執事なんかやってられるか！！！ 生きたいように生きる転生者のスローライフ？

第63話 最も気になるのは

「やはり、ルチアさんはアルフォンス様の正妻に……少なくとも、側室候補に入っているのかしら」

貴族の子供たちの中でそれなりにホッとな話題と言えば、第五王子であるアルフォンスとアブルシオ辺境伯家の令嬢であるルチアの関係性だった。

王子自身が、有名どころの貴族と交流するということは……そこまで珍しくない。
ただ、ルチアは以前から社交界でそれなりにアルフォンスと話す中であった。
そんな中で、アルフォンスがアブルシオ辺境伯家に訪れたという話が薄っすらと広まっていた。

「どうでしょう。ギデオン伯爵と縁を深めているだけの可能性もあり得るかと」

「……しかし、先日の一件を考えますと」

とある令嬢が口にした、先日の一件とは……ルチアに対してある貴族の令息たちが陰口を口にした結果、恥ずかし過ぎる目にあったという事件。

その際に行われたルチアとアルフォンスのやり取りから、少なくともアルフォンスはルチアと誰かが対立した際……ルチアの肩を持つ可能性が高いと思われた。

実際問題として、令息三人が口にしていた内容は、ルチアに対する陰口であり、一種の嫌がらせとも取れる。
令息三人が取った行動が悪かった……そう言ってしまうのは感嘆である。

だが、だからといって成敗できるかといえば、それはまた別問題というのは貴族の世界。

「となると、アルフォンス様は強き方が好みなのでしょうか」

令嬢たちにとって、王子と婚約するというのは一種の夢。
そして平民たちと違い、王族と貴族という差はあれど、同じフィールドに立てはするからこそ……叶えられないからこその夢という訳ではない。

そして多くの令嬢たちは、自分たちが進まない未知をルチアが進んでいることを知っている。

才能があれば進められるものの、令嬢たちの大半が進められるのは、魔法の世界。
容姿や血統……肉体的な強さも一応含まれているが、魔法の才というのも婚約する上で重要視される点。

それらを積み重ねてきた存在だからこそ、令嬢であろうと魔法の才を持つ者はそれなりにいる。
だが、その中でも騎士の道に進もうとする令嬢は殆どいない。

貴族という社会が、令嬢たちを騎士の道に進むことを防いでいるという男尊女卑社会になっている……ということではない。
ただ、令嬢がより良い家に嫁ぐというのが当たり前の目標、常識となってしまっている。

そのため、令嬢たちはわざわざ花嫁以外の道に進もうと思う者が多くはない。
市場価値を高める為に戦う道に進むことはあれど、ルチアほど熱意を持ってその道に……騎士の道へ進む者は数えた方が早い。

「確かにルチアさんは強い。それは間違いない……だが、気になるのはその前」

「その前？」

「何故、あの三人は恥をかかされた」

令嬢……でありながら、男子に近い言葉遣いで話す一人の令嬢。
彼女もまた、ルチアと同じく騎士の道を進むと決めている一人。

「私はルチアさんの執事候補の方が独断で動いたと聞いていますが」

「そういえばそうでしたわね……物凄く今更と言いますか……よくあの様な行動に出れたと思ってしまいますわ」

結果だけ見れば、しっかり説明されれば、あの従者候補の行動は主を不快感から救った見事な行動だと言える。

それでも、一介の平民従者候補が取れる行動ではない。

「色々と意見はあると思う。ただ、あの場に居た私は……あの従者候補とアルフォンス様が無関係とは思えなかった」

「つまり、アルフォンス様とあの従者候補の方は、以前から交流があると？」

「少なくとも、あのアルフォンス様が興味を持たれている人物である可能性が高いと私は思っている」

令嬢らしからぬ口調で喋る彼女の実家の地位が高いということもあり、同じテーブルに座っている令嬢たちは普通ならあり得ないと思ってしまう可能性を、即座に否定出来なかった。

「……しかし、関わるにしてもどういった経緯で？」

ある令嬢の記憶が正しければ、例の社交界でルチアの従者候補として参加していた男子は、初めての参加であった。

「そこは解らない。ただ、彼は普通の従者候補ではなかった」

「そうですわね。あの行動を取れる方は、確かに普通ではありませんわ」

いくら未来の主を助けるためとはいえ、取れる行動には限度がある。
長年共に人生を歩んできた主などであればまだしも、覚悟を決めるにはあまりにも幼い。

だが、凛とした令嬢が感じた普通ではない部分は、それ以外のところにあった。

「間違いない。後、私個人としては、彼の雰囲気も気になった」

「………………もしや、並々ならぬ強さを有していると？」

凛とした令嬢の強さを知っている者は直ぐに彼女が感じた普通ではない部分を言い当てた。

「おそらく」

「そういえば、ルチアさんが屋敷の従者候補たちの中に、全く従者候補としての授業を受けない方がいる仰っていましたね」

その存在自体は、令嬢たちの間でも有名だった。

その従者候補の話をする時だけは、普段はあまり見られないルチアの姿が見れる。

ただ……当時の社交界で行われた従者候補の行動を思い返すと、とても同一人物とは思えない。
あの従者候補はいったい何なのか……この話は、この先も令嬢たちの会話の種として場を盛り上げることとなった。