転移したらダンジョンの下層だった

千百六話 こっちも理解はしている

（基礎身体能力だけでこれか……確かに、優秀な生徒たちなんだろうな）

レイヤーズ学園の学生たちとの模擬戦？　を始めたソウスケ。
最初の攻防で全員が一通り攻撃し、ソウスケはそれらを真正面から対処してみせた。

（未来の竜殺しを、ドラゴンスレイヤーを教育する、生み出す学園か。割と本当みたいだな）

現時点では、まだBランクドラゴンを単体で殺せるだけの力は感じない。
純粋な戦闘能力に加え、狩りの能力も考慮すれば、以前ソウスケと狩り勝負を行い……結果的に惨敗したBランク冒険者、ジブラの方が優れている。

しかし、女性エルフの弓使い以外は全員ジブラより若く、将来的にソロでBランクドラゴンを仕留められる可能性は十分に秘めている。

「ッ！　フッ！！　ハッ！！！！」

「ゥオ、ラッッッ！！！」

「ロックランスっ！！！！」

連続で放たれる高速突きに、強烈な大剣により斬撃。
二人に当たらないよう……ソウスケの行動を読んだ上で放たれる岩槍。

全員が全員の動きの邪魔にならないように配慮しながらも、渾身の一撃を放てている。

（……凄いな。学生で、ここまでコンビネーションの練度が高い人たちって、いないんじゃないか？）

連携度だけであれば、ベテラン冒険者にも負けていないと感じたソウスケ。

レイヤーズ学園では、将来的には一人で竜殺しを行える者を育てるが、学園も実際問題として一人よりも複数人で一体のドラゴンに立ち向かった方が安全に討伐出来るという常識は解っている。

加えて、学園を卒業していく生徒たちは、全員が同じ職業に就くわけではない。
そのため、現場で直ぐに対して関りがない者とも連携が取れるよう、そういった点に関した授業も行われている。

（それに、俺が殺すぐらいの感じで戦ってくれって言ったら、本当に殺しに来るし、理解力？　も高い…………まぁ、単純に俺の発言に苛立っているのかもしれないけど）

リーダーである平民の青年が「後で文句を言われたくないからさ」と考えているソウスケの気持ちが解るように、ソウスケもそういう事を言われた学生たちの気持ちがある程度は解る。

（でもなぁ……明確な理由を言わなかったら、それはそれであいつクソ嘗めてんだろ！　ってイラつきそうだし……それなら、キッチリ理由を言った方が良かった……良かったよな？）

自分の判断を少し不安に思いながら、迫る複数の火矢を掴み、もしくははたき落としながら豪快な戦斧による斬撃を躱し、体が宙に浮いた瞬間に放たれた炎剣による突きを……蹴りで軌道を逸らしながら対応。

「くっ！！！」

突きの軌道蹴りによって変えられたことで転びそうになるも、なんとか耐えた平民の青年。
しかし苦虫を嚙み潰したよう表情を浮かべながら、一旦距離を取る。

既に彼らとソウスケの戦闘が始まってから二分が経過していた。
最初の攻防によって、ソウスケの言葉や態度は誇張や張りぼてではないことが解り、学生たちは本気で魔力やスキルを発動。

細剣使いの貴族令息や魔術師の貴族令嬢はマジックアイテムを使用して自身の能力を強化まで行うも、ソウスケに対して決定的な攻撃どこから掠り傷すら当てられていない。

「ふぅーー、ふぅーーーー、ふぅーーーーーー！！！！！」

七人の中でも比較的短気である鬼人族の学生は、まだ本気で目の前の男を倒したいと、殺したいと思うのであれば怒りという感情に身を任せて戦ってはならないことは解っている。

感情の爆発というのは時として必要だが、少なくともそれは今ではない。
まだそういった教師からの教えが頭に残っているからこそ、表情には零れてしまっているが、なんとか爆発せずに耐えていた。

（少しでも、少しでもあの男に隙を生み出さなければ……っ、しかし）

細剣士の貴族令息は、最終的にあの男にダメージを与えるのは自分でなくてもな構わない。
そこに繋がる過程をつくらなければならないと、いたって冷静に思考を続けるが……他のメンバーと同じく、全くもってイメージが浮かばなかった。