転移したらダンジョンの下層だった

Gai

文字の大きさ
1,206 / 1,259

千百三十話 どの形で関わるか

しおりを挟む
「……以前、似た様な話をしていたな」

「ん?」

「老後の話というものだ」

現在双頭の火竜との戦いに苦戦しているノックスたちを見守る中、ザハークはふと昔の会話を思い出した。

「…………確かに、そんな話をしたかもしれないな」

「鍛冶師や、錬金術師として適当にのんびりと暮らす。もしくは、生涯現役として活動し続けると語っていたが、教師というのもやはり選択肢の一つに入っているのか?」

「いや、そんな事はないよ」

ザハークの問いに、ソウスケはあっさりとそんなことはないと否定した。

「……そうなのか?」

「うん、そうだけど……なんでそんな意外そうな顔をするんだ?」

「ソウスケさんは、誰かに何かを教えている時、楽しそうな顔をしてる時が多いからな」

「そ、そうなのか?」

「あぁ、そうだ。少なくとも、俺にはそう見える」

その場に鏡がないのだから当然と言えば当然だが、ソウスケは自分が教え子たちに何かを教えてる際の、自分の顔を見たことがない。

「そう、なんだな」

「だから、冒険者を……半分引退した後は、そういった道を辿ることも考えているのかと思ってな」

「…………教師、か」

「ソウスケさんなら、引く手あまたであろうな」

「それはどうだろうな」

「ソウスケさんが実力者であるだけではなく、教える力もあるというのは、あいつらが……これまで教えてきた者たちも、誰かに伝えるはずだ」

実際のところ、ザハークの言う通りソウスケたちから指導を受けた者たちは過剰に持ち上げて他者に伝えようとはしないものの、好意的な内容しか伝えない。

なので、もし……冒険者を半分ほど引退し、ソウスケが教師としての道を進もうとすれば、間違いなくスカウトがくる。
指導力だけではなく、万が一の際に備えての戦力としても、是非ともスカウトしたい。

「そうなれば、いずれそういった話が舞い込むだろう」

「……………………」

「いや、そうだな。ソウスケさんの場合は、自分で造った方が良いのかもしれないな」

「それは……ん~~~~…………そうしたくなる、かもしれないな」

当たり前過ぎる話だが、学園を造るというのは簡単な話ではない。

教える内容を明確にし、教材として纏め……そして、それを教えられる教師を用意しなければならない。
そして、何よりも学び舎となる校舎を造らなければならない。
教師たちの給料の確保なども考えれば、頭が真っ白になるほどの財力が必要となる。

「ソウスケさんの力が、財力があれば校舎、だったか。それを造るのも難しくはないんじゃないか」

「……校舎を造るのにいったい幾ら掛かるのか知らないけど、多分…………問題無さそうだね」

バカみたいな金額が必要なのは予想出来る。
ただ、ソウスケの懐には同じくバカみたいな金額が眠っている。

「でも……でも、仮にそういった事をやるにしても、俺は小さな校舎で、少ない生徒で十分かな」

「そうか、ソウスケさんらしいな。ただ、ソウスケさんがそういった道を辿れば、多くの……入学希望者? が訪れるのではないか」

「ネームバリューだけなら、そうなるのかな」

ただ単に冒険者として大活躍するだけではなく、戦争でもエイリスト王国側の戦闘者として活躍に活躍を重ねた。

にもかかわらず、自分の名前に引き寄せられる者がいない、そういった力はなとは言わなかった。

「けど、さっきも言ったけどあまり多いのは…………けど、そうだな。面白そうなことではある、かな。ただ、がっつり教師に回ったり、創設者? になろうとは思わない」

「ふむ。であれば、どう関わるのだ?」

「スポンサーっていうのが、一番良い形かな。後は、臨時教師として偶に授業を行うって感じ。その方が、冒険者を半分引退って形で楽しめそうだろ」

「そうだな……確かに、それぐらいが一番良いかもしれないな」

本当に、まだまだ先の話である。
ただ、ソウスケにとって新しい楽しみが生まれたかもしれない。

と、遥か未来の話が纏まりつつある中、ノックスたちは……双頭の火竜に苦戦を強いられていた。
しおりを挟む
感想 253

あなたにおすすめの小説

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.
ファンタジー
「お前の《記録》なんて役に立たない。もうついてくるな」 勇者パーティの“お荷物”扱いに耐えてきたライトは、 ついにダンジョン最深部で置き去りにされる。 追放すらできない規約のせいで、 “事故死”に見せかけて排除しようとしたのだ。 だがその死地で、ライトのスキル《記録》が進化した。 《超記録》―― 敵のスキルや魔法、動きまですべてを記録し、即座に使えるようになる最強格の能力。 生き延びたライトはレグナの街で冒険者として再出発。 努力で《成長》スキルを獲得し、 記録したスキルや魔法は使うほど強化されていく。 やがて《超記録》は最終進化《アカシックレコード》へ。 対象を見ただけでステータスや行動パターンが分かり、 記録した力を即座に上位化し、さらに合成して新たな力まで生み出す究極スキル。 一方、勇者パーティはライトを失った途端に依頼成功率が大幅に低下。 さらに魔王軍四天王の暗躍によって状況は悪化し、ついには洗脳されてライトに牙をむく。 街を襲うドラゴン、仲間それぞれの過去、四天王との連戦。 優しく努力家のライトは、出会った仲間と共に確実に強くなっていく。 捨てられた記録係が、世界最強へと進化する。 爽快無双×成長ドラマの大長編ファンタジー開幕。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

【めっさ】天使拾った【可愛ぃなう】

一樹
ファンタジー
酔っ払いが聖女を拾って送迎する話です。

処理中です...