転移したらダンジョンの下層だった

Gai

文字の大きさ
1,205 / 1,259

千百二十九話 すり合わせ

しおりを挟む
「…………ソウスケさんは、どこかで本格的に教師として働いていた経験があるのですか?」

「えっ?」

教師として、子供たちに戦闘に関する指導を行うならという内容で、ソウスケは自分が思い付く限りの内容をジャバたちに伝えた。

そしてそれを効き終えた後、ネイトはふと思ったことを尋ねた。

因みに、ソウスケがネイトたちにあれこれ伝えている間、仕掛けようとしていたワイバーンやリザードたちは、全てザハークの手によって始末されていた。

「いやいや、そんな経験はないよ。そりゃギルドから依頼を受けて、少し学生だったり貴族の令息の臨時教師をしたりって事はあったけど」

「やはりあるじゃないですか」

「ありはするけど、そこまで大した期間じゃないよ」

ソウスケは否定するものの、彼の冒険者歴の長さを考えれば、その間に受けた臨時教師としての依頼は……それなりに多いと言えた。

前の世界で特に人に何かを教えるのが得意だったという訳ではない。
ただ、言葉だけならば伝えられるだけ。
実際に出来るかどうかは別問題……と、ソウスケは思っていた。

しかし、ソウスケたちの指導を受けてきた者たちの中で、彼に不満を持つ者は基本的にいなかった。

「そうは言いますが……」

「ですね」

「物凄く詳しかった」

「私はまだ老後の事とか考えられないけど、そういう道に進むなら、真っ先に真似しようって思えた!」

「……正直なところ、もっとあなたが語ってくれたような考えを持つ者が増えればと思った」

「ハリアルと同じく、ですね」

「そ、そっか」

本人はあくまで理想論を語っただけだが、まだ学生であるノックスたちからすれば、ソウスケはその理想論を体現できるであろう存在。

全てを実行できずとも、ソウスケにはミレアナとザハークという仲間がいる。
彼女たちが共に教師になってくれれば……間違いなくその理想論を叶えられると強く思える。

「そう言ってくれるのは嬉しけど、それを今レイヤーズ学園にいる教師たちに押し付けるなよ。俺が今言ったのは、あくまで理想論だからな」

「……けどよ、ソウスケさん。自分では解らなくても、同じ行動でも別の感覚があるって知ってれば、教えられるんだよな」

ジャバの顔には、瞳には……現在レイヤーズ学園に在籍する教師たちへの不満などは、なかった。
ただ……知っていると知らないとでは違うと、知りたいだけだった。

「…………多分、情報だけでも教師が知っててくれた方が、生徒は安心すると思う」

自分の感覚を理解してくれる者がいない。
それだけで気を病み、絶望し、下を向くような者がドラゴンスレイヤーになれるのか……というメンタル面の問題も
あるかもしれない。

ただ、そこを見落とすことで、大きな才を曇らせてしまうこともある。

(いや、でもあれか……教師たちにそこまで生徒たちのメンタルを把握しろってのは、あまりにも仕事を増やしてしまう……モンスターペアレント的な考え、か?)

ふと、あまりにも教師の負担が増える考えであったかと首を捻るも、まだまだ人生経験自体は浅いソウスケは教育に関して明確な答えを持てなかった。

「なるほどな~~~~……でも、自分が知らない感覚を覚えて、上手く説明するのは……難しそうっすね」

「その場合は、自分の感覚とすり合わせていけば良い。感覚的なアドバイスと論理的なアドバイス……片方からすれば、何言ってんだこいつ? ってなるだろうけど、同じ行動で自分の感覚と違う感覚の内容を知ってるだけで、伝えるアドバイスの内容に自信を持てると思うぞ」

「…………難しそうっすけど、頑張ってみるっす」

「ふふ、そうか」

まだ、確定したわけではない。
ジャバが引退後、老後に確実に教師の道に進むと決めた訳ではない。

ただ……臨時とはいえ教え子が新たな道を頭に置き、頑張ろうと決めた姿は……どこか嬉しさを感じるものだった。
しおりを挟む
感想 253

あなたにおすすめの小説

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.
ファンタジー
「お前の《記録》なんて役に立たない。もうついてくるな」 勇者パーティの“お荷物”扱いに耐えてきたライトは、 ついにダンジョン最深部で置き去りにされる。 追放すらできない規約のせいで、 “事故死”に見せかけて排除しようとしたのだ。 だがその死地で、ライトのスキル《記録》が進化した。 《超記録》―― 敵のスキルや魔法、動きまですべてを記録し、即座に使えるようになる最強格の能力。 生き延びたライトはレグナの街で冒険者として再出発。 努力で《成長》スキルを獲得し、 記録したスキルや魔法は使うほど強化されていく。 やがて《超記録》は最終進化《アカシックレコード》へ。 対象を見ただけでステータスや行動パターンが分かり、 記録した力を即座に上位化し、さらに合成して新たな力まで生み出す究極スキル。 一方、勇者パーティはライトを失った途端に依頼成功率が大幅に低下。 さらに魔王軍四天王の暗躍によって状況は悪化し、ついには洗脳されてライトに牙をむく。 街を襲うドラゴン、仲間それぞれの過去、四天王との連戦。 優しく努力家のライトは、出会った仲間と共に確実に強くなっていく。 捨てられた記録係が、世界最強へと進化する。 爽快無双×成長ドラマの大長編ファンタジー開幕。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

【めっさ】天使拾った【可愛ぃなう】

一樹
ファンタジー
酔っ払いが聖女を拾って送迎する話です。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...