スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

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千百四十六話 消えない思い

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「……そろそろ出た方が良いと思うかい?」

「フール様が出陣してしまうと、他の者たちの戦果を奪う形になってしまうかと」

ゴリディア帝国との戦争が始まって三日目……フールは側近の魔術師にそろそろ出ようかという意思を伝えるも、あまりよろしくないと却下された。

魔術師の懸念は決して大袈裟な話ではない。

今現在、前線で活躍している者たちの中で言うと、やはりエリナたち五人の部隊が大きな戦果を挙げていた。
敵の中でもある程度の戦闘力が高い者を仕留め、サポートも行って同士たちがなるべく命を落とさないように立ち回っている。

そのお陰で、彼女たちは酒場で夕食を食べていると、よく冒険者や騎士からエールや夕食をご馳走されるようになった。

そして、フールの妻であるアリサ。
先日の対ライナス・スチーディ戦も大活躍だったが、その他の戦闘でも対峙するゴリディア帝国の戦闘者を素早く、的確に急所を斬り裂き貫くか、四肢に適切なダメージを与えて仕留めていく。

連日大活躍しているアリサたちだが……フールが前線に出てしまうと、それ以上の活躍をしてしまうのは間違いなかった。

「なっはっは!! それは間違いないのぅ。お主が出てしまえば、それだけで終わりかねん」

「そうでしょうか」

「そうとも。一騎当千、という言葉があったか。まさにそれほどの活躍を見せ、ここでの戦いはお主が終わらせてしまうだろう」

「嬉しい評価ですけど、なんだか高過ぎませんかね」

「ふふ、儂が解らんとでも思うたか。暴風竜を一人で討伐した頃よりも、間違いなく鋭さが増しておる」

「…………」

騎士時代の先輩の言葉に、フールは否定も肯定もしなかった。

フール自身、自分にそこまで大きな変化があるとは思っていない。
ただ……全盛期の頃と比べて、弱くなったとも思っていなかった。

「じゃから、何も起こっていないのに前に出るのは良くないじゃろうな」

「……しかし、一度も前に出ないというのもあれですからね……」

「なんじゃ。この戦場で何か起こってほしいのか?」

「えぇ。そうなれば、息子たちの方に降りかかる災難が減るかもしれないので」

「ふむ…………なるほどのぅ。それは一理ある考えじゃな」

フールの子供たちは、父親と同じ戦場にはいない。
そして、強い者たちが送り込まれるとしたら、フールはアラッドがいる戦場だろうと考えていた。

「そうなるずとも、子供たちは自分たちの力でなんとか出来ると、乗り越えてみせると言うでしょう。それは……父親として嬉しい部分ではあります。ただ、同時に心配に思う気持ちは消えません」

全員、順調に育ってくれている。
子供たちの中で一番強いアラッドも、絶えず前に進もうと歩み続けている。

もう、自分や妻が心配に思う必要はないのかもしれない。
それでも……子供たちがどれだけ歳を取り、どれだけ強くなったとしても、親というのは心配に思ってしまうもの。

(子を持つ者としては、当然の考えなのでしょう………解らなくも、ありません。しかし……)

側近の魔術師は三十に差し掛かる年齢であり、既に妻も子供もいる。
だからこそ、アラッドの子を心配に思う気持ちは解らなくもない。

ただ……それと同時に、ギーラスたちの強さを……圧倒的な機動力を活かして定期的に帰ってくるアラッドの強さもよ~~~く理解している。
アラッドの功績、武勇伝は全て聞いており、訓練場で行う戦闘光景もよく見ているため、日々前進している強さも理解していた。

(…………口には出せませんが、正直なところ……戦場でアラッド様たちとぶつかってしまう者たちの方が、哀れに思えてしまう)

Aランクモンスターをソロで討伐出来る実力者と、その相棒のAランクモンスター。
Bランクモンスターをソロで討伐出来る冒険者と、その相棒のBランクモンスター……という組み合わせが、二組。

加えて、同じくBランクモンスターをソロで討伐出来る上に、光の人型精霊を相棒に持つ超有望な騎士。

ガルシアたちと同じ少数精鋭とはいえ、総合力は彼らを間違いなく上回っている。

「しかし、そういった人物が現れれば、前線で戦っている者たちに被害が出てしまう…………そうなると、やはり私が前に出るような事態にならないのが一番か」

「この戦場のことを考えればそうじゃのぅ。とはいえ、そう上手くいくとも限らんがの」

戦争が開始してから三日目。

仮にフールがどの戦場にいるか知らなかったとしても、さすがにもうどの戦場にいるかは伝わっている。
であれば、フールという怪物を順調に進ませない為に、多少なりとも削るために他の戦場から人員を移動させてもおかしくない。

寧ろ、そうしなければ……易々と突破してください、大将の元まで来てくださいと言ってるのと同じである。

(まぁ、前に出なければならないような人物が向こうから現れれば、直ぐに気付くだろう)

一時間、二時間……数時間が経過。
時おり指示を飛ばしながら戦場を俯瞰していたフールの瞳が強く開かれる。

「……」

「フール」

「私が出るべき場面でしょう」

「ふぅーーーー……そうじゃのぅ。頼んだぞ」

「えぇ、任せてください」

フールは落ち着いた表情で目標を見定め、一切立ち止まることなく入り乱れている戦場を縫うように進み、戦争が始まってから初めて前線に現れた。
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