転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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九百一話 まず肥えるのは眼

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アマンダとクリムゾンリビングナイトの剣戟に美しさを感じているのではソウスケとザハークだけではなかった。

(ほ、殆ど見えませんが……でも、これまでの戦闘と違って、何故か……何故、美しさを感じるのでしょう)

まだアネットの動体視力では、アマンダとクリムゾンリビングナイトの剣戟を正確に観ることは出来ない。

それでも……下層での実戦訓練が始まってから、アネットは必至で自身の護衛たちやソウスケたちが戦う姿を観ていた。

漫然と観るのと必死に戦況を把握しようと観るのとでは、成長に大きな差が現れる。

(……これほど戦闘に興味を示す王族の女性は、やはり珍しい筈……本格的に、第三騎士団の実戦訓練としての指導係? が終わった後、王宮から苦情が飛んでこないかやや心配ですね)

魔法に興味を持つ、そこまでは構わないと思っていた。
しかし……今、アネットは魔法だけではなく武器を持った戦闘にも興味を持ち始めている。

女性騎士という職業がある以上、武器を扱うことがはしたないと言われることは……一応ない。
だが、王族の女性ともなれば……立場上、まず武器を持つ機会すら殆どない。

(冒険者として、戦闘者としては王族が持つ魔力を鍛えないのは勿体ないと思ってしまいますが……いずれは何処かに嫁ぐのですよね? それを考えると…………ダメですね。もう過ぎてしまった事です。これ以上考えるのは止めましょう)

それ以上考えることを止め、ミレアナも第三騎士団の戦闘に意識を向け直す。

(……正直、エルダーリッチが相手であれば、もう少し苦戦するかと思っていましたが、その様なことはなさそうですね)

ダンジョン探索を始める前までの彼女たちであれば、苦戦は免れず……誰かが既に戦線離脱していてもおかしくない。

しかし、彼女たちは今回の実戦訓練で確実に成長していた。
レベルの上昇は身体能力の向上に繋がり、Bランクモンスターとの戦闘は敵から受けるプレッシャーへの耐性を高めていた。

エルダーリッチの魔力量は彼女たちからすれば底なしに思えるが、それでも穴はある。

一人が遠距離からの攻撃を止めることなく牽制し続け、もう一人が放たれる攻撃魔法を相殺、もしくは発動の妨害。
そして残る二人が苛烈に攻める……といった流れを崩すことなく続けることで……一体のエルダーリッチを見事討伐。

そして同僚たちが同じモンスターを倒したことで……もう一体のエルダーリッチと戦っている女性騎士たちの闘争心が更に燃え上がり、数十秒後には見事討伐することに成功。

ボス部屋に表れるエルダーリッチの討伐という功績を見事に達成した彼女たちに……まだ最後の戦いが終わっていないと解っていながらも、アネットは賞賛の拍手を送った。

護衛対象からの……王女からの称賛は嬉しく思うも、彼女たちは直ぐにエルダーリッチの死体を回収して後方へ撤退。

幸いにも、まだ騎士団長と真紅の亡霊騎士の剣戟は終っていない。
彼女たちにとって、その一戦は一寸も見逃すことなく記憶に収めたい戦いだった。


(底なしの体力……生まれ変わりというものがあっても、モンスターになりたいとは、思いませんが、このスタミナだけは、羨ましい限りです、ね)

五十層のボス戦が始まってからまだ五分程度しか経っていないが、アマンダの想定よりも大きくスタミナが削られていた。

しかし、未だその剣技の美しさは衰えていない。

ただ……お互いに無傷ではない。
アマンダが身に付けている鎧……クリムゾンリビングナイトの鎧、共にいくつもの切傷が刻まれており、アマンダの頬には薄い切傷が一つ。

彼女のファンが見れば失神してしまうかもしれないが……本人は全く気にしていない。
ただ、ただただ目の前の好敵手に斬り勝つ。

それしか頭の中になく、最終ラウンドへ突入。
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