転移したらダンジョンの下層だった

Gai

文字の大きさ
953 / 1,293

九百九十五話 損なってはならない

しおりを挟む
「おい、ソウスケ殿は何処にいるか解かったか」

とある王族の一人が側近の騎士に問うた。

ルクローラ王国との戦争で立役者の一人となった冒険者、ソウスケ。
男は彼を……自分の陣営に引き入れよう、などとは考えていない。

ただ、一つ頼み事をしたかった。

「それが……既に、王都から出発したようです」

「何っ!!!??? す、数日前に王都に戻って来たばかりではないのか!!??」

先日、血の繋がった妹が珍しく剣を振っている姿を見た。

その手に握られている剣……短刀には見覚えがなく、いったい何処で購入したのかと尋ねると、妹は嬉しそうな表情で答えた。

先月、無理を頼んで第三騎士団の遠征に付いて行った時に、護衛であるソウスケに造ってもらったのだと。

妹が持つ短刀の質と、あのソウスケが造った……話には聞いていたが、本当に冒険者でありながら武器を造るのかと、決して小さくない衝撃を受けた。

一流の職人が造る物と変わらない質に加えて、ソウスケという英雄が造ったというプレミアム感に惹かれ……男もソウスケに依頼して、自身の武器を造ってもらおうかと考えた。

しかし……そう思った時には既に遅く、ソウスケたちはそういった事態になることを想定していたのか、アネットたちを王都に送り届けた翌日には王都を離れていた。

「アネット様と第三騎士団のメンバーを送り届けた翌日には、王都から旅立っていたようで」

「むぅ……既に、次の冒険先を見つけていたという事か」

「依頼であれば、冒険者ギルド……もしくは鍛冶ギルドを通して依頼することは可能かと」

「もし、王都に届くまでに野盗などに奪われたらどうする。二重の意味で頭が痛くなる」

「であれば、何名かの騎士を向かわせて直接ソウスケ殿から受け取ることも可能ですが」

やりようはいくらでもある。

ただ、この王族の男としては……既に王都から離れたソウスケに、あまり依頼を頼む気にはなれない。
何故なら……父親である国王から、決してあの冒険者と対立するような真似はするなと忠告されているため。

「……今回は止めておこう」

「よろしいのですか?」

「よろしいのかよろしくないのかで言えば、よろしくない。ただ、第三騎士団とアネットの護衛? を終えたばかりであろう。あまり権力には興味がなく、冒険を楽しむ冒険者らしい冒険者であることを考えれば……ここで王族からの依頼がくれば、不機嫌になってもおかしくはない」

最後の決着を付ける三戦の中の一戦だけ活躍したのではなく、戦争が始まってからずっと活躍し続けていた。

同じ部隊のメンバーを誰一人死なせることはなく、時にはピンチに瀕した別部隊の同士を救出。

(それに、あのルティナ・ヴィリストとの一騎打ちに勝利した鬼人族……ではなく、オーガの希少種、ザハークだったか。そんな怪物に加えて、目立った戦果はないが陰の立役者と言われているエルフもいる……改めて考えると、本当に敵に回したくない戦力が揃っているな)

知る者は殆どいないが、そこに分身スキルによって生み出された分身ソウスケは単独で多数のスキルを操りながら多くの敵兵、冒険者、騎士を殲滅し、陰ながら同士を救っていた。
加えて……決着を付ける三戦のラスト、ジェリファー・アディスタとの戦闘にも勝利している。

エイリスト王国の歴史が始まって以来、一つの団体が上げた戦果の中でも一番の内容である可能性大である。

「……冒険者に王族が気遣うというのは」

「解っている。普通に考えればおかしな話だ。だが……お前もソウスケ殿たちが上げた戦果の内容は知っているだろう」

「えぇ、勿論でございます」

「他の者たちも良く頑張ってくれた……それは間違いないだろう。しかし、彼らがないなければ被害はもっと多かった。勝つにしろ負けるにせよ、それだけは間違いと言える」

ただの強者、という言葉では収まらない強さを持つ存在。

そんな存在に少しも気を遣わない者は……ただの阿呆である。
しおりを挟む
感想 254

あなたにおすすめの小説

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

忍者ですが何か?

藤城満定
ファンタジー
ダンジョンジョブ『忍者』を選んだ少年探索者が最強と呼ばれるまで。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった! スキルスキル〜何かな何かな〜 ネットスーパー……? これチートでしょ!? 当たりだよね!? なになに…… 注文できるのは、食材と調味料だけ? 完成品は? カップ麺は? え、私料理できないんだけど。 ──詰みじゃん。 と思ったら、追放された料理人に拾われました。 素材しか買えない転移JK 追放された料理人 完成品ゼロ 便利アイテムなし あるのは、調味料。 焼くだけなのに泣く。 塩で革命。 ソースで敗北。 そしてなぜかペンギンもいる。 今日も異世界で、 調味料無双しちゃいます!

30代からはじめるダンジョン攻略!脱サラ男によるダンジョン攻略術。

神崎あら
ファンタジー
31歳、独身、職業攻略者。 世界にはダンジョンと呼ばれる不思議な建造物が出現して早20年、現在世界はまさにダンジョン時代と呼ばれるほどにダンジョンビジネスが盛んになった。  これはそんなダンジョン攻略者になったアラサー男性の冒険譚である。 ※話数の表記の修正と同じ話の整理を行いました。 18時更新します

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

処理中です...