転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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八百十話 傲慢な考えを、現実に

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「なんか、やけに雰囲気が暗いな」

「……今朝見かけた者たちの中に、帰ってきてない者たちが、以前より多少多いかと」

雰囲気の暗さや帰還者の原因を調べるため、本日戦場から帰ってきた者たちから情報を集める。

「僕たちは遭遇してないけど、サイレントハーベストと呼ばれてる貴族令嬢が参戦したらしい」

「サイレント、ハーベスト……」

聞き覚えがある二つ名だが、どうしてもその全貌が思い出せないソウスケ。

「名前は、ルティナ・ヴィリスト。ルクローラ王国の侯爵家の令嬢であり、女性騎士の一人ですね」

ミレアナの言葉で、ようやく戦争開始前に集めた情報を思い出すことに成功。

「彼女の強さも勿論ヤバいと思うけど、その部隊の平均的な戦闘力の高さも異常と言えるレベル……らしいよ」

運良くルティナ・ヴィリスト率いる部隊から逃げ切ることに成功した者は、ファードへ戻るや否や、即座にその情報を指揮官へ細かく伝えた。

「強敵を倒すときに放つ一撃は、音を立てない。それが二つ名の由来でしたね」

「音を立てない一撃、か」

ルティナ・ヴィリストが戦場に現れ……ソウスケ本体が休息していたこともあり、戦況はややルクローラ王国側が押し返す結果となった。
勿論本日の戦り取りでルクローラ王国側にも被害が出たが、死者数は明らかにエイリスト王国側の方が多い。

「全員がAランク、もしくはAランクと同等の戦闘力を持つ騎士たちで編成された部隊、らしいよ……正直、考えただけでゾッとするよ」

そう口にした男はBランクの冒険者。
確かな戦闘力と技術、思考力を持つ強者の一人。
冒険者という枠で考えれば、誰が見てもプロと呼べる力を持つ。

そんな強者が、思わず体を震わせ、恐怖が表に出てしまう。

「……全員がAランクの強さを持つ部隊、か……」

同僚から更に詳しい情報を聞きだし、ソウスケは仮にルティナ・ヴィリスト率いる部隊と対峙したら、というシチュエーションを頭に浮かべた。

(元の俺なら、多分対応出来たと思う。でも、今は……無理だ。全員がAランクってのを考えると……)

普通に戦っても、自分たちが勝つイメージは浮かぶ。
しかし、必ず誰かが死ぬ。

残念ながら、ソウスケ本体が所属する部隊は、全員がAランククラスの実力者ではない。

(そんな部隊をこっちの戦場に投入してきたってことは、もしかして俺を殺しにきたのか?)

自意識過剰と思われる考えだが、実際のところソウスケ本体が放ったレヴァルグによる投擲……その恐怖から生き残った者が本部に伝えたことで、ルティナ・ヴィリストが送られた。

下がってきている参加者たちの士気を上げるという目的もあるが、ルティナ・ヴィリストたちの最優先事項は、一つの部隊を一撃で崩壊させかねない攻撃を有するソウスケ本体の討伐だった。

(だとすれば、俺を囮にした攻撃も出来る……いや、そういったプレーは上手くないし、相手にバレずに実行出来るか?)

得た情報から、敵の戦力を最大限まで高めた状態で攻め方を考える……が、どれだけ考えても、誰かが犠牲になる。

であれば、サクリファイスを前提に戦略を練る?
それは出来ない。
ソウスケの性格上……現状、それなりに高い戦闘力を有しているからこそ、余計にそんな選択肢を取ろうと決断できない。

「…………ザハーク、お前をメインにしても良いか」

「ふふ、ソウスケさん。俺がその誘いを断ると思っているのか?」

主人から提案された内容は、ザハークにとって溢れ出す闘争心を堪えるのに困る、とても魅力的なものだった。

「いや、そう言ってくれると思ってたよ」

ザハークの強気で歓迎するような態度に、心の中でホッと一安心。

ソウスケ本体は夕食を食べ終えるまでの考えを纏め、事前に作戦を共有するために、部隊のメンバーたちの元へ向かった。
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