転移したらダンジョンの下層だった

Gai

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千百二十話 曖昧な理解故に

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「ん? あれは……ドラゴンじゃ、ないな」

「その様だな。しかし…………相当な強さだ」

視線の先で冒険者たちと戦っているモンスターはこれまで三人が遭遇してきた火竜や岩竜、風竜といったドラゴンではなく、頭部から刃が生えている虎、ヴァレードタイガーである。

「わぉ……あの虎系モンスター、名前はヴァレードタイガーで、Aランクのモンスターだ」

「Aランク、か…………確かに、似た様な雰囲気を、感じるな」

ザハークが思い出していたのは、学術都市が有する上級者向けダンジョンの深層で遭遇した狼系のモンスター、ガルム。

実際に戦ったのはソウスケではあるが、その雰囲気は覚えていた。

「……難しいところ、ですね」

冷静に戦況を観察しているミレアナ。

応戦している冒険者たちもドラゴニックバレーで活動する冒険者らしく、相当な戦闘力を有している。
素材や功績に目が眩み、実力不足で入り込んだ愚か者たちではない。

ただ……それでも、戦況は三対七で冒険者たち側が不利だった。

「ふむ。ヴァレードタイガーと戦っている冒険者たちも、悪くない戦闘力だな。ただ、このまま行くと……死ぬか?」

「何人かは、死ぬかもしれませんね。その犠牲を入れれば、勝てる可能性はあるでしょう。しかし……あのヴァレードタイガー、傷が多く……そして、かなり人と戦い慣れていますね」

「みたいだね…………人間とだけじゃなくて、ドラゴンと何度も戦ってるのかな」

ソウスケの予想通り、ヴァレードタイガーは何度もドラゴンと戦闘を行っていた。
ただ、過去に冒険者たちと戦闘を行った際……命の危機を感じ、逃走という選択肢を選んだ。

ドラゴニックバレーには、生息しているドラゴンたちに暗黙のルールの様なものがある。
適応されているのは主にドラゴンという種だけだが……モンスターたちはそこまで頭が良くはなく、暗黙のルールに関しても曖昧にしか理解してない個体も多い。

故に、ヴァレードタイガーは何度か多数のドラゴンから、何故まだドラゴニックバレーにいるのかと責められ、襲撃を受けた。
だが……ヴァレードタイガーは責められ、攻められることに屈しず、逆に食い返した。

暗黙のルールなど知ったことではない。
ただ、自分を敗走に追い込んだ人間に関して恨みはある。

だからこそ、人間と遭遇した際は、なるべく観察しながら戦っていた。
特別知能が高い個体ではなかったが……強くなる為に、適応した。

「……随分と、戦い慣れてる気がする」

「人と、ですね」

「あぁ。そりゃモンスターの中には知能が高いモンスターはいると思うけど、あのヴァレードタイガー……人間の戦い方に慣れてるだけじゃなくて、対パーティーとの戦い方にも慣れてないか?」

当然だが、ドラゴンやAランクモンスターと戦う冒険者たちは、ザハークの様に一人で戦おうとはしない。
これまた当たり前のことだが、わざわざリスクの高い対応も取らない。

わざと真正面から戦おうとはせず、タイミングをズラし、死角からも狙う。

しかし、ヴァレードタイガーはそういった攻め方をされるのに慣れているのか、明らかに死角から高速で飛来する攻撃にも対処していた。

「あっ、一人……離脱しましたね」

「だな。あそこから復帰する為にはもう一人離脱して……うん、そうなると……死にそうだな」

犠牲にして勝利を得られる可能性が極端に下がった。

(……行きましょうか)

(うむ)

リーダーの表情を見て、二人はこれから自分たちがどういった行動を取るべきか察した。

「……行くぞ、二人とも」

「「了解」」

ソウスケから命を受け、二人も後に続く。

「っ!?」

ザハークが注意を引くために強烈な殺気を放ち、予想通りヴァレードタイガーは反応。

その隙に前衛で耐えていた冒険者たちは後方に下がった。

「死にそうだったので、勝手ながら参戦させてもらいます」

新たに現れた人間が三人。

ヴァレードタイガーは焦ることなく、怒ることなく……ただただ、目の前の獲物を狩ることに集中し始めた。
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