異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai

文字の大きさ
19 / 167

第19話 身分とは

しおりを挟む
「座っても、良いかな」

「勿論です」

スラディス、マックスたちと盗賊団の討伐を終えたアストは、数日後には別の街に移っていた。

そして新たな街で生活を始めてから五日後の夜、一人の若い騎士がミーティアに訪れた。

「こちらがメニューになります」

「ありがとう…………では、このブルームーンというカクテルを頼んでも良いかな」

「かしこまりました」

ドライ・ジン、バイオレット・リキュール、レモンジュース、氷を適量を用意。

カクテルシェイカーに三つのドリンクを入れた後に氷を投入。
そしてふたを閉め……十五秒ほどシェイクし、カクテルグラスに注ぐ。

「お待たせしました、ブルームーンになります」

「っ……美しい」

騎士と思わしき男性は、なんとなく名前の響きだけでブルームーンを頼んだので、いったいどんなカクテルなのか解っていなかった。

(紫……いや、僅かに青い? こんな……お酒があるとは)

今日、男は少し自棄になりたい、酔いたいという思いで偶々耳にした屋台のバーを訪れたが……予想外の衝撃を受けた。

「ありがとうございます。こちら、かなり度数が高めになっております」

「あぁ、安心してほしい。それなりに吞める方だからね」

そう言いながら一口飲むと……高いアルコール度数、よりもその呑みやすさに二度目の驚きを体感。

「……これで、度数が高いんだね」

「個人的に、後から効いてくるカクテルかと」

「なるほど……呑み過ぎ注意、ということだね」

「その通りです」

とはいえ、男は酔いたい気分。
酔わせてくれるカクテルは非常に好都合だった。

そしてお通し、ドライフルーツの後にピザを提供した後……男性騎士、タルダ・ファーレンの口から愚痴に近い言葉が零れた。

「何故…………この世には、身分というものがあると思いますか」

「…………」

タルダからの質問に対し、アストにはアストなりの考えがあった。
ただ……村という狭い世界から飛び出して約三年。
平民以外の人物と出会う機会が多少なりともあり……目の前の人物が、貴族であることは薄々気付いていた。

(……ふ、不敬罪にならないよな?)

そもそもこういった質問をしてくる時点で、身分という存在に不満があるのだろうと考え……意を決して口を開いた。

「昔……はるか昔、まだ国という概念すらなかった時代に、力を持つ者たちが、明確に自分は他の者たちとは違うという存在を欲したところが、始まりではないかと」

「なるほど。自己顕示欲、というものですね。では、その力を持つ者たちの中でも、更に格差は必要だと、思いますか」

「……学が足りない身ではありますが、土地が……国が豊かになるには、競争性が必要かと。故に、力を持つ者たちにも高め合う差を作ったのかと」

「高め合う、ですか。そうですね…………そういった考えから、生まれたのかもしれませんね……すいません、もう一杯同じのを頂けますか」

「かしこまりました」

ブルームーンが気に入ったのか、再度注文するタルダ。

(それなりに吞めるんだろうけど、アルコール度数が二十五以上のカクテルを連続、か……いきなりぷつっと、電池が切れるかもな)

とはいえ、暴飲暴食をしているようには見えないため、注文された通りに再度ブルームーンを作る。

「お待たせしました」

「……ふぅ~~~。良い味だ…………店主、マスターは恋愛を経験したことは、ありますか」

「恋愛ですか……恋心を抱いたことは何度かありましたが、真剣にその感情に向き合った事は、まだありません」

生まれた村に、五歳ほど歳上の女性がおり、彼女が年頃の女性になると……前世では二十二歳であったアスト(錬)も、綺麗だなと思い始めた。

そして昼は冒険者、夜はバーテンダーとして活動すようになり始めれば、当然自分より歳上の女性や……魅力的な同年代の女性とも出会う機会があった。
しかし、本業がバーテンダーであるアストは、同じ街には基本的に何か月も居続けないと決めており、特定の拠点を持たない。

独特な生活を送っていることもあって、そもそもそういった存在を作らないと決めていた。

「そうなんだね。僕には……長年、思い続けてる子がいるんだ」

タルダはぽつぽつと語り始めた。
自分は子爵家の令息で、長年思い続けている女性は侯爵家の令嬢。

今自分は騎士であり、侯爵家の令嬢は団に属する魔法使いとして活躍している。
思いを伝えるだけで、叶うほど甘いものではないと解っている為、相応しい男になるため日々精進して功績を得ようと前に進んでいる。

それでもここ最近……どこまで頑張り続ければ良いのか分からず、終わりの見えないゴールが苦しく感じ始めていた。

(……軽く視た感じ、全く弱くない。寧ろ、年齢は……二十歳頃? 俺と殆ど変わらないことを考えれば、十分強いというか…………もしかして、スラディスさんやマックスさんよりも強い、か?)

実際に手合わせして強さを体感したわけではないが、アストから見て……何故、この騎士がここまで悩んでいるのか解らなかった。

だが、自分は平民で、目の前の男性騎士は子爵家の令息。
自分には解らない悩みがあるのだと、無理矢理納得させる。

(漫画家がようやく連載開始したけど、これから上手くいくか否かが全く解らない……一年は耐えたけど、この先どうなるか解らない……みたいな感じなのか?)

これまで恋愛相談は何度も受けて来たアスト。

しかし、前世も含めて一般人……平民という立場であったため、貴族たちの恋愛に関しては良いアドバイスが中々出てこなかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

処理中です...