転移したらダンジョンの下層だった

Gai

文字の大きさ
629 / 1,259

六百八話 もう一度、ハッキリと

しおりを挟む
「ミレアナさん、冷静に考えてください。私たち氷結の鋼牙との話と、そちらの学生との話……どちらが有益な会話になるか、直ぐに解る筈です」

ギリス・アルバ―グル。
この男だけは先程までの態度と全く変わりない……そう、表面上は変わりない。

だが、内心ではミレアナから漏れ出す冷気を氷結の鋼牙のリーダーである、クランマスターと同等かもしれない。
反応的に実力の一端を察知した。

(なるほど、これほどまでの冷気を発するのであれば中級者向けダンジョンの下層を一人で探索し、更には最下層のボスを一人で倒してしまうという話も、信憑性が増しますね)

中級者向けダンジョンの下層を一人で探索するとなると、戦闘力以外の力も必要になるのだが、ひとまず生き残るために重要なモンスターを倒し続ける強さ。
それに関しては間違いなく持っている、それは分かった。

ただ……この冷気と同じ様な感覚をクランマスターから一つの体験として、与えられたことがあったギリスだからこそ、ミレアナの雰囲気が変わっても冷静でいられた。

「私は有益な会話というのにさほど興味はありません。先程も言いましたが、私が重要だと思うのは生徒たちとの会話。あたな方……氷結の鋼牙でしたか? あなた達には全く興味がありませんので」

冷気と殺気を放ったミレアナに対して、態度を崩さなかったギリスには賞賛を与えるべきかもしれない。
それでも、選んだ言葉が上から目線過ぎる。
直ぐに謝ろうとしなかったということもあり、ミレアナの機嫌を損ねる結果となった。

しかし、先程までミレアナと話していた生徒たちは、どうすれば良いのかオロオロしていた。
生徒たちが目指す先は冒険者。

まずはこの街からスタートしようと考えているので当然、有名どころのクラン名は頭に入っている。
氷結の鋼牙……学術都市でトップクランという訳ではないが、トップ帯には入る有名どころ。
個人的には、自分たちと話すよりもクランメンバーであるギリス・アルバ―グルと話す方が重要……そして有益であると思ってしまう部分がある。

ただ、そんな重要人物との会話よりも自分たちとの会話の方が重要だとミレアナは宣言した。
そのことに関しては、心の底から嬉しいと思う生徒たち。

というわけで、自分たちよりもギリスとの会話を優先した方が良い……そんな思いを持ちながらも、ミレアナが自分たちとの会話が大切と思ってくれている気持ちが嬉しいため、何も言い出せずにいた。

「興味がない、ですか……これはまた随分と大きく出ますね。冒険者として活動しているならば、クランに興味がないということはあり得ないでしょう」

冒険者であれば、クランに興味を持って当たり前。
ギルスのこの言葉は間違っているとは言えない。

冒険者のパーティーという組織から進化した形態、クラン。
このクランに加入することにより、冒険者はギルドに所属しているだけでは受けられない恩恵が手に入る。

クランの規模によっては、冒険者ギルド自体が無視できない存在へと大きくなることもある。
勿論、クランに入れば多くの冒険者と一応は仲間になる。
その中には気に入らない奴が在籍している場合もあるので、絶対に加入した方が良いのかどうか……それは個人の考えや気持ちによるところ。

ただ、有名どころのクランが拠点としている街の若者であれば、冒険者になるのが目標……ではなく、冒険者になってどこそこにクランに加入するのが目標。
そんな未来のひよこたちもいるので、クランという存在は冒険者として活動するならば、嫌でも意識しなければならない存在。

ミレアナもクランという組織がどういった存在なのか、ある程度は理解していた。
しかし目の前の冒険者とその人物が在籍しているクランに対して、本当に……心の底から興味がないのだ。

「申し訳ありませんが、ハッキリと言わせてもらいます。あなたにも……あなたが所属する氷結の鋼牙というクランに対して、心底興味がありませんので」

もう一度……綺麗に深く、ギリスたちのラブコールはフラれてしまった。
この結果に、二人のやり取りも見ていた野次馬から小さな笑い声が漏れた。
しおりを挟む
感想 253

あなたにおすすめの小説

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

虹色のプレゼントボックス

紀道侑
ファンタジー
安田君26歳が自宅でカップ麺を食ってたら部屋ごと異世界に飛ばされるお話です。 安田君はおかしな思考回路の持ち主でわけのわからないことばっかりやります。 わけのわからない彼は異世界に転移してからわけのわからないチート能力を獲得します。 余計わけのわからない人物に進化します。 作中で起きた事件の真相に迫るのが早いです。 本当に尋常じゃないほど早いです。 残念ながらハーレムは無いです。 全年齢対象で男女問わず気軽に読めるゆるいゆる~いストーリーになっていると思いますので、お気軽にお読みください。 未公開含めて30話分くらいあったのですが、全部行間がおかしくなっていたので、再アップしています。 行間おかしくなっていることに朝の4時に気づいて右往左往して泣く泣く作品を削除しました。 なかなかに最悪な気分になりました。 お気に入りしてくださった方、申し訳ありません。 というかしょっちゅう二行も三行も行間が空いてる小説をよくお気に入りしてくださいましたね。 お気に入りしてくださった方々には幸せになってほしいです。

【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

【めっさ】天使拾った【可愛ぃなう】

一樹
ファンタジー
酔っ払いが聖女を拾って送迎する話です。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.
ファンタジー
「お前の《記録》なんて役に立たない。もうついてくるな」 勇者パーティの“お荷物”扱いに耐えてきたライトは、 ついにダンジョン最深部で置き去りにされる。 追放すらできない規約のせいで、 “事故死”に見せかけて排除しようとしたのだ。 だがその死地で、ライトのスキル《記録》が進化した。 《超記録》―― 敵のスキルや魔法、動きまですべてを記録し、即座に使えるようになる最強格の能力。 生き延びたライトはレグナの街で冒険者として再出発。 努力で《成長》スキルを獲得し、 記録したスキルや魔法は使うほど強化されていく。 やがて《超記録》は最終進化《アカシックレコード》へ。 対象を見ただけでステータスや行動パターンが分かり、 記録した力を即座に上位化し、さらに合成して新たな力まで生み出す究極スキル。 一方、勇者パーティはライトを失った途端に依頼成功率が大幅に低下。 さらに魔王軍四天王の暗躍によって状況は悪化し、ついには洗脳されてライトに牙をむく。 街を襲うドラゴン、仲間それぞれの過去、四天王との連戦。 優しく努力家のライトは、出会った仲間と共に確実に強くなっていく。 捨てられた記録係が、世界最強へと進化する。 爽快無双×成長ドラマの大長編ファンタジー開幕。

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

処理中です...