転移したらダンジョンの下層だった

千百五話 確認出来た事

「？　素手で戦うのが、あなたの戦闘スタイルなのですか」

リーダーの青年は、ソウスケが木製の武器どころか何も武器を持っていないことに疑問を持った。

「いや、そういう訳じゃないよ。後で武器の性能の差で負けたって言われても嫌だからさ」

「そうですか……確かに、理に適ってまっすね」

青年は、どこまでも冷静だった。
世の中、どこにでもそういった面倒な人間がいるのは事実。

自分が、友人たちがそういった人種だと思われるのは深いではあるものの、ソウスケと青年たちが出会ったのは、今日が初めて。

当然ながら、どういった人物なのか詳しい部分は知らない。

（この人は、間違ったことは、言っていない）

ただただ冷静にソウスケの考えを受け止め、怒らず……殺意だけを燃やす。

「開始の合図は私が行います。それでは………………始め」

静かに、そして小さくも響く開始の声が耳に入る。

「ぅおらッ！！！！！！」

開幕一戦は鬼人青年の大剣による斬撃……ではなく、女性エルフの矢。

頭部に向けて二つの矢が放たれた。

「よ、ほっと」

ナイスズレにより、二つの矢と大剣による斬撃が被らない。
だが、ソウスケは特に表情を変えることなく二つの矢を素手で捉え、大剣を回避。

「シッ！！！！」

「ハアアアアアアッ！！！！！」

避けた先には、貴族令息が細剣から放った風の刺突に……虎人女性が放った剛槍が再び、ナイスズレをしながらソウスケに迫る。

「よい、しょ」

「っ！！！！！　っ！？」

魔力を纏った手で風の刺突を撫でて逸らし、本気で貫こうと放たれた剛槍の先を掴んだソウスケ。

虎人女性はそのまま押してソウスケの体勢を崩そうとするが、ピクリとも動かず……逆にそのまま持ち上げられてしまい、武器として振り回される。

「「っ！！！？？？」

跳躍し、ソウスケに向けて大斧を振り下ろそうとしていた怪力ロリに向けてぶん回され、衝突。
ソウスケが勢いのまま手を離したことで、二人ともそのまま吹き飛んでしまった。

「ほいっと」

上下に風槍、左右からは岩槍。
ソウスケを囲うように四つの攻撃魔法が放たれるも、それらをソウスケは上下左右に拳を空に叩きつけ、粉砕。

学生たちからすれば、目を疑う様な光景ではあるが、本命はそれではない。
風槍、岩槍に意識が集中した瞬間を狙い、リーダーの青年が放つ炎の斬撃がソウスケの首筋に迫る。

「よっ、と」

「ぐっ！！！！！！！」

首筋にちりちりと熱さが迫るのを感じ、ソウスケは左手で炎斬を受け止めた。
そしてそのまま振り向くことなく右腕を適当に後ろへ振り回す。

受け止めるのと反撃がほぼ同時だったこともあり、リーダーの青年は対処が遅れ、そのまま吹き飛ばされてしまう。

「っ！！！　おい、大丈夫かよ」

「あぁ、ありがとう…………大丈夫だよ」

吹っ飛んだ先でなんとか鬼人青年が受け止め、リーダーの青年は言葉を伝えながら、まだ自身が戦闘続行であるかを確認。

（……青痣にはなってるかもしれないけど、この感じだと……ヒビも入っていない）

まだまだ戦える。
それは間違いないと確認出来た。

ただ……もう一つ、確認出来たこともあった。

「うん。まだ本気は出してないけど、ちゃんと殺すつもりで戦ってくれてるみたいだね」

当然である。
ソウスケからすれば後で文句を言われない為に提案しているだけだが、学生たちからすれば自分たちが煽られている、嘗められていると捉えられても仕方ない。

だからこそ、ソウスケの言う通りまだ本気を出してはいないが、暖まった体を全力で動かし、殺すつもりで己の得物を振るった。

しかし、どれ一つソウスケにダメージを与えることは出来なかった。
それどころか、しっかりと素手……そして魔力だけで対処された。

「まだ、それで終わりじゃないだろう。さぁ、続けて」

「えぇ……そうですね」

ますます高まる怒気や殺意を、ソウスケは平然とした表情で受け止め、学生たちに自分との差を伝えていく。