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第163話 瞳に映るものは
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「………………」
(こいつ……どこ見てんだ)
事実上の決勝戦まで勝ち上がってきた男子学生の名はガルジャス・ノルナーバ。
身長は百七十後半と中等部の一年生にしては高く、体の線も中等部の生徒にしては太い。
パッと見だけでは、身体能力ではアルフォンスを上回っているように思われる。
そんなガルジャスは何度かアルフォンスと顔を合わせたことがある。
特別仲が良いという訳ではないが、それでも会えば多少話すぐらいの面識はある。
「おい、アルフォンス。どこ見てんだよ」
確かに、彼は前を向いている。
しかし、その瞳に光はなく……とても目の前にいる自分を見ているようには思えなかった。
(……これで、近づくのだろうか)
自分がどんな顔をしているのか、アルフォンスはなんとなく理解していた。
だからこそ、目の前の人物が自分に怒りを向けることは妥当であり……それが、あの二人の感情に近づくキッカケなのかと思った。
「……君には、その権利がある」
「は?」
「…………良い戦いをしよう」
それだけ告げると、アルフォンスは開始戦へと下がった。
もう少し何かを言った方が良いのかと思ったが、そもそもな話、アルフォンスは誰かを煽ることが得意ではなく……それを良しとする性格でもなかった。
(っっ!!! それが、良い戦いをしようって面かよッ!!!!!)
良い戦いをしようというのは、アルフォンスにとって口癖のようなものだった。
ガルジャスも過去に何度も言われたことがあり、その度に……いけ好かない面を浮かべやがってと思っていた。
しかし、それがアルフォンスなのだと……彼の嘘偽りのない思いなのだと解っていた。
それもあって、次第にその言葉に嫌な思いを持つことはなくなっていった。
だが、今し方アルフォンスの口から出た口癖に、彼の本心は乗っていなかった。
決して知らない中ではないからこそ、その違いが彼には解った。
(ふざけんじゃねぇぞ……今、お前の目の前にいるのは俺だろうがッッッ!!!!!!!!)
リングの上で、戦場で対峙するとなれば、元々ガルジャスはアドレアスに対して恐れを抱くことはなく、あの風格に圧倒されるないほどの胆力が備わっていた。
だからこそ、眼の光が消えている目の前のアルフォンスに対し、容赦なく怒りという感情を燃え滾らせられる。
「……ぶっ潰す」
「…………」
ぽつりと零したガルジャスの言葉に、アルフォンスが反応することはなく、ただ静かに得物を引き抜き、構えた。
「ね、ねぇ、バトムス。今のアルフォンス様って」
「あ、あぁ……どう見ても、普段とは違う」
今のバトムスには……零す言葉から、自分がアルフォンスと関りがあるということがバレてしまうのではないか、という心配が完全になくなっていた。
それほどまでに、事実上の決勝戦である舞台に現れたアルフォンスの状態に違和感を感じずにはいられなかった。
(ど、どうしたんだよアル……そんな、抜け殻みたいな…………そこが、どこか解ってないわけじゃないだろ)
本当の意味で対戦相手を見れていない。
バトムスには観客席からでもそれが解る。
「…………ねぇ」
「あぁ、そうだな……そういう事なのだろう」
「っ、二人はあいつに何があったか解るんですか」
「……おそらくだが、アルフォンス様は先ほど行われた二人の戦いが目に焼き付き、脳裏から離れないのだろう」
「そうなるほどの試合だったのは解りますけど、だからといってあんな……」
「その二人が共に倒れてしまい、決勝戦に上がってこなかった……これが何を意味するか解るか?」
「何を…………………………………………っ、もしかして」
ハッとした表情を浮かべるバトムスを見て、ノウザスとライラは小さく頷いた。
(そういう事か。それなら……けど、アルってそんなタイプだったか?)
ある程度理由を察したバトムス。
だが、察した上で……どうして? という思いが消えない。
「俺としても、少々意外な流れだ」
「そうよね~~~。強いのは強いけど、そういったタイプじゃないという印象で……紳士的な騎士、ってイメージだったのだけれどね」
「うむ……しかし、これだけは言える。この戦い、波乱は十分にあり得る」
「っっ…………やっぱり、そうですよね」
バトムスは全ての試合をしっかりと観ていた。
ガルジャスは、決して運だけで準決勝にまで上がってきた学生ではない。
アルフォンスであろうと……試合に入り込めてない状態で、瞳に姿を映さない状態で倒せるほど楽な相手ではない。
(アルフォンス………………っ、俺があれこれ言えることじゃない。けど……そうすることを選んだのは、お前だ……だったら、絶対に負けんじゃねぇぞ!!!!!)
アルフォンスがルチアとラニエの戦いを観て何を感じ、何を想い……結果を見てどう思ってしまったのか……それはアルフォンスにしか解らない。
だからこそ……バトムスはルチアの時の様に、声を飛ばすことはなかった。
この試合は、彼自身の手で越えなければ……勝利を掴み取らなければならない。
バトムスは一切の声を出さず、口を固く結び、握る拳に力を込めながら事実上の決勝戦を見届ける。
(こいつ……どこ見てんだ)
事実上の決勝戦まで勝ち上がってきた男子学生の名はガルジャス・ノルナーバ。
身長は百七十後半と中等部の一年生にしては高く、体の線も中等部の生徒にしては太い。
パッと見だけでは、身体能力ではアルフォンスを上回っているように思われる。
そんなガルジャスは何度かアルフォンスと顔を合わせたことがある。
特別仲が良いという訳ではないが、それでも会えば多少話すぐらいの面識はある。
「おい、アルフォンス。どこ見てんだよ」
確かに、彼は前を向いている。
しかし、その瞳に光はなく……とても目の前にいる自分を見ているようには思えなかった。
(……これで、近づくのだろうか)
自分がどんな顔をしているのか、アルフォンスはなんとなく理解していた。
だからこそ、目の前の人物が自分に怒りを向けることは妥当であり……それが、あの二人の感情に近づくキッカケなのかと思った。
「……君には、その権利がある」
「は?」
「…………良い戦いをしよう」
それだけ告げると、アルフォンスは開始戦へと下がった。
もう少し何かを言った方が良いのかと思ったが、そもそもな話、アルフォンスは誰かを煽ることが得意ではなく……それを良しとする性格でもなかった。
(っっ!!! それが、良い戦いをしようって面かよッ!!!!!)
良い戦いをしようというのは、アルフォンスにとって口癖のようなものだった。
ガルジャスも過去に何度も言われたことがあり、その度に……いけ好かない面を浮かべやがってと思っていた。
しかし、それがアルフォンスなのだと……彼の嘘偽りのない思いなのだと解っていた。
それもあって、次第にその言葉に嫌な思いを持つことはなくなっていった。
だが、今し方アルフォンスの口から出た口癖に、彼の本心は乗っていなかった。
決して知らない中ではないからこそ、その違いが彼には解った。
(ふざけんじゃねぇぞ……今、お前の目の前にいるのは俺だろうがッッッ!!!!!!!!)
リングの上で、戦場で対峙するとなれば、元々ガルジャスはアドレアスに対して恐れを抱くことはなく、あの風格に圧倒されるないほどの胆力が備わっていた。
だからこそ、眼の光が消えている目の前のアルフォンスに対し、容赦なく怒りという感情を燃え滾らせられる。
「……ぶっ潰す」
「…………」
ぽつりと零したガルジャスの言葉に、アルフォンスが反応することはなく、ただ静かに得物を引き抜き、構えた。
「ね、ねぇ、バトムス。今のアルフォンス様って」
「あ、あぁ……どう見ても、普段とは違う」
今のバトムスには……零す言葉から、自分がアルフォンスと関りがあるということがバレてしまうのではないか、という心配が完全になくなっていた。
それほどまでに、事実上の決勝戦である舞台に現れたアルフォンスの状態に違和感を感じずにはいられなかった。
(ど、どうしたんだよアル……そんな、抜け殻みたいな…………そこが、どこか解ってないわけじゃないだろ)
本当の意味で対戦相手を見れていない。
バトムスには観客席からでもそれが解る。
「…………ねぇ」
「あぁ、そうだな……そういう事なのだろう」
「っ、二人はあいつに何があったか解るんですか」
「……おそらくだが、アルフォンス様は先ほど行われた二人の戦いが目に焼き付き、脳裏から離れないのだろう」
「そうなるほどの試合だったのは解りますけど、だからといってあんな……」
「その二人が共に倒れてしまい、決勝戦に上がってこなかった……これが何を意味するか解るか?」
「何を…………………………………………っ、もしかして」
ハッとした表情を浮かべるバトムスを見て、ノウザスとライラは小さく頷いた。
(そういう事か。それなら……けど、アルってそんなタイプだったか?)
ある程度理由を察したバトムス。
だが、察した上で……どうして? という思いが消えない。
「俺としても、少々意外な流れだ」
「そうよね~~~。強いのは強いけど、そういったタイプじゃないという印象で……紳士的な騎士、ってイメージだったのだけれどね」
「うむ……しかし、これだけは言える。この戦い、波乱は十分にあり得る」
「っっ…………やっぱり、そうですよね」
バトムスは全ての試合をしっかりと観ていた。
ガルジャスは、決して運だけで準決勝にまで上がってきた学生ではない。
アルフォンスであろうと……試合に入り込めてない状態で、瞳に姿を映さない状態で倒せるほど楽な相手ではない。
(アルフォンス………………っ、俺があれこれ言えることじゃない。けど……そうすることを選んだのは、お前だ……だったら、絶対に負けんじゃねぇぞ!!!!!)
アルフォンスがルチアとラニエの戦いを観て何を感じ、何を想い……結果を見てどう思ってしまったのか……それはアルフォンスにしか解らない。
だからこそ……バトムスはルチアの時の様に、声を飛ばすことはなかった。
この試合は、彼自身の手で越えなければ……勝利を掴み取らなければならない。
バトムスは一切の声を出さず、口を固く結び、握る拳に力を込めながら事実上の決勝戦を見届ける。
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