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八十話 心労、お察しする

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(はぁ~~~~…………仕方ありませんね)

リーゼの前の前には、好戦的な笑みを浮かべる主人がいた。

街からそう遠くない場所に、Bランクモンスターと同等の力を持つ個体が現れた。
そんな情報を聞いてしまえば……クランドがその強敵に挑まない訳がない。

(クランドが馬鹿というか、考え無しという訳ではないのでしょうけど、リーゼはこれからも苦労しそうね)

今日も酒場で共に夕食を食べていた青年たちは、直ぐにリーゼの気苦労を察した。

ギリギリため息を吐かないが、苦労が大きく表情に出ているリーゼを見て、青年たちがその心労を心配するのも無理はなかった。

(しかしBランクか……いや、逆鱗状態のワイバーンを倒したクランドなら、たとえBランクという超強敵が相手でも一人で倒せるか)

(CランクとBランクではその実力に小さくない差があるというが、逆鱗状態のワイバーンと戦っても余裕があったクランドであれば……結果的に一人では無理でも、リーゼと二人で戦えば決して勝てぬ相手ではないか)

間近でクランドの戦いぶり、リーゼの優秀さを目の当たりにしたこともあり、彼らがクランドの闘争心をバカにすることはなかった。

そして翌日、クランドは早速詳細な情報を集め始めた。

たった一人でワイバーンを倒したクランドに対して嫉妬を持つ同業者は少なくないが、それでも金を貰えば話は別。
態度を一変させ、遠目から見た情報に関して話し始めた。

「……ってところだ。ありゃどう考えても、普通のワイバーンじゃなかったな」

「なるほど。情報提供、ありがとうございます」

「良いってことよ。しっかり代金は貰ってる事だしな」

意外と柔らかい態度に、情報を求められた冒険者はクランドに対する評価を改めた。

(黒と金色のワイバーン、か……聞いたことがないな。赤、青色の肌を持つワイバーンは聞いたことがあるが、おそらく亜種ではなく希少種か)

何故、突然明らかに普通ではないワイバーンがアブスタの周辺に現れたのか、理由は分からない。

それは冒険者ギルドも同じく、上の者たちは原因解明に勤しんでいた。
もし、何かしらの理由があって竜種が頻繁に訪れるような事があれば、直ちにその原因を潰さなければならない。

竜種の素材は魔石から血まで、どれも非常に貴重で需要がある素材ではあるが、倒す為には多くの犠牲が付き纏う。
クランドが倒したワイバーンも、二人が到着するまで少なくない被害を冒険者たちに与えていた。

そして翌日に現れたワイバーンは……通常種ではなく、更には亜種でもない。
暫定的に希少種と判断された、この上なく厄介で恐ろしい存在。

既にアブスタのギルドマスターは他のギルドに、救援要請を送っていた。

ワイバーンを倒すために、それなりの冒険者が多く集まっていたが、それでも実力はそれなりといった程度。
Bランク……もしくはAランクかもしれない超難敵を倒す為には、戦力が圧倒的に足りなかった。

「ギルドは、私たちを戦力として数えていないのでしょうか」

「……珍しく怒っているな」

「別に珍しくはないと思いますが……とにかく、クランド様の実力が疑われているという事実が、気に入りません」

その言葉に嘘はない。
ただ……加えて、リーゼは自身の実力も疑われていることが、密かに気に入らなかった。

(俺もそこそこだが、リーゼも中々負けず嫌いというか、そういう部分を気にするよな)

従者の強気な意思に、主人は小さな笑みを浮かべて満足していた。

「ギルドとしては、まだ不安を感じている部分がある筈だ。一応、この国では名の知れた伯爵家の三男だからな」

「万が一死なれては困る。そういうことですね」

「そういう事だ。家の事情的には、そこまで俺は重要視する存在ではないが、冒険者ギルドとしてはお気楽に考えられない存在なのだろう」

主人の言葉に色々と否定した部分はあるが、リーゼは黙ってその事実を受け入れるしかない。

「しかし、黙って見ている訳ではないのでしょう」

「当たり前だ。希少種のワイバーン……素材としても惹かれるが、必ず俺が相手をする」

予想通りの言葉に、リーゼはもはや苦笑いを浮かべるしかない。

自分の主人は、どこまで行っても強敵との戦闘を好む、悪鬼ではないある意味狂人。
とはいえ……二人が予想していた通り、冒険者ギルドの上役としては、万が一の事態を防ぎたい。

その考えもあって、他のギルドから実力があるパーティーを呼んだ。

「やぁ」

「……どうも」

自分に声を向けられたと判断し、声が聞こえた方向に体を向ける。

(随分と整った優男だな)

場所は冒険者ギルドのロビー。
ある程度情報を集め終わり、依頼を受けずに希少種ワイバーンだけをターゲットに絞り、街を出ようとしていたところ。

「初めましてだね。僕はマルティス。Bランクパーティー、救済の英風のリーダーだ」

「Dランクのクランドです」

家の力を借りるつもりがないクランドは、敢えて家名を名乗らなかった。

「クランド君……えっと、初対面でこんなことを聞くのは失礼だと思うけど、もしかして希少種ワイバーンに挑もうなんて考えたりしてないよね」

言葉通り失礼な内容であり、完全にクランドへ喧嘩を売っていた。
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