執事なんかやってられるか!!! 生きたいように生きる転生者のスローライフ?

Gai

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第62話 師の喜びとは

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「……………………」

現在、バトムスは鍛冶場で武器が造られる場面を見ていた。
鎚が振るわれ、真っ赤な鉄を打ち……火花が飛ぶ。

熱い。
とにかく熱い。

まだ十を越えていないバトムスには、十分も滞在していれば熱さでやられてしまう様な灼熱地獄。

しかし、前世のアイデアで得た莫大な金を使い、優れた熱耐性の効果を持つマジックアイテムを装備することで、なんとかその熱さに耐えながら、師が武器を生み出す姿をじっと見つめる。

眺め、眺め……眺め続ける。
少しでも視界から得られる情報をインプットしようと、眺める。

「こんなところか」

そして数時間後、一本のロングソードが完成した。

「おぉ~~~~~…………」

完成したロングソードを色んな角度から眺め、バトムスは感嘆の声を零す。

「ふん、七十点ってところだな」

「マジっすか。こんなに凄いのに!?」

まだ造れもしないバトムスからすれば、どこに欠点があるのかすら解らない。
だが、バトムスの鍛冶の師……ハーフドワーフのジョランからすれば、会心の出来とは言えなかった。

「悪くはねぇ。売れはする。ただ、それだけの武器だ」

(……世間一般的な意見なのか、ジョラン師匠の感覚が他と違のか解らん)

改めて様々な角度から眺めるが、どこに不満があるのか、やはりバトムスには解らない。

「だよね~~~、うちもそう思う!!」

「おわっ!!!???」

「でも、親方はこれが普通だからね~~~~」

刃の輝きに惹かれるように眺めていると、いきなり肩を組まれるバトムス。

その人物は、ジョランの弟子の一人である同じくハーフドワーフの女性鍛冶師、ダリア。

「や、やっぱりそうなんすよね」

体格差ゆえに、肩を組まれている……と言うよりは、顔を胸に押し付けられているに近い形になってしまう。

黒髪のウルフヘアーを持ち、全体的に男っぽいところはあるが……胸や尻は女性らしく、ファエリナに負けない豊満な胸を持っている。
そのため、バトムスとしては離れてほしいような離れてほくない様な状況に追い込まれていた。

「ダリア、小僧を離してやれ。ちゃんと視れねぇだろ」

「は~~~~い」

惜しいような惜しくない様な状況が終わるも、バトムスは再び食い入るように出来上がった武器を眺める。

「……小僧」

「はい、なんすか?」

「金に余裕があんなら、身体能力を上げるマジックアイテムでも買ったらどうだ」

「っ!!!!!?????」

身体能力を上げるマジックアイテムの購入を勧める。
それは、バトムスに武器を造る許可を出したのと同義。

これまで作業工程を眺めること、刃を研ぐことなどは許可されていたが、実際に造ることに関しては止められていたバトムス。

まだ鉄を打つ体にはなっていない。
その判断は至極真っ当であり、バトムスもそうだろうと納得していた。

だからこそ、突然伝えられた許可に、驚きを隠せなかった。

「……ジョラン師匠、何故……急に?」

「小僧、また一つ上ったろ」

「…………かも、しれませんね」

目に見えて、という訳ではないもののジョランが語る通り、バトムスはここ最近でまた一つ強くなり、身体能力と魔力量が増した。

これまでの積み重ねもあって、バトムスの身体能力は確実に見た目にそぐわない域に達していた。

「その状態でマジックアイテムを使って上げれば、魔力に頼らずとも鎚を振るえる筈じゃ」

「そう言ってもらえるのは嬉しいんすけど、本当に良いんすか?」

実際に鍛冶を行う許可を貰えたのは、素直に嬉しい。
だが、日頃からジョランやダリアが鉄を打つ姿を見ているからこそ、自分にもそれが出来るイメージが湧かない。

「失敗するじゃろうな。何度も何度も……んで、小僧。それをお前は、今更恐れる玉か?」

多くの大人と同じく、ジョランはバトムスが多くの意味で普通の子供ではない事を見抜いていた。

当然、鍛冶師としては鉄を、モンスターの素材を無駄にするのはふざけんなという怒りが湧く。
それでも……バトムスであれば、ただ漫然と消費するのではなく、全ての失敗を経験に変えようとする気概を感じていた。

それに加えて、現時点で……ギリギリではあるものの、身体能力は鉄を打てる域に達している。
そのため、ジョランとしては今からでも経験を積んだ方が、バトムスの為になると考えた。

「……いえ」

「じゃろ。それなら、数えられんぐらい失敗しろ、悔め。そして……さっさと儂を唸らせる逸品を造れ」

許可を出したのには、もう一つ理由があった。

親方として、複数の弟子を持つジョランにとって、一番嬉しいのは…………弟子が自分を唸らせる、納得させる物を完成させた時。

許可を出したのは、決してバトムスの為だけではなく、そんな自分自身の喜びの為でもあった。

「それじゃあ、早速鍛冶場を造るよう、頼んできますね!!!!!!」

師から許可が降りた。
普段なら仕事終わりに一緒に夕食を食べるが、その事実があまりにも嬉しく……ギデオンから買い取った場所に鍛冶場を造ってもらおうという思いが高まり、抑えきれなかった。

「……ふっふっふ。やはり、あそこらへんは生意気じゃのう」

「バトムスの鍛冶場か~~~~。完成したら、遊びに行かないと!!」

「遊びに行くの良いが、ちゃんと仕事は終わらせてから行くんじゃぞ」

「うっ!! も、勿論解ってるっすよ親方~~~」

姉弟子が弟弟子を心配して色々と教えようとする。
その関係は師としても嬉しい限りだが、それはそれでこれはこれ。

自身の工房で鍛冶師として働いている以上、仕事はきっちりこなしてもらわなければならない。

ジョランは弟子に小言を言いながらも、笑みを零しながら仕事終わりのエールを呑むために弟子たちと酒場へ向かうのだった。
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