執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai

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第124話 中に居た

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「では、行ってきますわ」

「あぁ。存分に学んできなさい」

本日、ルチアが屋敷を離れ、王都にある学園へ向かう。
既に入学試験は受け終えており、ルチアは見事合格。

今年の春から、中等部の一年生として学園生活を送り始める。

「…………」

バトムスとしては、正直どうでも良いことであり、見送る時間があれば戦闘訓練を行うか、それともポーションを造るか短剣を造っていたかったが、さすがに今回はその我儘を優先できなかった。

「そういえば、バトムスから何か一言あるかい?」

(絶対にそう言うと思ってた)

バトムスにとって、アブルシオ辺境伯家の現当主にしてルチアの父親であるギデオンとは、今でも良きビジネスパートナーであり、偶に友人の様に紅茶を飲みながらあれこれ話したりする。

ただ、こういった部分があると知っているからこそ、突然の流れに驚くことはなかった。

「……………………怪我は良いとして、病気にはならないように気を付けろよ」

「っ!!?? …………そ、そうですわね。解りましたわ」

騎士としての道へ進むために学園へ向かうのだから、怪我をするのは致し方ない。

しかし、病気は怪我より治すのが面倒であるため、掛かるに越したことはない。
それはルチアも解っているが、それをあのバトムスから伝えられるとは思っておらず、面食らった顔を浮かべた。

「ふふ。もしかして、バトムスはお嬢様が屋敷から離れて寂しいのか?」

見送りを終えると、騎士の一人がそんな言葉を掛けてきた。

「何言ってるんですか。そんな事ある訳ないでしょう」

心外だ言わんばかりの表情を浮かべるバトムス。

彼にとって邪魔な存在……とまでは言わないものの、面倒な存在であることに今でも変わりはない。

「けど、珍しく優しい対応だったじゃないか」

「それはあれですよ。お嬢がこれまで頑張ってるのは知ってるし、これから頑張らなきゃいけない環境に放り込まれるだろうっていうのを知ってるからですよ」

ルチア本人が自ら進んだ道であるのは間違いない。
それでも、学園に入学すれば同じ道に進む者たちと、これまで以上に比べられることになる。

本人が望んで進んだ道であったとしても、楽な道ではないことは容易に想像出来る。

だからこそ、バトムスは真っ当な言葉を送ったのだった。

「そうだね。学園に入学すれば、ライバルがたくさんいるからね~~」

騎士の言葉に、他の男性騎士が学生時代を思い出しながらうんうんと頷く。

「俺は色々とやってますけど、別にそういう存在はいませんからね……だから、普段通り小バカにするのは違うと思って」

戦闘訓練に、鍛冶、錬金術……偶に料理。

手広く経験を積んでいるバトムスだが、その道に関して特にライバルと呼べる存在はいない。
バトムスが圧倒的な実力を有しているからという理由ではなく、基本的に一人で進んでいるからこそ、比べ合う者がいない。

やりたい事を自由にやりたい環境を望むバトムスからすれば、まさに理想の状態ではある。

「なるほどね……まっ、夏休みとかになったら帰省するだろうから、そんなに寂しがらなくても大丈夫」

「いや、だから寂しがってませんから」

何度も同じ言葉を口にするが、騎士たちは何度もからかった。

(ったく、ガキじゃないんだから大丈夫ってのに)

十二歳は、まだまだガキである。
ただ、前世で生きていた年齢に近づき、合算すれば二十年以上が生きているからこそ、気分だけ大人になっていた。





「ふぅーーー……っし、やるか」

ルチアが学園へ向かった翌日、バトムスは変わらない日常を送る。

朝食を食べ終えたら、戦闘訓練か鍛冶、錬金術に取り組む。
昼食を食べ終えれば、同じ様に夕食時まで取り組む。

その他の日は、パーズと共に狩りへと向かう。

変わらない…………本当に変わらない、いつも通りの日常を送る。



「っ!!!!!」

「……うん。良い防ぎ方だったね」

「ありがとう、ございます」

騎士としての訓練を終え、水分補給を行うバトムス。

今日でルチアが屋敷を離れてから、一か月が経つ。

「…………」

「? 俺の顔になんか付いてますか?」

「いや、うん……バトムス、本当にこう……なんともないんだね」

男性騎士はルチアが学園に入学し、屋敷から離れたことでバトムスが少しは調子を崩す、もしくは訓練中であるにもかかわらずボーっとしてしまうかもしれないと思っていた。

だが、バトムスはボーっとしてミスをすることなく、これまで通り戦闘訓練であっても鍛冶、錬金術であっても真面目に、そして楽しんで取り組んでいた。

「……ふふ、そうっすね。と言っても、意図してるっていうか……そうならなように意識してるというか」

「それじゃあ、もしかしてルチア様がいなくなって、少しは悲しんでるってこと?」

「違和感は感じてますね。だから、少なからずお嬢は俺の生活の一部に入り込んでいたんだって思いました。ただ、だからってボーっとしたりしてボケてたら、絶対にそれをお嬢に言うでしょう」

バトムスの言葉に、先程まで相手をしていた騎士だけではなく、他の騎士たちまでギクッとした表情を浮かべる。

「やっぱり。そうなるのが嫌だから、いつも以上に……頑張ろうって感じでやってるんですよ」

ニヤッと笑みを浮かべるバトムス。

だが、バトムス本人が自分の生活の中にルチアがいたと告げた……その事実に、騎士たちは何故だか笑みを零してしまうのだった。
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