転移したらダンジョンの下層だった

七百七十九話 とりあえず終了

「そ、ソウスケさん。大丈夫ですか？」

「……疲れた」

ミレアナとザハークが地上に戻ってくると、ソウスケは宿のベッドでぶっ倒れていた。

ソウスケへの依頼が止まらないということで、二人は四十一階層に転移し、五十層のラスボス部屋まで超ダッシュで向かい、ボスを倒す。
それを何度も繰り返していた。

二人としては、手伝えるなら制作作業を手伝いたいと思っている。
しかし、鍛冶はミレアナにとって専門外の作業。

ザハークはソウスケと同じく鍛冶を行えるが、自分はまだまだソウスケの域に達していないと自覚している為、容易に手伝うなどと言えない。

結果、二人もそれなりに疲労はしているが、ソウスケは精神的にも体力的にもぶっ倒れるほど消費していた。

「その断ることは出来なかったのですか？」

「これから戦場に向かうんだ。冒険者や騎士たちの、少しでも生存率を上げたいって気持ちは解る」

素材と金を持ってきた人物が、出来上がるであろう武器に見合わない実力しかなければ、断っても良いかと考えていた。

そんなソウスケの考えを嘲笑うかのように、指名依頼をしてくる者たちは全員、出来上がるであろう武器に見合う実力者ばかりだった。

「そ、それはそうですが、疲れていてはパフォーマンスが落ちるかと……」

「それがな、意外と落ちなかったんだよ」

今までも指名依頼を受けてきたが、今回受けたような依頼たちは、事情があるものばかり。
内容は同じだが、今までの指名依頼とは違う部分がある。

そんな経験を一つ乗り越え、また一つ……更に一つ乗り越え、この短期間で一つの壁を超えることに成功。

一種のゾーンに近い状態でもあり、疲労は感じているが、いざ作業を始める時間になると、眼は冴えに冴える。

結果……若干無理だと思いつつも、乗り越えられてしまった。

「流石ですね……朗報と言うのはよろしくないと思いますが、ギルドの方から明日、ギルドに来てほしいとの伝えられました」

「っ、そうか。分かった」

そう言うと、ソウスケは目を閉じ、そのまま寝てしまった。

（……このまま起こさない方がよろしいですね）

時間的に、後一時間も経てば夕食の時間となる。
しかし、どう考えても六十分で疲労が回復するとは思えない。

ミレアナ翌日までソウスケを起こさないと決めた。

当然、ソウスケが依頼人に頼まれた武器を造り終えたという話を聞き、宿に来て依頼を頼もうとする者たちがいたが、全員ミレアナがお断りした。

宿に訪れてきた人物たちは、一瞬「贔屓だ！！　ズルいぞ！！！」という考えが浮かんだが、直ぐに冷静さを取り戻した。
現在ソウスケに直接依頼を頼みに来るような人物は、全員これから起こる戦争について情報を得ている。

そのため、翌日の一件を思い出し、大人しく宿から退散した。

「ふぅ～～～、やろうと思えば出来てしまう実力も考えものですね」

ミレアナが彼らに事情を説明して帰ってもらった翌日、ソウスケは前日の夕食を食べていないこともあり、朝食とは思えない量の料理を頼み、しっかり完食した。

その体のどこに入っているのだと疑問に思うが、宿側としては儲かっているので、特に問題はない。

「マスター、ようやく仕事が終わったみたいだな」

「終わったというか……一応、頼まれた分だけはな」

ソウスケとしては、まだ他にも自分に依頼を頼もうと思っている人がいると予想。

そしてその予想は的中していた。
しかし、先日ミレアナが事情を説明して帰ってもらったため、一先ず制作続きの日々は終了した。

「お待ちしてましたソウスケさん、ミレアナさん……あの従魔のザハークさんは？」

「いつも通り外で待ってもらってますけど」

「本日の席には、ザハークさんも同席してほしいとのことで」

「そうなんですね。分かりました」

ギルドが許可しているのであれば、何も問題はない。

ソウスケは三人で既に事情を知っている者たちが集まる部屋へと向かった。