転移したらダンジョンの下層だった

千百四十五話 バカに出来ない理由

（なるほど…………これは、冒険者ギルドも対応策を用意しておきたくなる訳だ）

再びドラゴニックバレーに訪れたソウスケたち。

その地に足を踏み入れた瞬間……それよりも前に、ソウスケはこれまでとは違うドラゴニックバレーの雰囲気に勘付いていた。

「っ……ソウスケさん」

「気にするな、ノックス。どうこうするつもりがあるなら、誰かしらと戦ってる筈だからな」

七人の中では、ノックスのみがドラゴニックバレーに足を踏み入れ、直ぐに普段とは違う空気に気付いた。

「さぁ、行くぞ」

何はともあれ、これまで通り適当なBランクドラゴンを探す。
複数体で行動していた場合、一体だけ残して他はソウスケとザハークが対応する。

因みに、今回は状況が状況ということもあり、ミレアナも宿に籠って弓や杖造りに没頭するのではなく、ジャバたちの護衛として同行していた。

ザハークたちの言葉もあり、ソウスケも水龍を対応出来る自信が付いてきた。
だが……周りにいる者たちの無事は約束できない。
ソウスケも蒼天のメンバーたちと赤龍の戦いを観ていたからこそ、龍の名を持つドラゴンの強さは理解していた。

（でも、この空気……水龍が元々ドラゴニックバレーに生息していたなら、最初からこの状態だった筈……何が違うんだろうな）

周囲の警戒を行いながらも、ソウスケは普段とは違うドラゴニックバレーの空気について考えていた。

（ん～～～～……寝ていたから、か？　それなら解らなくもないけど……そんな単純なもの？）

モンスター博士、ドラゴン博士ではないため、ソウスケはドラゴンに関して、龍に関して詳しいわけではないからこそ、頭の中にパッと浮かんだ考えをゴミ箱に捨てることは出来なかった。

（……そういえば、Aランクのモンスターにでもなれば、数日間……もしかしたら、一か月以上食べなくても平気なのか？　それなら、龍たちがドラゴニックバレーに元々居ても、活動を始めるまで特有の雰囲気？　を感じなかったのも理解出来る）

であれば、何故水龍はこのタイミングで目覚めたのか。
ソウスケだけではなミレアナ……学生の中では、ハリアルやネイトなどもその疑問について考えていた。

「……一旦目の前の敵に集中しようか」

「っ、あぁ」

「っ、はい！！」

本日最初の客、風竜が登場。

数人が自分と同じことを考えていると見抜き、声を掛けるソウスケ。
当の本人は考え続けるも、しっかりと周囲の警戒は行っている……ただ、ソウスケが対処しようとするよりも先に、ザハークが嬉々として駆け出し、先日自分で造った武器の威力を試そうと動いていた。

「なぁ、ミレアナ」

「何故水龍が行動を始めたか、でしょうか」

「ふふ、やっぱり同じ事を考えてたか。ミレアナは、どう思う」

「…………まず、単純に空腹になったから、とうのが考えられます」

食べて消化し、糞をする。

人間と比べれば差はあれど、食欲というのはドラゴンにもしっかりと存在する。
そのため、空腹になったから行動を始めたというのは、割とバカに出来ない推察である。

「それじゃあ、まだ起きてるだろうっていうのを考えると、まだ腹は満たされてないと」

「はい。ただ、それならもっと活発的に動いていてもおかしくありません。ですので、水龍には好みの食べ物があるのかもしれません」

「好みの食べ物、か…………ん～～～～～～……それってさ、人間も含んでるのかな」

「可能性は高いかと」

ドラゴニックバレーには森、湖もあり、手練れの存在であればドラゴン以外のモンスターも生息している。

水龍ほどの強さを持つ存在であれば、基本的にどの生物も捕食対象である。
ただ、ドラゴニックバレーに入っては出て、また入っては出ていく存在がいる。

それが冒険者……人間である。

「……強い人間なのか、魔力量が多い人間なのか……全然あり得そうだな」

モンスターが人間を殺して食べるなど、物凄く今更な話ではある。
だが、モンスターが人間の味を吟味しているとなると……また話は別であった。