転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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千五十一話 厄介な欲

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「っと、何はともあれ、欲というのは向上心の原動力になります。なので、そこを上手く刺激することが出来れば、教育が上手く進むかと……個人的には思います」

「欲、か。騎士としては、寧ろそういった部分を抑えて本業に……と思いたいところだが、実はそういった部分で不満が溜まっている可能性があるのですね」

「ん~~~……騎士の中にも、平民出身や貴族出身の者がいると思うので、騎士道精神ってやつに対する考え方は、少し別れてると思います。ただ、やはり平民であっても貴族であっても、欲というものは存在します」

貴族なんざ、良い血統っと血統を混ぜ合わせてきた品種改良種だろ……とはさすがに口にはしない。

「上に行く、そしてその中で間違いを起こさないように、道を逸れないようにするには、上手くその欲を発散するのが……良いのではないかと」

「欲とは、溜まるものというのは解っていたが…………うむ。ソウスケ殿の言う通り、否定出来ないところは、多々ある」

護衛の騎士の男は、かつて騎士を育成する学園で学生生活を送っていた。

超都会の学園ということもあり、噂の真偽はさておき、様々な噂話が自分から探しに行かなくても入ってくる。

その中には、現役の騎士が辻斬りを行っていた、盗賊に堕ちた……などといった情報もあった。
真偽は解らぬものの、火のない所に煙は立たない。

「とはいえ、欲という者にも種類があると思うのだが」

「ですね~。人間の中にある基本的に強い欲求は食欲性欲睡眠欲。まずこの三つがあって、人によってそこにその三つと同じぐらい大きな欲を持ってる場合もありますね」

「食欲と睡眠欲は解りますが……性欲とは、そこまで大きな欲ですか?」

「えっとですね……こんな事言うのはあれですけど、俺とヌレールア様が出会った場所があれですよ」

「……失礼しました。そうですね、確かに……種の繁栄という意味も含めて、とても重要な欲ですね」

ヌレールアがソウスケの豪快な人間投げを見た場所は、欲という欲が渦巻く街、歓楽街。
場所は娼館。

ソウスケの小さな声でそれを思い出し、確かに一つの大きな欲だと……認めざるを得なかった。

「この…………他にも、戦闘欲がその三つの欲並みに大きな人も、割といるでしょうね」

この世界では、という言葉をギリギリのところで引っ込める。

「個人的には、ソウスケ殿と同じ冒険者に多いイメージがあるな」

「そういう雰囲気を気取ってる人だけの人も少なくないですけどね。後は、承認欲求、という欲が割と大きい人は大きいかもしれませんね」

「承認欲求、とは……満たされたい欲、ということですか?」

「その認識であってると思います」

ソウスケが元居た世界では、そういった者たちが多数おり……多数いると解る環境でもあった。

ただ、承認欲求に関しては、この世界で生きる者たちの中にも多くいる。

「他者から褒められたい、認められたい……異性からモテたいという欲も、承認欲求と言えるでしょう」

「……妻いる身の上、深く頷くことは出来ないが、部下たちの中にはそういった欲を持つ者は、確かにいるな」

「自分としては、モテたいという承認欲求は…………一応厄介ではあると思いますけど、一番面倒なのは他者から褒められたい、認められたいというタイプの承認欲求だと思ってます」

「……………………ふぅーーーーー。非常に、頭が痛くなる内容だ。いや、うむ…………難しいと、言わざるを得ないな」

男の学生時代に、先程ソウスケが説明した内容をそのまま表すかのような事件があった。

貴族出身の騎士である男としては、認めたくないところだが、半分指導者といった面もあるため……認めない訳にはいかなかった。

「認められたいが為に、誰かを蹴落としてでも、誰かの功績を奪ってでてもと考える人はいるでしょう。なのでと言うのはイスタンダル家に対して失礼だとは解っていますが、是非とも部下の方々が頑張った時は、その頑張りを認めて上げてください」

「えぇ、そうですね……助言、感謝いたします」

男は、やはり中身は十代半ばではないのでは? というツッコミの言葉さえ思い浮かぶことはなく、深くソウスケの助言に感謝の心を持った。
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