転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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七百七十五話 普通に送っては駄目

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ソウスケは、メインの仕事は冒険者。
本人もそれを自覚して活動している。

錬金術でマジックアイテムを造ることもあれば、鍛冶で武器を造ることもある。
しかし、自分は冒険者だ。
そう思いながら日々生きているのだが……この日ばかりは、鍛冶師として生きていた。

頭の中でレガースの動き、体験した強さを思い出しながら作業を行う。

武器を造る時、これが買い取ってくれた人の命を預ける相棒になる。
そんな思いを持ちながら作業をしていた。

それは今も同じ。
同じだが……レガースは、戦争に参加すると決まったからこそ、ソウスケに新たな相棒を求めた。
敵となる犯罪者ではない者たちを斬るために、最高の一刀を造って欲しいと、頼んだ。

ソウスケの心は、いつも以上に燃えていた。

ミスリルゴーレムの時より、クリムゾンリビングナイトの時より、ガルムと戦った時よりも心が燃え上がっていた。

集中し過ぎ? 脳が焼き切れる? そんな事はない。
この一振りを造り終えた後に、そのままぶっ倒れても良いと思っている。

今この状況をミレアナやザハークが見ていれば、今まで一番集中していると断言する。

そして作業を始めてから飯も食べず、日が暮れるまで作業を続けた。

「……こんな、ところか」

ソウスケの手には、自ら渾身の一作だと断言出来る刀が握られていた。

「名前は……残焔」

急激に疲労が襲ってくる中、名前が頭に浮かんだ。

レガースの斬撃は、その通り道にすら恐怖を、強さを残す。
そんなイメージから浮かんだ名だった。

「…………ぶっ倒れるかと思ったけど、伊達に造ってないってことなのかな」

それが良いのか悪いのか、解らない。

とりあえず鞘に残焔を収め、亜空間に入れた。

「ソウスケさん、お帰りなさい」

「おぅ、ただいま」

宿に戻ると、まだ夕食を食べずにミレアナが待っていた。

「納得がいく一振りは、出来ましたか?」

「あぁ、出来たよ。まぁ……まだまだ素材の力に頼ってる部分がありそうだけど、個人的にも、悪くないと思ってる」

「それは良かったです……それでは、夕食にしましょう」

正直、ここまでソウスケが良い笑顔で「個人的にも、悪くないと思ってる」と答えた渾身の一振りを今すぐ視てみたい。

だが……あまりにも腹を減っている表情をしていたので、まずは食堂に向かった。

「すいません、これ二つと……これを三つ。それと」

いつも以上に料理を注文するソウスケに、店員を驚きながらも対応し、厨房の料理人にメニューを伝えた。

一人の少年が食べきれるのか?
誰もがそう思う料理の数を、ソウスケは一人で食べきった。

(よっぽど疲れてたのでしょうね)

今までの人生の中で、一番集中していたと言っても過言ではない。
それ程までに集中すれば、腹の減りも過去一になってもおかしくない。

「ところでソウスケさん」

「なんだ?」

「その刀、どうやってレガースさんの元に届けるのですか?」

「どうって、普通に輸送で……」

「それは止めておいた方がよろしいかと」

普通に送れば良いのでは? 

ミレアナはそれを甘っちょろい考えだと断言出来た。
口にはしないが、絶対にそんな方法で送っては駄目だと言える……本人の前では言わないが。

「なんでだ」

「まだ見ていませんが、仮に盗賊などに盗まれでもすれば、大なり小なり問題になります」

ソウスケが造り上げた名刀、残焔はレガースでなければ使えない訳ではない。

十全に使いこなすのは不可能だが、凶悪な武器であることに変わりはない。

「……なるほど。そうなると、自分の足で私に行った方が良いか」

「その方がよろしいかと」

パルスが有する戦力を考えれば、ソウスケたちを除く最高戦力を投入しても、万が一が十分に起こりうる。
その為、ソウスケたちが自らレガースに渡すのが一番。

Aランクモンスターを相手に命懸けのバトルを楽しめる三人であれば、そこら辺の盗賊に負けることは万が一どころか、億が一にもあり得ない。
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