転移したらダンジョンの下層だった

九百話 証明相手？

（……結局、ガルフは現れなかったか。有り難い限りだな）

鍛冶師、錬金術師でもあるソウスケからすれば、いくらあっても困ることはない最高クラスの素材。

しかし……現在、アネットを護衛中であるソウスケにとって、スラウザーマンモスや溶岩竜以上に遭遇したくないモンスター。

（けど……アマンダさんは、何度クリムゾンリビングナイトに挑戦するつもりなんだ？）

ソウスケが今後のあれこれに悩みながら決戦前の食事を作る様子を……先にボス部屋前に並んでいた冒険者たちは呆気に取られた表情で見ていた。

既にソウスケたちがとある貴族？　の護衛をしながらダンジョンを探索しているという話は広まっており、バカみたいに絡む者たちは一人もいなかった。

それは先日の戦争でソウスケやミレアナ、ザハークたちが活躍した影響もある。
ただ……そんなソウスケがダンジョンの中でガッツリと料理を作っている……それはあまりにも珍しく、貴重な光景でもあった。

「お待たせしました」

プロ……とまではいかずとも、一般的な冒険者の腕ででは作れない料理が出来上がり、女性騎士たちは決戦の為に……絶対に団長であるアマンダの勝負を邪魔させない為に栄養を摂取。

普段であればゆっくりと味を楽しむところだが、なるべく早めに食べ終わり……自分たちの番が回ってくるまで、軽く素振りを開始。

（……全員、覚悟が決まってるな。エルダーリッチの魔力量や技術力は厄介だが、これなら……下手に俺たちが手を出さなくても十分かもしれないな）

五十階層のボス戦時……ソウスケたちは手を出さないように、アマンダたちから頼まれている。

「…………ようやく、私たちの番ですね」

既にアップは済んでおり、状態はベストコンディション。
他の女性騎士たちもコンディションを最高潮にまで上げており、スタミナと魔力……共に問題無い。

「それじゃあ、行きますよ」

ゆっくりドアを開け……一歩、また一歩足を前に踏み出す。

「ッ、あれが……クリムゾンリビングナイト」

ボス部屋の中央には、準備万端なクリムゾンリビングナイトと二体のエルダーリッチが待ち構えていた。

「さて……戦りましょうか」

アマンダたちが全員抜剣すると、ボスたちもその戦意を察知し、己の武器を構えた。

「スゥーーーーーー…………ッ！！！！！！！」

一気に闘志を全開放し、第三騎士団のトップであるアマンダが駆け出した。

「させません！！！！！！」

「団長の邪魔をするな！！！！」

当然、一人だけで突っ込めば、エルダーリッチ二体が格好の的だと判断し、半端ではない攻撃魔法を放つ。

しかし、それは彼女たちも読んでおり、こちらも半端ではない斬撃刃を放って相殺。

「ッ！！！！」

「申し訳ないけど、私の強さを証明する為に、倒させてもらうわ」

初激は……互いに互角。

「シッ！！！！」

「ッ！！！！」

そこから超ハイレベルなら剣戟に突入。

ファーストタッチ同じく、鍔迫り合うことはなく……互いに高速で名剣を振るい、躱すか弾くかで対処。

（……良いな。金を払ってでも観る価値のある、超ハイレベルの真剣勝負だ！！！）

自分の仕事は、飛んでくるかもしれないエルダーリッチの魔法やクリムゾンリビングナイトの斬撃刃を相殺してアネットにもしもの事が起こらないようにすること。

それは勿論解っているものの……どうしても見惚れてしまう。

（むぅ。それなりに剣術、大剣術の技術は向上したと思っていたが……あの剣戟を見せられると、まだまだ自分の腕は二流なのだと思い知らされてしまうな）

全ての力を活用すれば、クリムゾンリビングナイトを倒すことは可能。
既に何とか討伐しており、負けるという不安は一つもない。

ただ……それでも現在、絶賛激突中の激しくも美しい剣戟にソウスケと同様に感心し、見惚れていた。