執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai

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第140話 何者?

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「お金を引き下ろしたいんですが」

「……かしこまりました」

商人ギルドの受付嬢は、冒険者ギルドの受付嬢に勝るとも劣らない美女を揃えており、王都の商人ギルドに在籍している者ともなれば、そこら辺の美人が霞む……とも言われている。

そんな美女の前に、一人の獣人と魔術師、騎士を引き連れた少年が現れた。

パッと見、貴族の令息に……一応、見えなくもない。
となると、何故貴族の令息なんかが商人ギルドに? 何故商人ギルドのギルドカードを有している? という疑問が生まれる。

しかし、提出されたギルドカードは本物であり、失礼な態度を取るわけにはいかない。

「すいません、奥にある部屋でやり取りしても良いですか」

「……」

丁寧に対応しなければならない、という思いを前言撤回したくなった受付嬢。

確かに商人であれば個室を使ってやり取りすることは可能だが、それは一定以上の功績……実績を積んでいる商人が扱える場所。

しかし、少年のギルドカードはその色から、個室を扱えるほどの実績を積んでいない。

「私たちは、この家の関係者なのだ」

「っ……ふぅーーー。失礼いたしました。では、奥へ案内いたします」

ノウザスが取り出したのは、アブルシオ辺境伯家の家紋が刻まれたブローチ。

王都に在籍する受付嬢なだけあり、多くの家の家紋を頭に叩き込んでいた。

アブルシオ家は、辺境伯家というだけでも無下にできない家。
加えて……ここ十年ほどで商人たちとの関りも増えているため、規則では目の前の少年に個室を貸すことは出来ないが、受付嬢は即座に特例と判断した。

一個人が特例と判断しても良いのかと思われるかもしれないが、こういった事態に関しても上の者たちから対応内容を叩き込まれている。

(バトムス…………アブルシオ辺境伯家に、そういった名を持つ令息はいたでしょうか? それとも、分家の者?)

商人ギルドの受付嬢ということもあり、彼女は騎士が取り出したブローチが本物であると一目で見抜いた。

ただ、本物であると解ったからこそ、後ろの少年が何者なのか気になる。

今回担当した受付嬢は、受付嬢の中でも優秀な部類に入り、有名どころの貴族令嬢や令息のある程度の情報まで頭に刻み込んでいた。

そんな頭の中にも、バトムスという名前はなかった。

(ん~~~~~…………そういえば、数年前に……社交界で、従者候補なのに令息に喧嘩を売った子が、アブルシオ辺境伯家の従者候補だったような…………もしかして、その子なの?)

商人も権力者の一端であり、そういった社交界で起きた事件なども耳に入ってくる。

名前までは大きく広まっていないが、ある従者候補が主である令嬢を侮辱した令息たちを懲らしめるために……力に頼るのではなく、知略で大恥をかかせたというのは有名な話。

(……本当にそうなら、随分と重宝されてるからこその待遇……しかし、何故商人ギルドのギルドカードを?)

疑問が残ったまま、受付嬢は少年たちを防音や感知防止が完備されている部屋へと案内された。

「では、今回はどういったご用件でしょうか」

椅子に座った後、受付嬢は冷静な対応で少年に要件を尋ねる。

「お金の引き落としです」

「畏まりました。おいくらほどの引き落としを」

「黒曜金貨……四枚。それから白金貨……三百枚と、金貨を百枚」

「……………………」

まさかの額に、受付嬢は様々な感情が入り乱れ、フリーズしてしまった。

(落ち着け、落ち着け、落ち着きなさい……私の記憶が間違っていなければ、この子は黒曜金貨四枚と、白金貨三百枚、金貨百枚を引き落としたいといった……………………ふざけてるでしょ!!!!!!!!!!!)

接客のプロという側面もあるため、内心での爆発を表に出すことはなかった。

普通の額ではない。
大商人であっても、プライベートで動かせる金額ではない。

貴族の令息、令嬢であっても同じである。

(子供が動かせる金額じゃ……え………………本当に、持ってる、の?)

普通なら、付き人か護衛であろう三人が止めに入る。

しかし、三人は苦笑いを浮かべているだけで……主であろう人物を止めようとはしない。

その反応が、目の前の少年が本当にそれだけの財力を有しているではないか、という要因に思える。

そんな中、一人の従業員がドアをノック。
受付嬢はなんとか意識を引き戻し、ドアを開けて対応。

「こ、これが、その……しょ、少年? の片の、履歴です」

「あ、ありがとう……………………??????????」

慌てる同僚から受け取った情報に……受付嬢は再びフリーズ。

洋紙には、バトムスという少年が商人ギルドに預けている金額。
加えて、ここ数か月の入出金履歴が記載されていた。

(……………………この、子……な、何も、なのかしら)

預けている金額はバトムス自身が予想していた額よりも多く、今回提示した金額を引き下ろしたとしても、まだまだ莫大な財産が残る。

明らかに、普通の少年ではない。
恐ろしさすら感じる現実に直面するも……原則として、正しく対応する為の情報を得るだけならまだしも、受付嬢が商人と深く関わり、探りを入れようとするのは禁じられている。

受付嬢はなんとか混乱する頭を落ち着かせ、制御し……少年から伝えられた金額を引き下ろしに向かった。
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