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四百七十六話 ようやく死に物狂い
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「本当に申し訳ない!!!!」
「す、済まなかった」
中々に増えた賭け金を回収し終えてから数時間後、アラッドはどう見ても戦えるタイプのギルド職員に声をかけられた。
その隣には若干疲弊している青年……十連戦の五人目の挑戦者である男がいた。
そして屈強なギルド職員に無理矢理頭を下げさせられ、渋々といった表情で男も謝罪の言葉を告げた。
(う~~~ん……これ、絶対に反省してないよね)
スティームは「済まなかった」という男の謝罪に、全く謝意を感じなかった。
実際に戦ったのはアラッドであり、現在謝罪を受けているのもアラッド。
全くもってスティームが口を出す場面ではないのだが……どうも納得出来ない。
「私たちの指導不足で、このバカがとんでもない失礼をしてしまった。本当に、申し訳ない!!!!!」
一応周囲に人はいないため、ドーピング行為を行った青年……トラグスが完全に反則行為を行ったと広まることはない。
「ギルド職員さん、頭を上げてください。俺は別に怒ってませんから」
「いや、しかし」
そういう問題ではない。
ギルド職員にとっては、本当にそういう問題ではないのだ。
確かにアラッドは現在冒険者という組織に身を置いてはいるが、あのフール・パーシブルの息子。
もう一つの立場を考えれば、トラグスが牢屋にぶち込まれても仕方ない。
ただ……アラッドにとっても、全くそういう問題ではなかった。
「本当に大丈夫ですから。だって、俺はあのフール・パーシブルの息子ですよ」
「???」
だからこそ、ギルド職員は猛烈に焦りを感じている。
「幸いなことに強くなるための才はあり、非常に整った環境で十五年間過ごしてきました。だから……それぐらいの手を使ってくることぐらいは想定してました」
「ッ!!!!!!」
不意に怒りの感情が襲ってくるも、恩師が頭を下げた相手。
本能的にその怒りを爆発させてはならないと解っていた。
「あの、だから……そういう問題では」
「俺にとっては想定内の問題ですよ。これは、その……自慢になってしまいますけど、同世代の二位の令息に大きな差を付けてトップに立っていた学生、フローレンス・カルロストとの勝負に勝ちました」
正確にはタイマン勝負ではなく……ギリギリではあるが、絶対無敵のクイーンとのバトルに勝利した。
その結果はアラッドの中で、一つの基準となっていた。
「彼らは俺に対して激しい怒り、殺意に近い感情を抱いていた。俺の立場などを考えれば、そういった想いを抱くのも自然です」
「……故に、こいつらがルール違反を犯してでもあなたに勝とうとするのは、至極当然、と」
「薬などを使っているならまた別問題ですけど、使用したのは強化用のポーションですよね。でしたら、個人的には死に物狂いのうちに入るかと」
アラッドとしては強化ポーションを使用して、ようやくトラグスとの試合は少し面白いと思えた。
そういった目の前の青年がどれだけ寛容な心と絶対的な自信を持ってるのかを感じ……ギルド職員は思わず「あなたの実年齢は、お幾つなんですか」と聞きそうになった。
「そういう訳なんで、特にそいつをどうこうしようとは考えてません。ただ……俺も聖人君主ではなく人なので、試合とかそういった場所以外で面倒なことをされると、骨の一本や二本は覚悟しておいてもらいたいっすね」
アラッドの立場を考えれば半殺しにされても文句は言えない為、これでもまだ優しいと脅しと言える。
(いつか……いつか絶対、公式の場で叩き潰してやる)
一応、ほんの一ミクロン程度は反省の気持ちはあるが心の中は、アラッドを公式の場でどう叩き潰すか……それしかなかった。
まだ頭を下げた状態のトラグスだが……アラッドとスティームは心の内を読んでいた。
(芯のなさは似てないけど、ちょっとだけドラングに似てるか?)
(アラッドを無視して生きた方が良い人生を送れると思うんだけどね……こういう人って、大体未来の自分は絶対に強くなってるって信じてそうだけど、その分アラッドも更に強くなってる可能性が頭に浮かんでないんだろうな)
当たり前過ぎることではあるが、アラッドはまだまだ冒険者になったばかりであり、これから数十年は異世界を旅し続けるつもりだが……三十代に突入するぐらいまでは、今までの様に強敵に挑む日々を繰り返す。
なのでアラッドの特性も相まって成長スピードは子供の頃と比べてやや遅いが、まだまだこれから強くなるのは間違いない。
(三年後ぐらいにまたアラッドに勝負を挑んできそうだけど、その時も強化用ポーションを使わないといけないぐらい差があるのかな……そうなるかもしれないと思うと、なんだかちょっと可哀想な奴に思えてきた)
先程までトラグスに対してそこそこイライラが募っていたスティームだが、ダメな頑固さや頭の悪さを知っていしまい……イライラが静まった代わりに、憐みの気持ちが湧き上がってきた。
顔を上げたトラグスは直ぐにスティームの感情を察し、再び怒りの感情が爆発しかけるも……直ぐ傍に恩師がいることは忘れておらず、運良く不発に終わった。
「す、済まなかった」
中々に増えた賭け金を回収し終えてから数時間後、アラッドはどう見ても戦えるタイプのギルド職員に声をかけられた。
その隣には若干疲弊している青年……十連戦の五人目の挑戦者である男がいた。
そして屈強なギルド職員に無理矢理頭を下げさせられ、渋々といった表情で男も謝罪の言葉を告げた。
(う~~~ん……これ、絶対に反省してないよね)
スティームは「済まなかった」という男の謝罪に、全く謝意を感じなかった。
実際に戦ったのはアラッドであり、現在謝罪を受けているのもアラッド。
全くもってスティームが口を出す場面ではないのだが……どうも納得出来ない。
「私たちの指導不足で、このバカがとんでもない失礼をしてしまった。本当に、申し訳ない!!!!!」
一応周囲に人はいないため、ドーピング行為を行った青年……トラグスが完全に反則行為を行ったと広まることはない。
「ギルド職員さん、頭を上げてください。俺は別に怒ってませんから」
「いや、しかし」
そういう問題ではない。
ギルド職員にとっては、本当にそういう問題ではないのだ。
確かにアラッドは現在冒険者という組織に身を置いてはいるが、あのフール・パーシブルの息子。
もう一つの立場を考えれば、トラグスが牢屋にぶち込まれても仕方ない。
ただ……アラッドにとっても、全くそういう問題ではなかった。
「本当に大丈夫ですから。だって、俺はあのフール・パーシブルの息子ですよ」
「???」
だからこそ、ギルド職員は猛烈に焦りを感じている。
「幸いなことに強くなるための才はあり、非常に整った環境で十五年間過ごしてきました。だから……それぐらいの手を使ってくることぐらいは想定してました」
「ッ!!!!!!」
不意に怒りの感情が襲ってくるも、恩師が頭を下げた相手。
本能的にその怒りを爆発させてはならないと解っていた。
「あの、だから……そういう問題では」
「俺にとっては想定内の問題ですよ。これは、その……自慢になってしまいますけど、同世代の二位の令息に大きな差を付けてトップに立っていた学生、フローレンス・カルロストとの勝負に勝ちました」
正確にはタイマン勝負ではなく……ギリギリではあるが、絶対無敵のクイーンとのバトルに勝利した。
その結果はアラッドの中で、一つの基準となっていた。
「彼らは俺に対して激しい怒り、殺意に近い感情を抱いていた。俺の立場などを考えれば、そういった想いを抱くのも自然です」
「……故に、こいつらがルール違反を犯してでもあなたに勝とうとするのは、至極当然、と」
「薬などを使っているならまた別問題ですけど、使用したのは強化用のポーションですよね。でしたら、個人的には死に物狂いのうちに入るかと」
アラッドとしては強化ポーションを使用して、ようやくトラグスとの試合は少し面白いと思えた。
そういった目の前の青年がどれだけ寛容な心と絶対的な自信を持ってるのかを感じ……ギルド職員は思わず「あなたの実年齢は、お幾つなんですか」と聞きそうになった。
「そういう訳なんで、特にそいつをどうこうしようとは考えてません。ただ……俺も聖人君主ではなく人なので、試合とかそういった場所以外で面倒なことをされると、骨の一本や二本は覚悟しておいてもらいたいっすね」
アラッドの立場を考えれば半殺しにされても文句は言えない為、これでもまだ優しいと脅しと言える。
(いつか……いつか絶対、公式の場で叩き潰してやる)
一応、ほんの一ミクロン程度は反省の気持ちはあるが心の中は、アラッドを公式の場でどう叩き潰すか……それしかなかった。
まだ頭を下げた状態のトラグスだが……アラッドとスティームは心の内を読んでいた。
(芯のなさは似てないけど、ちょっとだけドラングに似てるか?)
(アラッドを無視して生きた方が良い人生を送れると思うんだけどね……こういう人って、大体未来の自分は絶対に強くなってるって信じてそうだけど、その分アラッドも更に強くなってる可能性が頭に浮かんでないんだろうな)
当たり前過ぎることではあるが、アラッドはまだまだ冒険者になったばかりであり、これから数十年は異世界を旅し続けるつもりだが……三十代に突入するぐらいまでは、今までの様に強敵に挑む日々を繰り返す。
なのでアラッドの特性も相まって成長スピードは子供の頃と比べてやや遅いが、まだまだこれから強くなるのは間違いない。
(三年後ぐらいにまたアラッドに勝負を挑んできそうだけど、その時も強化用ポーションを使わないといけないぐらい差があるのかな……そうなるかもしれないと思うと、なんだかちょっと可哀想な奴に思えてきた)
先程までトラグスに対してそこそこイライラが募っていたスティームだが、ダメな頑固さや頭の悪さを知っていしまい……イライラが静まった代わりに、憐みの気持ちが湧き上がってきた。
顔を上げたトラグスは直ぐにスティームの感情を察し、再び怒りの感情が爆発しかけるも……直ぐ傍に恩師がいることは忘れておらず、運良く不発に終わった。
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