転移したらダンジョンの下層だった

Gai

文字の大きさ
880 / 1,259

八百五十話 結果、割れなかった

しおりを挟む
「一先ず、こんなところでよろしいでしょうか?」

ソウスケが依頼主たちに確認すると、令嬢たちは何度も何度も頷いた。

(良かった。何回か令嬢たちの近くで良い感じに止まったから、ご令嬢たちもそれなりに満足してくれたみたいだな)

対戦相手がソウスケということもあり、ザハークは縛りありという内容であっても、自然と笑みが零れていた。

「それでは……少し時間を置いてから、今度はザハークとミレアナとの模擬戦を行います」

「「「「ッ!!!???」」」」

令嬢たちにとっては非常に嬉しい言葉であり、結界を張っていた魔法使いたちにとっては、無慈悲な言葉だった。

結果としてソウスケとザハークの演舞で結界が壊れることはなかった。
しかし、二人の拳や脚がぶつかり合う度に起こる衝撃音に、魔法使いたちは何度も肝を冷やしていた。

正直なところ……もう模擬戦は止めてほしい。
とはいえ、眼をキラキラと輝かせてソウスケからの提案に感激している令嬢たちを見て、結界を張ってお嬢様たちを守り切れる自信がありません、とは言えなかった。

そして約十分後、今度はミレアナとザハークの演舞が行われた。

ミレアナはソウスケ程のパワーがないため、戦闘スタイルはヒットアンドアウェイと受け流しを組み合わせ、ザハークと舞い続ける。

「「「「「ッ!?」」」」

ザハークが攻撃を繰り出したのに、その大きな体が宙を舞う光景は令嬢たちにとって、非常に衝撃が強かった。

しかし、ミレアナの呼吸が解ってくれば、ザハークも攻撃を受け流されて体勢が崩れても、変則的な打撃を繰り出して攻撃を続行。

(やはり、ミレアナとのこういう戦いも、良いなっ!!!)

(ザハーク……解っていますよね? 私はソウスケさんほどの防御力はないのですよ。だから、あまりその笑みを……いえ、ご令嬢たちの依頼内容を考えると、これは受け入れなければ、ならないのでしょうね、ねっ!!!)

もうそれなりの期間一緒に冒険してきたからこそ解る。
その笑みは……心の底から、無意識に浮かべる笑みだと。

そして予定通り、二人は五分ほど演舞を続け、終了。
今回も肝が冷える場面が何度もあったが、それでも結果……一応ひび割れることはなかった。

「はぁ~~~~、本当に最高ですわ」

ザハークの雄味が強い顔を見れ、令嬢たちはご満悦な様子。

「あの、もっと本気で戦えばどうなるのですか?」

一人の令嬢がザハークの主人であるザハークに対してそのような質問をした。

「……おそらくですが、結界が壊れてしまうかと」

ソウスケの言葉に肩がブルっと震える魔法使いたち。

令嬢たちにとっては十分過ぎるほど迫力がある演舞だったが、三人は半分も実力を出していない。

「加えて、これ以上速く動いてしまうと、ザハークの動きや表情を確認出来なるかと」

「そ、そうかもしれませんね……その、それならどうすれば見えるようになるのでしょうか」

令嬢の質問に答えても良いのかと、彼女たちの従者たちに視線を送る。

ソウスケの考えを把握した従者たちは、渋い顔をしながらこくりと頷いた。

「……接近戦の訓練を行い、モンスターを倒してレベルを上げる。そうすれば自然と素早い動きが正確に追えるようになります」

手っ取り早い方法がある。
そんな方法を思い付いてしまったソウスケだが、少々非人道的であるため、この場で口にすることはなかった。

「モンスターとの実戦、ですか……」

当然ながら、令嬢たちは普段から守られてばかりの立場であり、自身がモンスターと戦う姿など全く想像出来ない。

「…………僭越ながら、お嬢様方は全員魔法の才はあるように思えます。モンスターとの戦いに関しては、魔力……魔法の扱いが重要となります。武器も一朝一夕で十全に扱えるような代物ではありませんが、決して出来ないことではありません」

ソウスケの言葉に何人かの令嬢が深く考え込む。

それらしいアドバイスを伝えはしたが、令嬢が乗り越えなければならない壁は決して少なくなく、出来なくはないが容易でもない。
しおりを挟む
感想 253

あなたにおすすめの小説

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

虹色のプレゼントボックス

紀道侑
ファンタジー
安田君26歳が自宅でカップ麺を食ってたら部屋ごと異世界に飛ばされるお話です。 安田君はおかしな思考回路の持ち主でわけのわからないことばっかりやります。 わけのわからない彼は異世界に転移してからわけのわからないチート能力を獲得します。 余計わけのわからない人物に進化します。 作中で起きた事件の真相に迫るのが早いです。 本当に尋常じゃないほど早いです。 残念ながらハーレムは無いです。 全年齢対象で男女問わず気軽に読めるゆるいゆる~いストーリーになっていると思いますので、お気軽にお読みください。 未公開含めて30話分くらいあったのですが、全部行間がおかしくなっていたので、再アップしています。 行間おかしくなっていることに朝の4時に気づいて右往左往して泣く泣く作品を削除しました。 なかなかに最悪な気分になりました。 お気に入りしてくださった方、申し訳ありません。 というかしょっちゅう二行も三行も行間が空いてる小説をよくお気に入りしてくださいましたね。 お気に入りしてくださった方々には幸せになってほしいです。

【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

【めっさ】天使拾った【可愛ぃなう】

一樹
ファンタジー
酔っ払いが聖女を拾って送迎する話です。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.
ファンタジー
「お前の《記録》なんて役に立たない。もうついてくるな」 勇者パーティの“お荷物”扱いに耐えてきたライトは、 ついにダンジョン最深部で置き去りにされる。 追放すらできない規約のせいで、 “事故死”に見せかけて排除しようとしたのだ。 だがその死地で、ライトのスキル《記録》が進化した。 《超記録》―― 敵のスキルや魔法、動きまですべてを記録し、即座に使えるようになる最強格の能力。 生き延びたライトはレグナの街で冒険者として再出発。 努力で《成長》スキルを獲得し、 記録したスキルや魔法は使うほど強化されていく。 やがて《超記録》は最終進化《アカシックレコード》へ。 対象を見ただけでステータスや行動パターンが分かり、 記録した力を即座に上位化し、さらに合成して新たな力まで生み出す究極スキル。 一方、勇者パーティはライトを失った途端に依頼成功率が大幅に低下。 さらに魔王軍四天王の暗躍によって状況は悪化し、ついには洗脳されてライトに牙をむく。 街を襲うドラゴン、仲間それぞれの過去、四天王との連戦。 優しく努力家のライトは、出会った仲間と共に確実に強くなっていく。 捨てられた記録係が、世界最強へと進化する。 爽快無双×成長ドラマの大長編ファンタジー開幕。

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

処理中です...