スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

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千三百四十九話 長い戦い

「そこまで!!!! はぁ~~~、二人とも……って、僕も人の事は言えないか」

「はは、そういうことだ、スティーム」

試合終盤になると、アラッドはスティームの時と同じく狂化を発動し、フローレンスに関しては聖光雄化を発動。

試合は一気に加速するも、三分間という短さから、どちらかが大きな怪我を負う事態には発展しなかった。

「……やはり、そこまでしか引き出せませんでしたね」

フローレンスがそこまでと語るのは、狂気を迸らせる状態のこと。

アラッドの狂化は、他の所有者が引き出せない……鬼人化と呼べるような状態に変化することが出来る。

彼女としては、その状態まで引き出したかった。

「あれは切り札の中でも、一番の手札だ。そう簡単に切れるもんじゃない。それに…………一撃の威力なら、多分俺が負ける筈だ」

「っ? そうでしょうか」

「あぁ……おそらく、前より堅くなってる」

特殊なスキルであっても、成長することはある。

フローレンスも今回の戦争を越えたことで身体能力が上昇していたが、アラッドが感じた強さは、どれだけが要因とは思えなかった。

(溜めに溜めた一撃だと………………精霊同化までした状態なら、威力や重さは勝てないだろうな)

切れ味だけであれば、狂化を最大限まで発動した状態で羅刹を使用すれば負けない自信がある。

だが、威力……重さという点に関しては、フローレンスに上回れると感じた。

「それなら、フローレンスさんならAランクドラゴンを一撃で粉砕できる可能性があるってことだよね」

「……そうなるな。まっ、向こうがまともに当たってくれればの話ではあるけどな」

「…………ふふ。では、まともに当てられるように考えなければなりませんね」

フローレンスは……なんとなく、察した。

今、アラッドはただ思ったことを口にしたのではない。
自分が明確にそこに関しては負けたと判断したからこそ、負け惜しみの様にも感じる言葉を口にしたと。

アラッドは、自分に対してそういった感情、感覚を持っている。
それが解っただけでも、フローレンスにとっては今回の戦争で得られた大きな褒美と言えた。

「これで全員の戦いはお見せいたしましたが、大丈夫でしょうか」

「っ、はい。勿論です。本当に素晴らしいものを見させていただきました」

芸術と呼べる動きや気迫、そして……何故、彼らが今回の戦争で英雄と呼ばれるほどの活躍が出来たのか、画家は十分過ぎるほど感じ取れた。

アラッドたちに深々と頭を下げて礼を伝えた後、速足で自身のアトリエと戻り、早速作業に取り掛かる。

だが、いきなり本番に入ることはなく、男は構図から考え始めた。

ユニコーン親子とアラッド、フローレンスの時とは違い、今回は見たままの光景を描くのではない。
何試合も見させてもらったアラッドたちの戦いぶり、強さ、戦場という場所での存在感から描く必要がある。

(そういえば、フローレンス様はアラッド様には、まだ引き出し……更なる強さがあるような事を口にされてたが…………ふむ)

既に四人の試合を観た感想を記した紙に、新たな感想、情報を付け加える。

(加えて、フローレンス様はアラッド様を上回る威力の攻撃を放てる可能性がある………………しかし、四人の中で一番の闘志、獰猛さを感じたのはガルーレさんでしたね)

画家に自分たちの強さを伝える試合であるため、それぞれ試合に臨むスタンスが違った。

それでは全てを伝えられていないではないかと思われるが……アラッドが本気で戦場を駆ける姿を見せた場合、画家が失神してしまう可能性がある。

ただ……それを踏まえても、獰猛さという点に関しては、四人の中で一番ガルーレが勝っていた。

(……逆に、スティームさんが一番……騎士らしい雰囲気を感じましたね)

現役の騎士であるフローレンスを除いてそれはどうなんだとツッコまれそうではあるが、四人の中で一番スティームが騎士らしい……それが彼にとって、紛れもない感想だった。

(なんとも魅力的で、奇跡的な方々が揃ったものだ………………さて、描きましょう)

それ以上のことを考える必要はない。

最初は出来上がった絵を公爵家と侯爵家、どちらに渡すべきかという問題から始まり、それを解決するためにもう一つ、別の絵を描くだけの話だった。

だが、その四人の強さを目の当たりにした結果、画家は考えを変えた。

もう一つ……全てを振り絞り、描き切る必要がある。

「……違う」

一つ、ソファーへ違うと思った構図を捨てる。

「…………違う」

「……違う」

「……ふぅーーーーー、違う」

「…………っ、違う」

一枚、また一枚……更に一枚、もう一枚と、ソファーは多数の構図が積み重ねられていく。

画家は、適当に描いてはいない。
苛立ちこそ溜まっているが、それでも雑に描いていない。

紙は、ただではない。

男は順風満帆なエリート人生を歩んできてはいないからこそ、紙一つの重さを、大切さを知っている。

最初から、この一枚で決めるという本気の心を構えを持って取り組んでいる。
それでも……失敗が積み重なる。

「………………ここは、良いですね。それと、ここ…………こっちの、ここはありですね」

もう時間だと思い、失敗には終わったが、それでもそれぞれの良かったところを切り取り、纏めていく。

「ふぅーーーー……やってやりましょう」

長い戦いになる。
そんな予感に対し、男は疲れを滲ませながらも……笑った。
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