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五十七話 一方的な信頼

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「まだまだこっからだ!!!」

(へぇ~、あんたもそういうタイプか)

クランドもメインで使う属性は火。
実際は土も使うが、同じく火を使うタイプの接近戦ファイター。

その事実に何を思ったのか、クランドも両手に火を纏い、応戦。

(……楽しんでますね)

離れた場所から観戦しているリーゼは、アラッドが楽し気な表情をしていることもあり、ウルガラに少なからず感謝していた。

内容的にはクランドが手加減している状態だが、それでも本人はそれなりにウルガラとの模擬戦を楽しんでいた。

何も懸かっていないたかが模擬戦ではあるが、歳が近く……それなりの強さを持つ者とのバトルは、やはりどこか楽しかった。

(もっと、意識を変えろ!!)

リーゼがウルガラに感謝している中、主人の対戦相手は……更に闘志を燃やし、意識を切り替えようとしている。

パッと見ただけで、ある程度戦える人物だと解った。
数手だけのぶつかり合いで、噂通りの人物だと体感。

そして現在……改めて、格上の存在だと認識させられた。

殺しは反則、罰金、厳禁という意識で戦っている。
決闘や死合いではなく、模擬戦なのだから、その心がけは確かに大事。
その一戦を超えまいと……今までの経験が超えまいと耐えている。

だが、今まで手合わせしてきた先輩たちと同じく、自分が勝てるイメージがどんどん遠ざかっていく。

「はっ!!!!」

徐々に動きを読み、大剣を避ける際の幅が減り始める。

まるで、大剣に纏う火の揺らめきさえ読んでいるかのような回避技術。
何故そこまで冒険できる!? そう思いたくなる動きを、平然とやってのける。

(思い切りが良い。闘志が刃に乗ってる……順当に行けば、将来は最低Bランクか?)

クランドとしては、将来に期待が持てる同じルーキーだった。

「まだ、こっからだ!!!!」

そんな今噂のルーキーからの評価など知らず、ウルガラは模擬戦という戦闘ルールから、一歩踏み出した。

「っ!?」

一歩踏み出したゆえの斬撃に、クランドの表情から一瞬、楽しさが消えた。

今の一撃は、重傷に……命に届く一撃。
直ぐに闘志が更に熱く、真剣になったのを感じ取ったが、表情は直ぐ元に戻っる。

(なるほど、そういう心情か……そう思われるのは、悪くないな)

表情や目を見れば、ウルガラに他のルーキーと同じ感情がないのは、一目瞭然。

その表情にあるのは……クランドに対する信頼だった。
この人になら、こいつになら自分の全力をぶつけても問題無いという、ある意味一方的な信頼。

人が人なら「いきなりふざけんな!!!」と、怒鳴り散らかし、憤るかもしれない。

だが……ウルガラが一方的に信頼した男は、その信頼を受け止められる猛者だった。

「第三ラウンド、だな!!」

大怪我を負わせるつもりがない攻撃。
クランドは、最後に終わりへ持っていける攻撃が出来れば良いと思っていた。

カバディで点を取るために敵陣地に足を踏み入れる際……そこらか全てに全力を注ぐことは殆どない。

今でこそ殆どの面で圧倒的な力を持つクランド……大河だが、前世では優秀な選手でこそあれど、人間らしい限界がある。

攻める際、手や目、気迫に足などのフェイントを駆使し、本命の殺気が乗った攻撃を隠す。
勿論、それ以外の攻撃方法も体格上、出来なくはなかった。

しかし、得意な攻めは必殺の一手を隠す攻め。

先程までは少々形は違えど、そういう攻めを行っていた。
そろそろこの模擬戦を終わらせようと、必殺の一手を上手く隠し、放とうとしていたが……ウルガラがいきなり自分を信頼して、模擬戦という戦闘ルールから一歩超えてきたことで、考えが変わった。

「ぐっ! なろぉおおお!!!」

「よっ、おらっ!!!!」

「っ!? せりゃ!!!!」

戦況が一変。
ウルガラは変わらず攻めているが、良い攻撃を貰ってしまう場面が増えた。

多くの男性ルーキーたちは声援を飛ばすが、声援だけで実力差が埋まることはない。

「っと……俺の勝ちで良いか?」

「っ……あぁ、俺の負けだ」

渾身の横一閃を、空中で体を捻らせて回避し、着地と同時に片足を喉元に突き付けた。

完全に、小手先のテクニックでどうこう出来る状況ではなく、完全に決着が着いた。

「それまでだ。勝者、クランド!!!」

悪くない勝負が終わり、ベテラン冒険者たちや、一部のルーキー……休憩の合間に観に来ていた職員たちは、二人に拍手を送る。

そんな中で、男のルーキーたちだけが、素直に拍手を送れないでいた。

絶対にウルガラに勝ってほしかった。
冷静に考えれば、Cランクモンスターを一人で倒す様な化け物を、まだDランクのケツに殻が残るルーキーが勝てるわけがない。

ただ、今のルーキーたちにそんな事を考える余裕はなく、落胆の表情を隠せないでいた。

「かぁ~~、やっぱつぇな!! なぁ、良かったら晩飯一緒に食べるねぇか?」

「あぁ、勿論」

真剣に拳を交えれば、それはも友達……というわけではないが、クランドとウルガラはパーティーメンバーと合流し、ギルドの外へ向かった。

数人のルーキーが大きな声でバカな発言をしようとしたが、近くにいたベテランがそれに気付き、拳骨を叩きこみ、説教が始まった。
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