転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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六百二十二話 なるべく早く謝りたいが

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「いないのか?」

「えぇ、今日はいませんよ」

氷結の鋼牙のクランマスター、フルード・ガルザックは現在鍛冶ギルドまでやって来ていた。
先日、自身のクランに所属する有望なルーキーが最近学術都市に訪れた冒険者をスカウトしようとしたが、失敗。

それどころか、険悪なムードになったという情報が耳に入った。

スカウトしようとした人物はエルフ(ハイ・エルフ)のミレアナ。
ここ最近、何度も中級者向けのダンジョンに一人で潜り、探索。

そして複数のトレントとエルダートレントが出現する最下層のボスを一人で仕留めている。
確かにそんなスーパールーキーをスカウトできれば嬉しいという思いはある。
だが、その過程でミレアナとの関係性が悪くなるのは避けたい。

組織的にはギリス・アルバ―グルは部下にあたる存在。
部下の失敗は上司の責任。

そちら側と敵対したいという気持ちはないということを伝えたく、フルード・ガルザックはミレアナが所属するパーティーのリーダーであるソウスケの元を訪れ、謝罪しようと決めた。

初めは冒険者ギルドに訪れて居場所の手掛かりを聞き始めた。
有力情報は直ぐに手に入れられた。

最近はダンジョンに潜らず、鍛冶場で作業を行っている。
それを聞いたとき、何故冒険者が鍛冶を? という疑問が頭に浮かんだが即座に不要な考えは頭から消し去り、職人たちに鍛冶場を貸している鍛冶ギルドへと直行。

だが、完全に当てが外れてしまった。

(クソ、なるべく早い内に敵対したい訳ではないと伝えたかったのだが……いや、ここにいないのであれば、何処にいるのか聞きださなければ)

当てが外れたからといって、意気消沈していられない。

「では、彼が今どこにいるか知っているか」

「……もしかしたら、ダンジョンかもしれませんね」

「ダンジョン……その理由は」

「先日、フルードさんと同じく彼らを訪ねてきた人がいました。そして帰りにお二人の表情をチラッと見たのですが、体から闘志が溢れている様に感じました」

一定の経験を積んだ受付嬢の観察眼は中々侮れない。

「もしかしたら、造ってほしいと頼まれた武器を造るには、ダンジョンに生息するモンスターを倒すしかない。そう思って現在はダンジョンに潜っている……かもしれません」

まさにドンピシャな答えだった。
見事な予想と言えるだろう。

ただ……受付嬢もさすがに三つのダンジョンのうち、どのダンジョンに潜ったのかまでは分からなかった。

(なるほど。可能性としては十分にあり得る話か……だが、ダンジョンともなれば直ぐに向かうことは出来ないな)

ソウスケたちがどのダンジョンに入っているのか、それはフルードにも分からない。
だが、おそらく中級者向けか上級者向けダンジョンだろうと予想出来た。

(おそらく上級者向けダンジョンだろう。中級者向けダンジョンはパーティーメンバーであるミレアナが何度も攻略している。大抵の素材は有しているだろう。それでも武器の素材を欲したとなれば……おそらく上級者向けのダンジョンしかあり得ない)

フルードの頭も中々冴えていた。
中級者向けのダンジョンで手に入る素材に関して、ソウスケたちは殆どの素材を手に入れていた。

それを考えれば、望む素材は上級者向けのダンジョンにしかない。
しかしダンジョンはとにかく広い。

フルードとしてはなるべく早くソウスケに先日の件について謝罪したいのだが、さすがに上級冒険者に我移動するフルードでも上級者向けダンジョンに潜ってまで謝罪しにいくような無謀行為は犯さない。

(チッ!!! 仕方ない……彼らが戻るまで待つしかないか)

今出来ることは何もない。
それが分かったフルードの表情には焦りが浮かんでいた。

「フルードさん、大丈夫ですか? その……随分と焦っている様に見えますけど」

幹部に近い存在の者として本日フルードに同行している者は、ギリス・アルバ―グルと同じく、まだソウスケたちの危険性について把握出来ていなかった。
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