転移したらダンジョンの下層だった

千百二十九話 苦ではない

「お待たせしました。こちらが換金金額になります」

受付嬢はロビーのカウンターには戻らず、査定を行った倉庫でソウスケに素材の買取金を渡した。

「……どうも、ありがとうございます」

国外の冒険者だからといって、変に嘗めらてる訳ではないと把握し、ソウスケは特に文句を口にすることなく買取金額を懐にしまった。

その後、戻ってきたソウスケたちに視線が集まるも、再びミレアナが絶対に話しかけるなオーラを零すことで、夕食前に厄介騒動に絡まれることなくギルドの外へ出た。

「ザハーク、行くぞ」

「あぁ。ではな、小僧たち」

「「「「またね～～～～！！！」」」」

見た目鬼人族に近いが、それでもオーガであるザハークはギルドの外で待っており、話は直ぐに広まった。
その結果、ソウスケたちと同じ冒険者……ではなく、生のオーガがいるという話を子供たちが聞きつけ、集まってしまった。

「……なんか、結構前にも似た様なことあったっけ」

「かもしれないな」

「ザハークは、意外にも子供たちを相手にするのが上手いですよね」

「どうだろうな。子供など、片手で持ち上げてぐるぐる回っていれば勝手に満足するだろう」

ザハークにとって、モンスターなどから向けられる殺気は、闘争心を刺激されることもあり、寧ろ心地良いと感じる。
だが、人間たちから向けられる値踏みされるような視線に関しては、非常に気に食わない。

そんなクソ面倒な大人達と比べれば、純粋な興味心だけを向けてくる子供の相手は、特に苦ではなかった。

「……ふふ、かもしれないな」

もう、何年も前になる記憶を思い出し、ソウスケは小さな笑みを零した。

「それにしても、今回は特に問題などは起こらなかったのだな」

査定に時間が掛かる。
それは理解してたため、二人が冒険者ギルドから出てくるのに多少の時間が掛かった事に関しては、特に中で何かに巻き込まれていると予想することはない。

ただ、毎回高確率で面倒なバカに絡まれるため、もしかしたら自分の出番が来るかもしれないと、ザハークはほんの少しそわそわしていた。

「ミレアナが私に話しかけるなオーラを全開にしててくれたからね」

「あぁ、なるほど。中からヒヤッとした空気を感じると思ったら、そういう事だったのか」

「そうでもしないと、どうでも良い話しかしないバカたちが寄ってきますからね」

ミレアナにとって、大半の話がどうでも良い話である。
ソウスケに話がある存在……であればまだしも、自分に用がある者など、絶対に碌な者がいないと断言する。

さすがに断言するのは早計ではと思われるかもしれないが、ミレアナはこれまでの経験上……断言してシャットアウトしないと、面倒事にしかならないと思っている。

「…………そうなのかもしれないな」

人間の思考など対して興味もないザハークではあるが……ミレアナに話しかける人間は、どうせミレアナと飯が食べたい、もしくは合体したいと考える者が殆ど……という事だけは深く考えずとも理解出来る。

加えて、そういう物たちは、大抵ソウスケの実力をある程度すら把握出来ない。

「とはいえ、話しかけるなというオーラを零していたとしても、いずれ命知らずが話しかけてくるかもしれないな」

「……ソウスケさん。もし、そういった人物が話しかけてきた場合、叩き潰してもよろしいでしょうか」

ザハークの言う通り、話しかけるなオーラを無視する、ある意味強者が現れてもおかしくない。

「話して、向こうが普通に引き下がるなら、下手にどうこうしない。話しても引かないなら、ちゃんと訓練場に移動する。そこでなら、叩き潰しても良いよ。まぁ……男なんて、睾丸をぶっ潰せば、直ぐに大人しくなると思うけど」

「分かりました。話しかけてきたことを心底後悔するほど、蹴り砕いてみせます」

余計な事を言ってしまった？　とは全く思っていないソウスケ。

単純に、本人が拒否しているのに引き下がらない時点で、その人物が悪い……ただ、それだけである。