転移したらダンジョンの下層だった

六百四十九話 死は平等に訪れる

ファイヤドレイクが放った特大火球をザハークは水の魔力を纏った大剣で盛大に弾いた。

そして……その特大火球は、なんと綺麗な軌道でギリスたちの方へ飛んできた。

「はっ！？」

ファイヤドレイクと戦っているのはザハークのみで、ソウスケとミレアナは戦っていなかったので気付かれてはいけない。
そう思ったギリスたちはそれなりに離れた位置で戦いが終わるのを待っていた。

だが、そんな距離なんて関係無いと言わんばかりの速度で特大火球がギリスたちの方向に弾き飛ばされた。

自分たちの方向に攻撃が飛んでくるなど一ミリも思っていなかったギリスたちは避けることも防御することも出来ず、盛大に特大火球を食らった。

「ぐはっ！？」

「ぎゃ～～～っ！！！？？？」

「な、なんでこっちに！！」

ファイヤドレイクの渾身の一撃を食らい、ギリスたちは盛大に吹き飛ばされた。

そして気付いたときには……マグマの海の上。

「「「「「「「ッ！！！！？？？？」」」」」」」

まさかの状況に思考が止まってしまう。
このまま落ちれば完全に体を溶かされて死んでしまう。

リアルに死んでしまうと思い、走馬灯が頭を過った。

もう自分たちは助からない。
マグマの海に落ちて体が溶け、死んでしまうのだと……完全に生を諦めた。

ただ……その中で唯一、ギリスだけが諦めずに生きる術を考えていた。

「氷を張る！！　直ぐに飛ぶんだ！！！！」

自分が数瞬だけ氷の床をつくる。
ほんの少しの間だけ残る床を使って、全力で陸地に跳ぶんだと告げた。

リーダーからの言葉は諦めていたメンバーたちに届き、諦めかけていた心に光が差した。

そしてギリスは全力でアイスフロアを使った。
ほんの数秒しかもたないかもしれない。
だが、その数秒あれば十分。

ザハークが弾いた特大火球によってマグマの海に飛ばされたが、一回のジャンプで届かない距離ではない。

「アイスフロア！！！！」

今のギリスたちにはソウスケたちを襲撃することなど、頭の中には全くなかった。
ただただこの状況から生き残るために、全力で跳ぶ。

それだけを考えていた。

「今だッ！！！！　……なっ！？」

ギリスは確かにアイスフロアを発動した。
アイスフロアを発動し、一瞬だけ作った床を利用して陸地に戻るという考えも悪くなかった。

だが……ギリスのアイスフロアで凍らせられる程、ダンジョンのマグマは甘くなかった。

確かに一瞬……一瞬だけではあるが、マグマの海は凍った。
しかし、ギリスたちが床を踏みしめて跳ぶ……この踏みしめる段階で既に氷の床は殆ど溶けてしまっていた。

その結果、ギリスたちはまるで逆の様に転び、そのまま地面にダイブしてしまった。

（がっ！！　あ、熱い！！！！！！！　い、今直ぐ陸地に戻らなければ！！！！！）

何としてでも陸地に戻る。
その気持ちだけは残っているが、マグマの熱さによるダメージで魔法を発動することは出来ず、もがこうにもマグマの海は重くて思う様に進めない。

そしてなにより、マグマの海にダイブしてしまったことで、どんどんギリスたちの体が溶けていく。

（私は、ギリス・アルバ―グルだ！　こ、こんなところで、死ぬわけが……）

自分にはこれから輝かしい未来が待っている。
だから、こんなところで死ぬわけにはいかない。

そう思ったところで……今のギリスが現状から抜け出す術はない。

一番近くにいる同業者のソウスケたちもギリスたちの悲鳴は聞こえたが、それがギリスたちの悲鳴だとは知らない。
仮にギリスたちだと分かっても、ソウスケたちが助けるわけがなかった。

マグマの海に落ちてから十数秒ほど経ち、ギリスたちの体は完全にマグマの海に沈んだ。

ここはダンジョン……挑戦者が平民や貴族であろうとも、死が平等に訪れる場所。
ギリスたちが偶々流れ弾でマグマの海に落ち、亡くなってしまうのも致し方ないことだった。