転移したらダンジョンの下層だった

千百二十八話 老後、引退後

「ソウスケさんは、どうして鍛冶を行おうと思ったんですか」

二度目のドラゴニックバレーへ向かう途中、ノックスは気になっていた事を尋ねた。

因みに、ミレアナは今自分が造れる最高の弓をアスレアに、ネイトに杖を造るために、本当に部屋に籠って製作を行っていた。

「どうしてって言われてもな…………ん～～～～～～……………冒険者として戦い続けるだけが人生じゃない、と思ったからかな」

ソウスケは幼い頃から鍛冶を行い続け、今ほどの腕前にまで達した訳ではない。
この世界に来る際、神からスキルを貰っただけ。

確かにその時、ソウスケは戦うことだけが人生ではないだろうと、他の部分も楽しみたいと思い、鍛冶と錬金術、木工のスキルを神から貰った。
そのため、特に深い意味はないのだが……ノックスたちはなにやら勘違いしていた。

「戦いだけが、人生の全てではない、ということですか」

「いや、うん、その…………ほら、冒険者として活動し続けられるのも年齢的に限界がくるでしょ。でも、限界が来たからって何もしないのは……多分出来ないと思ってさ」

「戦いが終わった後の人生、ねぇ……考えたこともないっすね」

「ジャバたちはまだ学生だからあまり考えなくても良い…………って、あんまり歳が変わらない俺が言うのもおかしいか」

ソウスケの言葉に、教え子たちは全員頷いた。

「だよね。でも、本当の今から真剣に考える必要はないと思うよ。ただ、頭の片隅にこういう事をしたい、こんな老後を送りたいって考えを置いておくのは良いかもしれないね」

「老後……」

「引退した後ってことだよね～。ん～～～～～～」

レイヤーズ学園に通っているナディーたちには、ドラゴンスレイヤーになるという目標がある。

その目標が叶ったからといって彼らの道がそこで終わることはなく、その後もドラゴンやその他のモンスターを討伐し続ける。

年齢というリミットはあるかもしれないが、彼らはそれ以外で引退という形を考えてはいない。

「……教師、とか？」

ポロっとジャバが零した言葉に注目が集まる。

「な、なんだよ」

「いや……ジャバの口から、そういった進路を口にするとは思っていなくてな」

「私もですわ」

「うちも～～～～」

「う、うっせぇな。別に良いだろうが」

「良いんじゃないか、教師」

同級生たちの感想を受けて恥ずかしそうな表情を浮かべるジャバだが、ソウスケは彼が頭の中に浮かんだ引退後の道に対し、肯定的な言葉を口にした。

「教師っていうのは、レイヤーズ学園の教師みたいに戦いに関して教える教師のことだろう」

「そうっすね」

「そういうのは理論を知ってるだけじゃなくて、実際に経験がある人がやらないと意味がないからな。卒業して実戦を積んで、ドラゴンスレイヤーになって……もうこれ以上前線に留まれば、寧ろ迷惑を掛けてしまうかもしれないと思ったら、母校に教師として帰ってきても良いんじゃないか」

「……なるほど………………悪くは、なさそうっすね。しっかし、教師か～～～～……俺、クソ馬鹿ではないと思うんすけど、別に頭が訳じゃないんで」

レイヤーズ学園では当然ながら竜殺しの方法だけを教えている訳ではなく、定期的に筆記試験も行われている。

本人が語る通り、ジャバはクソ馬鹿……正真正銘のアホと呼ばれるほど低知能ではないが、決して頭が良い方ではない。

「教えるのが戦闘メインなら、頭の良さはそんなに気にしなくていいんじゃないか？」

「…………それもそうかもしれないっすね。だったら、何が重要視されるっすか」

教職、という引退後の進路候補に他の学生たちも興味を持ち始め、ソウスケに視線が集まる。

「基本的には、武器の扱いじゃないか」

学生たちが本気で尋ねているということもあり、ソウスケは一切緊張を感じることなく、本気で自分の思う内容を語り始めた。