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九百八十一話 好みなど知らないが
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「ザハークさん、少しお聞きしたい事があるのですがよろしいでしょうか」
「あぁ、構わないぞ」
セーフティーポイントでの休息中。
アネットは接近戦に関する質問をザハークに行った。
(随分と、勉強熱心なのだな)
どういった意図で接近戦に関する質問をしているのかは解らないが、それでも問われたらしっかりと答える。
ただ、それでも疑問に思った事を問わずにはいられなかった。
「……アネット様は、どうして接近戦に関してそこまで詳しくなろうとするのだ?」
ザハークの問いに口出しはしないものの、ミレアナはそれに関しては少し気になっていた。
アネットの本職……は王女だが、戦闘スタイルは魔術師のそれ。
魔力を纏うことで身体強化を行うことは可能だが、本職の接近戦タイプには敵わない。
「少しでも学ぶことで、私も……彼女たちに近づけるかと思って」
その眼には、度々自身を護衛してくれている女性騎士たちへの敬意があった。
女性騎士たちにとって、そういった思いを持ってくれていると知り、非常に嬉しい。
非常に嬉しいのだが、問題がないわけではない。
(……人間は食生活やトレーニング次第で肉体は化けるらしいが、どうなのだ?)
遺伝、という観点から見て……父親である国王はそれなりの背丈を持っていた。
ただ……肉体に関する成長度合いは、母親の遺伝による影響が大きい。
アネットの母親である王妃はザハークもソウスケも見たことがなく、何とも言えない部分が強い。
「……アネット様の主力は、間違いなく魔法。接近戦を主とする者たちの動きや考えを学ぶのは良いことだと思うが、アネット様自身がそちらに力を入れるのは、あまりお勧めしない」
「っ……それは、私に才がないからでしょうか」
ザハークはそう言ったわけではないが、アネットとしては……ザハークの強さ、戦いぶりを知っているからこそ、そっちの方面の才はないから止めとけと言われたのかもと捉えてしまった。
「それはどうだろうな。そこに関してはまだ解らないが…………人は、生物を殺すという感覚に強い何かを感じるのではないか?」
忘れられがちだが、ザハークは鬼人族ではなくオーガの希少種。
元々と生物を己の手で殺すことに対して、全く忌避感などはなかった。
「拳で殺す、武器で殺す。魔法で遠距離から殺すのとは違い、おそらく何か感じるものがあると思うが……どうなんだ?」
自身にその感覚はなかったため、ミレアナや護衛の女性騎士たちに意見を求める。
「……確かに、離れた場所から殺すのと、接近戦や素手で殺すのとでは……実際に生物を殺したという感覚に、大きな差があります」
「私も……同じ意見です」
「あれは、何とも言えない感覚、ですね」
ザハークの考えはまさにその通りであり、多くの者がその道を通る。
「俺としては、王女という立場を考えれば鍛えるのは構わないが、わざわざそこまで体験せずとも良いと思ってな」
「…………」
「それに……俺は面白いと思うが、そちらの方も頑張って……立派な肉体になってしまったら、後々どうするのだ?」
これまで多くの冒険者を視てきた。
前衛を担う冒険者の中には、ムキムキマッチョな男性冒険者に負けない筋肉を持つ女性もおり、そこまでではないにしろ……明らかに一般男性より勝っている筋肉を持つ前衛女性冒険者は少なくない。
「接近戦の技術を磨くとなれば、それなりの身体能力が必要になる。アネット様の年齢では……あれだ、まだまだ
これから成長期? という段階なのだろう」
「そうですね。ソウスケさん曰く、まだまだこれから色々と伸びる時期という見解のようです」
「俺はあまり詳しくはないが、王女という立場である限り、いずれは誰かと結婚……夫婦というのになるのだろう。俺は人の好みなど詳しくはないが、あまり頑張り過ぎるとそういった点で不利益になるのではと思ってな」
意外にも最も過ぎる考えに、女性騎士たちはアネットの向上心を上手くフォローすることが出来なかった。
「あぁ、構わないぞ」
セーフティーポイントでの休息中。
アネットは接近戦に関する質問をザハークに行った。
(随分と、勉強熱心なのだな)
どういった意図で接近戦に関する質問をしているのかは解らないが、それでも問われたらしっかりと答える。
ただ、それでも疑問に思った事を問わずにはいられなかった。
「……アネット様は、どうして接近戦に関してそこまで詳しくなろうとするのだ?」
ザハークの問いに口出しはしないものの、ミレアナはそれに関しては少し気になっていた。
アネットの本職……は王女だが、戦闘スタイルは魔術師のそれ。
魔力を纏うことで身体強化を行うことは可能だが、本職の接近戦タイプには敵わない。
「少しでも学ぶことで、私も……彼女たちに近づけるかと思って」
その眼には、度々自身を護衛してくれている女性騎士たちへの敬意があった。
女性騎士たちにとって、そういった思いを持ってくれていると知り、非常に嬉しい。
非常に嬉しいのだが、問題がないわけではない。
(……人間は食生活やトレーニング次第で肉体は化けるらしいが、どうなのだ?)
遺伝、という観点から見て……父親である国王はそれなりの背丈を持っていた。
ただ……肉体に関する成長度合いは、母親の遺伝による影響が大きい。
アネットの母親である王妃はザハークもソウスケも見たことがなく、何とも言えない部分が強い。
「……アネット様の主力は、間違いなく魔法。接近戦を主とする者たちの動きや考えを学ぶのは良いことだと思うが、アネット様自身がそちらに力を入れるのは、あまりお勧めしない」
「っ……それは、私に才がないからでしょうか」
ザハークはそう言ったわけではないが、アネットとしては……ザハークの強さ、戦いぶりを知っているからこそ、そっちの方面の才はないから止めとけと言われたのかもと捉えてしまった。
「それはどうだろうな。そこに関してはまだ解らないが…………人は、生物を殺すという感覚に強い何かを感じるのではないか?」
忘れられがちだが、ザハークは鬼人族ではなくオーガの希少種。
元々と生物を己の手で殺すことに対して、全く忌避感などはなかった。
「拳で殺す、武器で殺す。魔法で遠距離から殺すのとは違い、おそらく何か感じるものがあると思うが……どうなんだ?」
自身にその感覚はなかったため、ミレアナや護衛の女性騎士たちに意見を求める。
「……確かに、離れた場所から殺すのと、接近戦や素手で殺すのとでは……実際に生物を殺したという感覚に、大きな差があります」
「私も……同じ意見です」
「あれは、何とも言えない感覚、ですね」
ザハークの考えはまさにその通りであり、多くの者がその道を通る。
「俺としては、王女という立場を考えれば鍛えるのは構わないが、わざわざそこまで体験せずとも良いと思ってな」
「…………」
「それに……俺は面白いと思うが、そちらの方も頑張って……立派な肉体になってしまったら、後々どうするのだ?」
これまで多くの冒険者を視てきた。
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「接近戦の技術を磨くとなれば、それなりの身体能力が必要になる。アネット様の年齢では……あれだ、まだまだ
これから成長期? という段階なのだろう」
「そうですね。ソウスケさん曰く、まだまだこれから色々と伸びる時期という見解のようです」
「俺はあまり詳しくはないが、王女という立場である限り、いずれは誰かと結婚……夫婦というのになるのだろう。俺は人の好みなど詳しくはないが、あまり頑張り過ぎるとそういった点で不利益になるのではと思ってな」
意外にも最も過ぎる考えに、女性騎士たちはアネットの向上心を上手くフォローすることが出来なかった。
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