転移したらダンジョンの下層だった

Gai

文字の大きさ
1,017 / 1,259

千五十八話 まだ、未熟

しおりを挟む
「っ、どうやら……ヌレールア様は覚悟を決めたようだな」

攻めの姿勢、防御の姿勢に対して変化を感じ取ったソウスケ。

「つまり…………相手のガス欠を待って、倒すということか」

「おそらくな。温い倒し方だと思うか?」

「ヌレールアとあのリザードマンの戦闘力の差を考えれば、妥当な倒し方だ。実力差を考えれば、その時まで耐え続けるのも難しい筈だ」

既にヌレールアの体にはいくつもの切傷が刻まれていた。

加えて、体力の残量に関してはリザードマンが勝っている。
モンスターにも魔力切れによる非常に強い倦怠感はあるものの、現状では両者共にデッドレースに近い状態。

「あら、ザハークでもそういった事が解るのですね」

「……想像だ」

ザハークの場合、攻めて攻めて果敢に攻め続けて勝利を捥ぎ取る。

ミレアナはそれを知っている為、素直にザハークがヌレールアの戦い方を褒めるのが意外に感じた。

「ヌレールア様はしっかりガードするだけじゃなく、時折攻撃も仕掛けている。一応、カモフラージュは出来てるけど……あのリザードマンが気付くと思うか?」

「難しいところですね。剣ではなく槍を使っている時点で普通の個体には思えませんが、だからといって知力まで普通ではないとは限りませんし……ですが、少なくとも魔力が切れたからといって、逃げることはないかと」

「ミレアナの意見に同感だな。リザードマンもリザードマンで、相手が激しく消耗してることには気づいてるだろう。であれば、魔力が切れたとしても、確実に殺そうとする闘志が体を動かす筈だ」

同じモンスターであるザハークは、リザードマンの行動を把握していた。

そして……ついに、その時が訪れた。

「っ!!!???」

リザードマンはリザードマンで中々仕留めきれない敵を倒すことに集中し過ぎ、自身の魔力量管理を怠ってしまった。

その結果、槍をまともに受け止められてしまった。

「ああぁああああああああっ!!!!!」

千載一遇のチャンスを待っていたヌレールアは魔力を纏った大剣で、リザードマンを一刀両断……するのではなく、大剣を盾にする様な形でリザードマンに飛び掛かった。

「おら!!! おら!!! おらッ!!!! ぅおらッ!!!!!」

リザードマンは飛び掛かりという予想外の行動に備えられるわけがなく、そのまま押しとされ……馬乗り状態にされた。

そしてヌレールアはそこから両拳をメインに魔力を纏い、何度も何度も鉄槌を振り下ろした。

「おらッ!!! おらッ!!!!! せやっ!!!!!」

何度も何度も……飛び掛かった瞬間から、体力が尽きるまで絶えず鉄槌を振り下ろし続けた。

「はぁ、はぁ……はぁ…………や、殺っ、た?」

ヌレールアの両拳は血まみれになっており、体も血飛沫で血まみれ状態。

「お疲れ様です、ヌレールア様。あなたの勝利です」

振り下ろされ続けた鉄槌は既にリザードマンの頭部を……頭蓋骨を、脳を砕き、完全に爆散した状態となっていた。

「僕が……勝ったん、ですか?」

「えぇ、そうです。ヌレールア様の目の前に、頭がないリザードマンがなによりの証拠です」

「……………………本、当に僕が……倒したん、ですね」

なんとか力を振り絞って立ち上がり、先程まで馬乗りになりながら必死に鉄槌を振り下ろし続け、ようやっと討伐したリザードマンの死体を確認。

「ヌレールア様、最後……どうして大剣で切断するのではなく、馬乗りになって殴り倒すという選択を選んだのですか?」

選択自体は、非常に虚を突く素晴らしい内容であったのは間違いない。

だが、少なくともソウスケは大剣で勝負を決めるとばかり思っていた。

「……僕の大剣は、まだまだ未熟です。相手がリザードマンとあっては、仮に魔力を纏えず、身体強化のスキルを使えなくなっていても……受け止められてしまうかもしれないと思って」

自分はまだまだ弱い。
だからこそ、どう倒すか。

それを更に深く考えた結果、馬乗りからの頭部を殴り続けるという選択を選んだ。

その選択に、ソウスケは改めて賞賛を送った。
しおりを挟む
感想 253

あなたにおすすめの小説

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

虹色のプレゼントボックス

紀道侑
ファンタジー
安田君26歳が自宅でカップ麺を食ってたら部屋ごと異世界に飛ばされるお話です。 安田君はおかしな思考回路の持ち主でわけのわからないことばっかりやります。 わけのわからない彼は異世界に転移してからわけのわからないチート能力を獲得します。 余計わけのわからない人物に進化します。 作中で起きた事件の真相に迫るのが早いです。 本当に尋常じゃないほど早いです。 残念ながらハーレムは無いです。 全年齢対象で男女問わず気軽に読めるゆるいゆる~いストーリーになっていると思いますので、お気軽にお読みください。 未公開含めて30話分くらいあったのですが、全部行間がおかしくなっていたので、再アップしています。 行間おかしくなっていることに朝の4時に気づいて右往左往して泣く泣く作品を削除しました。 なかなかに最悪な気分になりました。 お気に入りしてくださった方、申し訳ありません。 というかしょっちゅう二行も三行も行間が空いてる小説をよくお気に入りしてくださいましたね。 お気に入りしてくださった方々には幸せになってほしいです。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

処理中です...