転移したらダンジョンの下層だった

千百四十話 可能性は確かにあった

「……どうやら、彼女は私の想像以上の強さを持っていたようですね」

「正直、俺も同じ感想かな」

ザハークとベルダの戦闘が始まってから、既に数分が経過していた。

現状……相変わらずザハークがベルダの猛撃を真正面から対応しているという形が続いている。
やはりザハーク優勢の状況は変わらない……という事もなく、ザハークが遊んでいるからか、徐々に青痣が増え始めていた。

「…………これだけの強さを有しているのであれば、可能性はもっとありそうですね」

「だな」

正直なところ、ソウスケたちはベルダが友人たちと共にヴァレードタイガーに挑んだとしても、勝率は一割……二割あれば良い方だと思っていた。

だが、ベルダの戦いっぷりを見る限り、三割はあると言っても良いほどの戦闘力を有していた。

「爪、牙を潰すことが出来れば、ベルダさんを含めて、一緒に戦う人たちが死なずに済んむ可能性が更に高まりそうだな」

「そうですね……とはいえ、それはそれで難しい話ではあると思いますが」

ヴァレードタイガーの牙や爪は、Aランクモンスターに相応しい鋭さだけではなく、堅さも有している。

いくらベルダの拳や蹴りが強烈であっても、確実に破壊出来るとは限らず……寧ろ、積極的に狙えば逆に手痛いカウンターを食らってしまう危険性が高まる。

「ってなると、懐に潜り込むのが一番か？」

「彼女の拳撃、蹴撃が叩き込まれれば……上手く心臓の場所を捉えられれば、その一撃だけで仕留めることは不可能ではないでしょう。ただ、そうなると、どのようにして懐に潜り込むかが課題になりますね」

「……一緒に挑む人がいると仮定した場合、どうにかして浮かせてもらえばいけそうじゃないか？」

ほんの数秒でも宙に浮かばせることが出来れば、着地するまでに仕留めることが出来る。
この考え自体は正しく、ヴァレードタイガーは基本的に宙を移動できる能力やスキルなど持っていない。

ただ、ネコ科のモンスター特有の身軽さがあるため、飛ばし過ぎればチャンスを失うかもしれない。

「あまり浮かせてしまう時間が無ければ、空中で爪撃波を放つ時間をつくってしまいます」

「あぁ～～～、そっかぁ。となると、ヴァレードタイガーを宙に浮かせた瞬間に、超タイミング良く懐に入って、心臓部に渾身の一撃を叩き込むってことか…………超難しくないか？」

「超難しいと思います。仲間が絶対に浮かせられると信じ、丁度良い高さまで浮かせたとしても、爪撃波を放つ前に懐に入れたとしても、全く動かないということはないでしょう」

ミレアナの言う通り、相手がAランクモンスターという超猛者、怪物ということを考えれば、非常に成功させるのが難しい連帯だが……それが出来れば、ベルダレベルの者たちでもヴァレードタイガーを討伐出来る可能性がある。

「……まぁ、全部タラればの話だけど」

「ですね……しかし、ザハークが遊んでいるとはいえ、ヴァレードタイガーを前にしてもあそこまでの覇気を放ち続け、同じ動きが出来ればと考えると……もし、私たちよりも先にヴァレードタイガーと出会っていればと、思ってしまいますね」

ミレアナはザハークの様な戦闘狂ではないため、ベルダたちよりも先にヴァレードタイガーと遭遇出来て良かった、とは全く思っていなかった。

（最初は自殺行為かと思っていましたが……まだ、他にもヴァレードタイガーにだけ使うと決めた手札などを用意していれば……三割、もしくは四割ほど、可能性があったかもしれませんね）

復讐したい……そんな気持ちを、ミレアナはほんの少しだけ抱いた過去があった。
だが、それはソウスケという人間との出会いによって霧散し、救われた。

だからこそソウスケと同じく、その気持ちは解るけども、なんてことは言えなかった。