転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。

Gai

文字の大きさ
285 / 481

第285話 案外一番かも

しおりを挟む
(な、なんなんだ……この男は、いったい)

自分をハンマーという重鈍な武器で、削り取るという攻撃で倒した時から……薄々気付いていた。

ここ最近、自分が全く勝てていない同級生、エリヴェラ・ロランドを相手に余裕の勝利を得て……完全に気付いた。
この男は、普通じゃない。
狂戦士たちの中でも、特異な狂戦士なのだと。

桁外れ……文字通り、ステージが違う。レベルが違う。
そう感じさせる実力を、戦闘力を持つ狂戦士なのだと嫌でも気付かされた。

とはいえ、それだけであれば、まだありきたりな言葉である「世界は広い」という言葉で納得出来る部分はある。
正直なところ、ヨセフにとって二次職で聖騎士に就ける者など、伝説の様な存在だったから。

ただ、目の前にいる狂戦士の男は、ただ強いだけではなかった。

(この……男の頭の中は、どうなっているのだ)

頭の中が気になる。
そんな自分が一生思うことはないだろう、マッドサイエンティスト染みた言葉を、ヨセフは心の中で無意識に呟いた。

特異な狂戦士なのだから、戦闘に関しては普通の狂戦士の様な力任せの思考ではなく、変わった思考を持っている……そこまでなら、まだ理解が及ぶ。

しかし、先程ステラの問いに対する答えは……貴族の令息や令嬢に関する部分は、「それは貴族の令息であるお前が口にしても良いのか?」とツッコミたいところではあったが、ヨセフ自身……理解出来る部分は無きにしも非ずであった。

だが……後半の平民の子供に対する考えは、世界の礎など……戦士として生きる者がまず考えないであろう事を特異な狂戦士は多少悩みながらも、サラッと口にした。

(この男は……狂戦士、なのか?)

当然、口にはしなかった。
口にはしなかったが……ヨセフは思ってしまった。
目の前の狂戦士に対し、気持ち悪いと。

あまりにも、相反するものが混ざり合っている存在。

吐き気がする程の嫌悪感などを感じることはないが、それでも……どこか気持ち悪さをぬぐい切れなかった。

「あっはっは!!! あんた、本当に面白いね。本当に狂戦士なのかい?」

同じく、目の前のこいつは本当に狂戦士なのかという疑問は持ちながらも、三年生であるレオナ・ガンドルフォはヨセフの様にイシュドに対して気持ち悪さなどは特に感じなかった。

ただ……ただただ面白い人間だというのが、彼女の感想だった。

「本当に狂戦士に決まってるだろ。俺は戦うのは大好きだが、それだけにしか興味がないって訳じゃねぇんだ。他の狂戦士と違う部分つったら、そこが大きく関係してるのかもな」

他の狂戦士という職業に就く者たちも、戦闘以外に興味を持つ者はいるが……その興味とは、女を抱く事と酒を呑むこと。もしくはギャンブル。

正直なところ、イシュドもそれら全てに当て嵌まってはいる。

娼館にはよく通っており、十五も越えたということもあり、エールだけではなくワインやカクテルも少しずつ飲み始めている。
金は大量にあるため、中毒者たちの様にのめり込まず、適度にカジノで楽しんでいる。

ただ、イシュドはそれ以外にも料理や弟のスアラが夢中になっている錬金術や鍛冶も興味をも持っており、まだ十歳にもなっていないスアラに投資したり……世話になっている親方の鍛冶場に投資している。
他の狂戦士たちと比べれば、その辺りが大きく違う点と言える。

「なるほど~? たとえばどんな事に興味持ってんの?」

「……イシュドなら、料理ではないでしょうか」

「「「「「「「っ!?」」」」」」」

レオナからの問いに、イシュドの意外な部分と言えば料理が上手いところと、記憶に刻み込まれているイブキが、無意識にポロっと零した。

「「「ゲホっ、ゴホっ!!!」」」

「ま、マジか……あんた、料理出来んの?」

後輩数名が気管に料理が入ってしまったことでむせているのを無視し、レオナは心底驚きといった表情でそれは本当なのかと尋ねた。

「まぁな。うちの実家の厨房で働いてくれてる料理人達には負けっけど、一応それなりには出来るんじゃねぇの? まっ、貴族の令息とか令嬢は基本的に料理とか作らねぇから、案外俺が一番上手いのかもな」

貴族や王族の子供たちが料理をしない……それは、当たり前のことである。
全員がバカにすることはないが、料理が趣味であると知られれば、変わり者だと見られることが多い。

とはいえ、貴族の令息が……しかも普通ではない、特異、異質であるとはいえバーサーカーが……令嬢も含めた上で、自分の方が子供たちの中で一番料理が上手いのかもしれないと口にした。

レオナに関してはただ単純にイシュドが作る料理に興味がある、食ってみたいと思った。
しかし……他の女子面子は、イブキを除いて料理経験など本当になく、料理を作る者としてのプライドもないにもかかわらず……もの凄く上から見下ろされたと感じた。

(い、イシュドは……ど、どのレベルまで料理を、出来るのかしら?)

ステラはモンスターの討伐、素材の売却などで稼いだ金などを使って孤児院の子供たちなどに炊き出しを行っているが、それでもザ・料理……と言えるような料理ではない。

勿論、料理になると突然力の制御がコントロール不可になるような事は起こさず、食材のカットや皮むきなどは慣れたものではあるが、本格的な料理となると……そもそも知識が圧倒的に足りない。

(~~~~~~~~~~ッ!!!!!!!)

イシュドは料理が出来る。
そんな事は前から知っていたミシェラではあるが、こうも堂々と自分より上宣言をされると……何故かある筈のないプライドを刺激された様に感じる。

(イシュド君が作った料理か……今度、俺もイシュド君に作ってもらおうかな)

大和でも武家の男が料理を作ることは珍しいものの、シドウはそのような偏見を持っておらず、妹のイブキから話を聞いた時から食べてみたいと思っていた。

「あっはっは!! お前、本当に面白いな」

「そりゃどうも。けどあれだぜ、実際にやってみなきゃ、その面白いって部分に気付かないもんだぜ」

イシュドも最初こそ前世の料理を今世でも食べたいという思いから料理人達にアイデアを伝えていたが、実際に自分で作ってみてから料理を作る……調理という行為に面白さを感じた。

(ふっふ……あっはっはっはっは!!!!! こりゃまいったね。どの部分を比べても、うちの生徒たちじゃ太刀打ちできないってもんだ)

クルトは表情には出さず、心の中で大爆笑しながら、これまでイシュドが積み重ねてきたものに賞賛を送った。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

とあるギルド員の事件簿~辺境の村から来た少年が常識外れの強さをしていた件について~

東稔 雨紗霧
ファンタジー
「冒険者登録をしたいです!」 そう言って辺境にある『ハジハジ村』からやってきた少年、リク カウンターで受付をしていたトドロキは「自分の適性職が分からない」と言う彼の為にギルドで行っている適性職診断を受けさせるが、担当の職員が困った顔でトドロキに助けを求めてきて……?

【流血】とある冒険者ギルドの会議がカオスだった件【沙汰】

一樹
ファンタジー
とある冒険者ギルド。 その建物内にある一室、【会議室】にてとある話し合いが行われた。 それは、とある人物を役立たずだからと追放したい者達と、当該人物達との話し合いの場だった。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...