スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

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千六十九話 素直な、気持ちを

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「では、世話になった」

アラッドたちに別れの挨拶をするディーナ。

彼女は冒険者であり、パーシブル家に在籍している者ではない。
そのため、彼女は冒険者ギルドが有する戦力として移動しなければならない。

「えぇ……終わったら、また共に酒を呑みましょう」

「ふふ、そうだな」

「ワゥ!!!」

「ガゥガゥ!!」

主人たちが挨拶をする中、従魔たちも別れの挨拶と再会の言葉を交わす。

その後、アラッドは父親であるフールに呼ばれた。

「騎士たちに激励を、ですか?」

「うん。頼まれてくれないかい」

「勿論、良いですけど……わざわざ俺がしなくても、彼らの戦意は十分高まってると思いますよ」

断る理由はないが、それを自分が行う理由も見えない。

だが、そんな事はないフールは語る。

「確かに、戦意は十分高まっている。でも、アラッドの激励は十分意味があるよ。アラッドだからこそ、彼らの気持ちを更に奮い立たせることが出来る」

パーシブル家の中では、既に戦場で戦っている者たちがいる。

だが、ギーラスにルリナ、ガルアたちはそれぞれ別のところで戦い、彼らは間違いなくその組織、舞台で重要な支柱的立場を担っているが……現在、パーシブル家に居るのはアラッドのみ。

そして……他三人が頑張っていないわけではないが、四人の中で一番アラッドが過激で苛烈な激闘を乗り越えてきている。
だからこそ、伝わる思いというのが存在する。

「……分かりました」

しかし、直ぐにそれらしい内容が浮かんでこない。
現在アラッドはパーティーのリーダーとして活動はしているが、それでも仲間を奮い立たせることなどは……仲間たちが優秀だからという理由もあり、行う事がない。

(何を伝えれば……良いんだろうか)

誰かに訊くことはない。
父は、自分だからこそ意味があると言った。
であれば、誰かの意見を参考にしては、自分が激励をする意味がなくなってしまう。

その時が来るまで、アラッドは体を動かすことはなく、誰かと話すこともなく……転生してからの人生を振り返った。





「それじゃあ、最後にアラッドから一言」

訓練場に戦争に参加する騎士たちが、魔術師たちが全員集まっていた。

フールが既に彼らの士気を高めた後……アラッドの番が回ってきた。
何故ここでアラッドが? と思う者は、パーシブル家には一人もいない。

全員が、アラッドの言葉に注目した。

「…………これから、俺の素直な気持ちを伝えます」

緊張しながらも、アラッドはゆっくりと口を開いた。

「皆さんが強いことは、十分解っています。共に暮らしていたからこそ、良く解ります」

嘘ではない。
騎士たちと、魔術師たちと訓練を行うこともあり、アラッドは彼等の実力を十分理解していた。

「それでも、ゴリディア帝国も父が、皆さんが強敵だと解っているからこそ、同じく強敵をぶつけてくるでしょう」

わざわざ調べずとも解る事実。
だからこそ、ゴリディア帝国としてもフールが有する騎士団、魔術師団は警戒の対象に入っている。

「……少し話は変りますが、俺は金を持っています」

本当に話が変わり、騎士たちはこれからアラッドが何を話すのかと疑問が浮かぶ。

「今でも、多くの金が入ってきてるらしい……だから、手を失っても、脚を失っても……義手を、義足を用意出来ます」

だが、しっかりと話は繋がっていた。

「眼が無くなったとしても、義眼を……魔眼を用意します」

簡単に語るが、義手も義足も……そして魔眼など、騎士や魔術師であっても相当な貯蓄がなければあっさり決断して購入することが出来ない。

しかし……アラッドの懐に貯まりに貯まった超超超大金があれば、あっさりと購入しようと決断出来てしまう。

「全て……全員分、用意します」

嘘ではない。不安にさせない為の言葉でもない。

本当にそうなれば用意すると考えているのだと、アラッドの表情から伺える。

「ただ…………どれだけ、金があっても……失った命までは、どうにもならない」

「「「「「「「「「「っ……」」」」」」」」」」

彼らは、言葉を失った。

戦場に向かうのであれば、当然自分たちも死ぬ可能性がある。
それを改めて突き付けられた……だから、言葉を失ったのではない。

長い者は、もう十年以上アラッドと付き合いがある。
彼らは……そんなアラッドの声が震えるのを、初めて聞いた。

「子供っぽいって、言うのは……って、俺が言うのは、おかしいか…………戦場で、戦争で……それがどれだけ難しい、事なのかは……解ってる。それでも……俺は、あなた達に、死んでほしく、ない」

何を甘ったれた事を、と心の内で呟く者は、誰もいなかった。
確かに子供っぽい願いであり、どれだけ甘ったれた温い考えであるかは、考えるまでもない。

それでも、口にする者によって受け取り方は変る。

あのアラッドが……強く、幼い頃から聡く、前に進み続けていたアラッドが、声を震わせている。
そして………………瞳から、涙を流している。

「先程、伝えた通り。失った物が手であれば、脚であれば、眼であれば、絶対に……俺が、なんとかします。けど、命までは……どうにも、出来ない」

糸を体内に侵入させることが出来るアラッドであれば、常人が行う心臓マッサージよりも、更に効果的な心臓マッサージが行える。

だが、それはその者が近くにいないと行えない。

そして……いくらアラッドが転生者といえど、同世代の者たちよりも先に進んでいようと……出来ないことはある。

「だから……死なないで、ほしい。どんな形であれ……生きて、帰ってきてください」

素直な自分の想いを伝え終え……アラッドは訓練場を後にした。
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