転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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七百三十五話 もし、表情があれば

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「ぬっ!?」

クリムゾンリビングナイトは握るロングソードに炎を纏い、剣速を一段階上げた。

(良いなッ!!! それでこそ、戦い甲斐がある!!!)

ザハークも負けじと自作の大剣に水を纏わせ、剣戟を加速させる。

二人の戦いを見れば、素人であれば失神……ルーキーであれば、立っていることすら出来ない迫力がある。
勿論、ザハークとクリムゾンリビングナイトもそんなことは意識していない。

(ッ……攻めのパターンが、少し変わった)

先程までは基本的に剛剣による攻撃がメインで繰り出されていた。
ザハークもそれに対抗するように剛剣で対抗。

ザハークはクリムゾンリビングナイトの剛剣を動体視力と今までの経験、身体能力を活かして回避、もしくは防御。
それに対して……クリムゾンリビングナイトは剣の腕前が優れているからこそ、多数の戦闘経験などなくとも、ザハークの剛剣を対処することが可能。

もし、ザハークが剛剣に加えて体術や攻撃魔法を使用すれば、クリムゾンリビングナイトも読め切れずに攻め潰せる。
そんなことはザハークもとっくに気付いているが、それでも剣で紅騎士に勝つという目標を諦めない。

ただ、今まで剛剣ばかり繰り出してきていたにも関わらず……戦いの中で自然と柔剣を混ぜ始めた。
その一瞬の変化にザハークは見事にやられ、危うく腕を切断されかけた。

(火傷は……問題無いな)

切断されずに済んだが、クリムゾンリビングナイトが振るうロングソードの熱は、既に近づくだけで他者に火傷を与えるまで高温になっていた。

しかし自然治癒力が高いザハークであれば、重票も経てば意識せずとも完全に回復。

(今のところ……七対三といったところか)

剛剣に柔剣が混ざり始めてから、ザハークはその使用頻度を計測。
その結果、おおよそ剛剣が七割、残りの三割が柔剣であると解析に成功し……意識する割合を調整。

どちらかを意識し過ぎれば手痛いダメージを喰らうのは間違いないため、ザハークは解析が終わるまで慎重に対応。

普段からのザハークからは考えられない戦い方かもしれないが、今回の一戦……ザハークは自身を成長させるために利用しようと考えていた。

(さぁ、ここからだな)

ある程度の分析が終わると、ザハークは攻撃を捌きながらもクリムゾンリビングナイトに対する攻撃を怠らない。

「……」

戦いが始まってからそろそろ五分が経過するが……以前と、クリムゾンリビングナイトの表情に変化はない。
そもそも中身が空の鎧モンスターなので表情などあるはずがないのだが……仮に表情があるとするならば、現在ザハークと苛烈な剣戟を行っている紅騎士は……かなり焦った顔をしているだろう。

その理由は、ザハークの異常なまでの成長速度。
クリムゾンリビングナイトと戦い始めてから圧倒的な速度で剣技の腕を向上。
文字通り見て……実際に体験し、クリムゾンリビングナイトの剣技を盗んだのだ。

ただ、まだ完全にその技術力を上回ってはいない。
それでも……ザハークが盗むのは、クリムゾンリビングナイトの剣技だけではない。
動きや思考パターンなども学習し……攻撃への対応に余裕が生まれ始めた。

クリムゾンリビングナイトも身体能力が高いので、余裕が生まれたからといって圧倒的な差が生まれることはないが……剣戟の中で、ザハークの柔剣が何度かクリムゾンリビングナイトの体勢を崩すことに成功。

ここまでくると、クリムゾンリビングナイトも焦らずにはいられない。
とはいっても、剣技のスキルを使えるような隙がザハークにある訳ではなく、少し攻撃パターンを変えて拘束の連続突きなどを放つこともあったが、ザハークの体を薄っすらと切り裂くだけで終わった。

確かにダメージを与える結果にはなったが、それぐらいの攻撃で怯むザハークではなく……遂にクリムゾンリビングナイトに決定的な隙が生まれ、その体に水激刃を叩きこんだ。
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