げる……投擲はできた方が良いわ。ソウスケさんはこのダンジョンで生まれるモンスターなら、石を投げるだけで討伐出来るの」

「ぜ、全部のモンスターを、ですか」

「そうよ。こんな感じで」

そこら辺に落ちていた石ころを拾い、十数メートル先にいたホーンラビットに向かって投げる。
放たれた石ころを休息が落ちることなくホーンラビットの額をそのまま貫いた。

「「「ッ……」」」

「投擲のスキルを持っていれば、こんな感じでモンスターを倒すことができる。この距離で仕留めるにはレベルによる腕力が影響してるかもしれないけど、投擲を習得してスキルレベルを上げれば投げる時に腕力の向上と、コントロールの補正が行われる。投げる物はそこら辺の石でも構わない。どう、随分とコストが低くて良い武器でしょ」

「そ、そうですね。武器を消耗しなくて良いって点は凄い有難いっす」

三人の仲でバータが一番装備に金が掛かる。
パーティーでは重要なアタッカーだが、戦闘で大剣が折れてしまうと出費が大きい。

「本当は鉄とかはこれくらいの長さと細さにして、先を尖らせた使い捨ての短槍みたいなのが一番良いのだけど、上手く使えば石も立派な武器になる」

普通ならば何を言ってるんだとツッコみたくなる内容だが、目の前で実演されてはそんな言葉は出ない。

「もっと贅沢を言うなら、こうして投げる物に魔力を纏えば相手を倒しやすくなる」

体や武器に魔力を纏う。
冒険者としては必須のスキルだが、三人の仲ではまだバータしか習得出来ていない。

そのバータも強化したい部分にだけ魔力を纏うという技術はまだ未収得。

「まぁ、でも……ダンジョンで気を付けるべきはモンスターの大量発生などを素早く感知して逃げるというのも大事だけど、魔力の管理が重要ね」

三人ともまだルーキーということもあり、メイジであるクレアラもそこまで魔力量が多くない。

「魔力回復のポーションは持ってる?」

「は、はい。一応一つ持ってます」

「そう、それは良かった。バータの魔力を纏った斬撃やクレアラの攻撃魔法はモンスターに対して大きな一撃になる。でも、それを簡単に使っていたら、大事な場面で使えなくなる。だからなるべく魔力を消費せずに倒す。ダンジョンではそれが重要になってくる……筈よ」

実力的にはルーキーという期間がなかったので、絶対だと断言は出来なかった。

「それから……」

他にも歩きながらダンジョンでは何が大切なのかを一時間ほど喋り続けた結果、三人は自分たちがダンジョンに潜るのはまだまだ早いと感じた。
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