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六百五十四話 仕方ない事故

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(わざわざ俺にまで謝罪しに来てくれるのは凄い好感が持てるんだけど……その問題のギリス君、もしかしたらうちのザハークがマグマの海に落としてるかもしれないんだよな)

ソウスケはミレアナからもしかしたら……という話を聞いていたので、若干こちらの方がすいませんという気持ちがあった。

だが、すいませんと思うと同時に仕方ないことだと思う部分もあるので、この場でそれを口に出しはしなかった。

(ミレアナの聞き間違いって可能性もあるし、下手にここで言う必要はないよな……それに、ザハークは後ろにいた奴らの存在すら気付いていなかった訳だし……うん、仕方ない事故だ)

仮にこれが後方にいた冒険者たちがギリス以外の者たちであっても、大抵の者が仕方ないと断言する。

ダンジョンの中では何が起こるか分からない。
それは冒険者にとって知っていて当然の知識。

加えて、ギリスたちはザハークとファイヤドレイクが戦っている場所から十分に離れていなかった。
戦闘の規模を考えれば、もっと離れた場所で待機……というよりも、そもそもソウスケたちに用事がなければ別のルートから下の階層に向かうのが妥当な判断。

もし……ここでソウスケたちから、特大火球を弾き飛ばしたことでギリスたちがマグマの海に落ちたかもしれないという話を聞いても、フルードとリーシャが怒ることはない。

「えっと……要件はそれだけでよろしいですか?」

「あ、あぁ……いや、待ってくれ。こちらが詫びの印だ。受け取って欲しい」

そう言いながらフルードは収納袋の中から硬貨がジャラジャラと入った袋をテーブルの上に置いた。

(多分お金だよな……とりあえず有難く貰っておこう)

金には困っていないが、いらないと言っても受け取ってほしいと引き下がらない。
そういうタイプだと判断し、中身を見ることなく亜空間の中へしまった。

袋の中には金貨がそれなりに入っており、氷結の鋼牙がどれだけソウスケたちと対立したくないのか……そういった思いが籠っていた。
だが、ソウスケとしてはギリスの件について謝罪してもらい、詫びの印まで頂いた。

現時点で氷結の鋼牙と争う気は一ミリも無い。

「ありがとうございます」

ここでギリスの件について会話は終わり、二人は部屋から出て行く……そう思っていたが、何故か沈黙の時間が続いた。

「えっと、他に何か問題がありますか?」

ソウスケの頭の中には一つ、もしかしたらと思っている内容があった。

それは、ギリスの件で貴族の当主である親が出てくるのではと。
ソウスケはギリスの親の爵位は知らないが、貴族から色々と文句を言われるのは面倒極まりない。

もしそうなれば、早めに学術都市から離れた方が良いかと考えていた。

「いや、問題は特にない。ただ、その…………何故、冒険者である君が鍛冶を行っているのか少し気になったて」

フルードだけではなく、リーシャも同じ気持ちだった。

「何というか……ただの趣味ですね」

「そ、そうなのか……いや、それにしては」

鍛冶ギルドが貸しているこの鍛冶場が、最高級の場所であることは知っている。
趣味にここまでの費用を使うのか……一般的な冒険者がそう思うのは仕方ない。

「冒険者が本業で、鍛冶は趣味ですよ。冒険者をやっていれば、素材は自力で取りに行けるので、割と良い趣味だとは思ってます」

「それは……そう、かもしれないな」

言葉ではそう良い、一瞬納得しかけたが直ぐにそれは難しいと考え直した。

(そう言えるのは……ソウスケ君が持つ、空間収納あってこその考えだろう)

並みの収納袋では、直ぐに限界が来てしまう。
素材を保管するのも鍛冶師として重要な部分であり、並みの冒険者では色々と金が足りない趣味。

フルードは改めて目の前に座っている冒険者が、色々と桁外れの冒険者なのだと思い知った。
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